雑:これからは「榎本藻」、オーランチキチキ(オーランチオキトリウム)はもう古い?
藻の話題のブログではないのですが、注目すべきニュースがありましたので、またもや「油を作る藻」についての投稿をします。
なお、記事タイトルは調子に乗りましたので、各自で脳内補正お願いします。
オーランチキチキ(オーランチオキトリウム)を超えるレベルの話題性の「油を作る藻」が登場した「かも」しれないというニュースから。
◆ある「高い性能を持つ藻」が実は存在していた
前回の記事を記事を投稿してほどなく、「油を作る藻」に関して大きなニュースがありました。
藻類バイオ燃料の研究開発合同会社の設立 ~燃料生産能力が最も高い藻の開発に成功、実用化を目指す~
http://www.ihi.co.jp/ihi/press/2011/2011-7-07/index.html
では順番に説明しましょう。
このニュースは「藻の発見」のニュースではなく、「藻から油を作る研究開発をする企業を作りました」というニュースです。
以下話題になる「藻」は、もっと昔に発見されてから独自に改良が続けられていたものですが、その存在は公表されていませんでした。このニュースによって発表されたのは以下のものです。
- ある「高い性能を持つ藻」がすでに保有していることを公表
- その「藻」の実用化に向け、企業を作りました
つまり、研究室で「この藻はどうですかね?」と言っている段階を脱していて、「この藻なら本腰を入れれば実用化できるかもしれない」のではないかという判断がされて、企業を巻き込んで実用化へ向けた研究開始のGOがされたということです。
神戸大学発ベンチャーのG&GTが、現時点で明らかになっている藻類の中で、燃料生産能力が最も高い藻(以下、榎本藻(えのもとも))の保有を明らかにしました。
「保有を明らかにした」ですから、これまでは黙って改良を続けていたのですね。また、
G&GTの顧問である榎本 平教授
その「藻」とは「榎本藻(エノモト藻)」という名前の藻で、名前の「エノモト」は大学の先生の名前をそのままつけたもののようです。
株式会社IHI(以下、IHI)と有限会社ジーン・アンド・ジーンテクノロジー(以下、G&GT)および株式会社ネオ・モルガン研究所(以下、NML)は、IHI NeoG Algae(アイエイチアイ ネオジー アルジ)合同会社を設立し、藻類バイオ燃料事業に関する技術開発を共同で実施することに合意いたしました。なお、会社設立は平成23年8月上旬を予定しており、IHIは本事業の推進のため、当初2年間で4億円の投資を行います。
チキチキ(オーランチオキトリウム)はまだ研究室での試行錯誤が続いていますから、突然、もっと先を行く「藻」が登場したことになります。
また、IHIが出資していますから、怪しい企業が何かやっているという話ではないのもポイントです。
IHI(旧石川島播磨重工)は、江戸幕府の造船所に由来し、H2ロケットや自衛隊の重要な装備、例えば海上自衛隊の艦艇やF-15のF100エンジン、F-2のF110エンジンの生産を請け負うなど、由緒ある企業です。
もちろん、担当者が全く見込みの無い話に乗せられてしまっただけの可能性はあります。でもとりあえずは、話題だけ作って逃げるような計画的インチキ話を自ら主催するようなところでは無いでしょう。
◆榎本藻(エノモト藻)とは、どのように高性能なのか
以下、その「藻」について説明をします。
先日の記事で「油を作る藻」基本的なところを説明していますので、もし読まれていない方は、先に読んでいただくようお願いします。今回の記事はその続きと補足です。
雑:オーランチキチキ(オーランチオキトリウム)は前途多難だという話
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2011/07/post-1580.html
チキチキの問題点は光合成をしないことでした。またボトリオコッカス(ボツリオコッカス)の問題点は、光合成をするものの油を作る性能が低いことでした。
しかし「榎本藻」は、以下のような特徴を持っていると発表されています。以下、上記の発表からになります
- 現時点で明らかになっている藻類の中で、燃料生産能力が最も高い
- ボツリオコッカスの一種
- 一般的なボツリオコッカスに比較して一ヶ月間で約1000倍の量に増殖
- 雑菌等の他の生物が混在する環境でも培養が可能となる堅牢性
- 生産する燃料は重油に相当する高い品質
- 性能を最大限に発揮できる培養法の開発にも成功(榎本培地)
つまり「ボツリオコッカス(ボトリオコッカス)を高性能にした」というアプローチでした。高性能な種類のボツリオコッカスを探してきたか、見つけたボツリオコッカスを品種改良で高性能化したかです。
発表では、存在が公表されている藻類で最高性能とあります。チキチキも藻類ですから、発表を素直に取るとチキチキを超えた性能ということになろうと思います。
自分で光合成をする上に、チキチキを超えた高性能の藻が出現したことになります。
なぜ高性能か、ですが、どうやら増殖速度が速いところが売りのようです。一ヶ月での増殖能力が1000倍とあります。
なお、油の生産能力は
- 藻が油を生産する能力 × 増殖性能
で決まります。実はチキチキは油を作る能力はボツリオコッカスより劣るものの、増殖速度が早いので結果的に高性能となっていました。榎本藻も、増殖能力を売りにした藻のようです。
ただし、「増殖能力が一ヶ月で1000倍」だったとして、藻が油を生み出す能力が下がっていたら1000倍ではありませんので、その点は注意が必要です。
また、「雑菌等の他の生物が混在する環境でも培養が可能となる堅牢性」ですが、これは前回の記事で書いたように、
- 閉鎖容器で培養すると確実だが、コストがかかってしまう
- 開放された場所(田んぼなど)で培養すると安く出来る可能性があるが、他の生物が入ってきて負けたり、最悪天敵に食べられてしまう
「雑菌等の他の生物に堪えうる」ということは、開放された場所で培養できる可能性があるということです。どこまで丈夫に出来ているかはわかりませんが。
光合成をする、高性能である、そして開放された場所でも栽培できるかもしれない。「エノモト藻」ならば勝谷的なプランをそのまま実行できる可能性もあるかもしれません。
また前回の記事で、藻の性能だけが問題ではないということを書きました。増やす技術、油を絞る技術、絞った後のゴミを処理する技術、色々ところで革命が起こり得ます。
今回の話では、「榎本培地」というエノモト藻を効率的に培養する方法が開発されていると発表されています。
世の中、こういう大きな可能性を感じる話は思ったよりも沢山あります。しかし、実際に良い結果につながるのは、そのうちのごく一部にすぎません。
ですから、この話が今度どうなるのかはわかりませんが(この点は重々注意してください)、もしかしたら藻のエネルギーが採算ラインに乗るという歴史的大事件が、今後起こるかもしれません。
関連記事:
雑:オーランチキチキ(オーランチオキトリウム)は前途多難だという話
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2011/07/post-1580.html
雑:オーランチキチキ(オーランチオキトリウム)は、なぜ画期的か?
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2011/07/post-5f49.html
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
培養方法や油抽出方法や排出物や油の成分などの比較は置いておいて、単純に油の生産性を比較してみました。
オーランチキチキの倍化時間は
10℃:12.0時間
20℃: 4.2時間
30℃: 2.1時間
ボトリオコッカス(榎本藻)だと1カ月で4000倍なので、倍化時間は63時間くらいでしょうか。
20℃の水で培養した場合、15倍くらいのオーランチキチキの方が早いです。
オーランチキチキの油量は、ボトリオコッカスの3分の1なので、それでも5倍の生産量になります。
まだ、オーランチキチキに分がある気がします。
投稿: momo | 2012/01/23 13:25
チキチキで日本の石油を賄うには1m水深で2万haが必要ですが、耕作放棄地の5%の広さがあれば十分です。
埼玉県の面積が37.98km2。耕作放棄地の面積が38.6km2
とほぼ同じということを言ったのでは?
それから、藻を大量発生させる事は可能です。チキチキの餌になるかまだ解りませんが、ある方を渡邊さんに紹介したいと思っております。私もとても楽しみにしています。
投稿: | 2012/01/23 20:09
遺伝子操作でオーランチオキトリウムと榎本藻を使って光合成で炭化水素を作れないか?
投稿: イソッチ999 | 2014/10/31 14:49