475 ドコモのLTEに関する「二つの悩み」:他国のLTE周波数帯とHSPA+
LTEの話題。
2011年末のLTE本格攻勢開始に向けて順調にLTE網を整備しつつあるドコモですが、ドコモにはLTEに関して以前から少し「困っていること」があります。そのことについて書きます。
以下の記事から引用して説明をします。
LTEから4Gへ、発展のシナリオ・周波数再編の動きを総務省・ドコモが語る
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/event/wj2011/20110530_449304.html
基本的な記事の内容は、すでにブログで説明している内容です。しかしLTEに関して「ドコモが困っていること」が二点登場しているので、その点について書きます。
以下、ドコモが困っている二つのことについて。
◆困っていることその一:各国のLTEの周波数が(2GHz帯に)揃わない
ドコモは、各国のLTEの周波数が揃わないことに困っています。
ドコモとしては各国の周波数が揃うこと、正確には「2GHz帯」でのLTE導入が、他国で進まないことに困っています。
以下、引用は上記の記事から。
ただし、尾上氏は、各国のLTEで周波数がばらばらであることを危ぐする。日本が1.5GHz帯や1.7GHz帯、2.1GHz帯、800MHz帯を採用するところを、北米は700MHz帯を採用。欧州が2.6GHzや1.8GHz、800MHzを採用しているという。これについて尾上氏は、「LTEは従来の携帯と共存できず、新しい周波数帯が必要という思い込みがある。既存の周波数帯にLTEを入れていくことを提案していきたい」と指摘した。周波数が重なるわけにはいかないが、同じ周波数帯で隣り合うには問題はないという。
ドコモとしては既存の周波数帯、つまり第三世代で世界的に統一されている周波数帯(2GHz帯)での導入が進むことを期待しているのですが、今のところそうなっていないことに困っています。
なぜそうなっているかですが、
- 他国ではLTEは新規獲得した帯域で新規に導入されるケースが多い
- 「LTEには新しい周波数帯が必要」という思い込みがある
- 「新規獲得」の場合、必然的に既存の帯域とは異なる帯域となる
- 2GHz帯(2.1GHz帯)は「既存の帯域」
その結果、2GHz帯(2.1GHz帯)でのLTE導入が進まなさそうな点に困っているようです。
そのためドコモは
- 世界の皆さん、2GHz帯でLTEを導入しているが問題ありませんよ、皆さんも安心して真似してください
というアピールを行っています。日本では順調だから大丈夫ですよ!と。
◆揃わないと困ること
周波数統一にはドコモの損得だけが絡んでいるわけではありません
もし、世界で統一的に2GHz帯でLTEが導入されると、基地局や端末でのコストダウンが図られます。また、同じ端末が他の国でも使えるので便利になります。
例として、LTE版のiPhoneで説明してみましょう。
世界中でLTEの周波数が揃っている方がAppleとしては端末の製造が楽になります。つまり、世界中で周波数が揃っている方が、LTE版のiPhoneがより安くより早い時期に登場しやすくなります。
しかし現状のままだと日米欧でバラバラになるので、ちょっと面倒になります。色々な周波数に対応した端末を製造するか、周波数の違う地域向けにそれぞれ別の端末を製造しなければならなくなります。どちらもコストの増加につながりますし、後者だと日本版iPhoneを欧州に持って行くとLTEが使えない、というような残念なことにもなりかねません。
◆困っていることその二:HSPA+が流行っている
またドコモは、LTEへのストレートな早期移行ではなく、まずはHSPA+が導入されることがあることに困っています。
ドコモは、既存の第三世代(HSPA)からLTEへのストレートな移行が合理的であると主張しています。しかし、既存の第三世代(HSPA)から、第三世代の延命技術(HSPA+)への移行(LTEはその後にしよう)がされることがあり、これに困っています。
以下、直接には「HSPA+」の名前は出てきませんがそのようなことを言っています。
さらに「LTE World Summit 2011のプログラムになぜか書かれていた」と言いながら、2Gサービスを終了して世代交替させる秘訣を講演してきたことも紹介した。日本とは違い、ヨーロッパでは2Gサービスが残っていて、終了は考えづらい状況だという。尾上氏は、「古い技術のEvolutionをやめること」と秘訣を語ったこと、そして「同じことが3Gでも起こるので気を付けたほうがいい」と警告を伝えたことを報告した。
ヨーロッパではまだ第二世代(GSM)が広く使われており、第三世代への移行もまだ十分に進んでいません。「ヨーロッパでは2Gサービスが残っていて、終了は考えづらい状況」とあるのはそのような状況についての発言です。
これについては以前に別の記事で書いたとおり、日本と欧州の事情の差も原因です。
- 日本では第三世代(W-CDMA)と第二世代(PDC)の共存が難しいので、早期巻き取りが望ましかった
- 欧州では第三世代(W-CDMA)と第二世代(「GSM」)の共存が可能だったため、併せての利用が続いた
また、GSMは高速化などでパワーアップが続けられていました。そのような意味でも、第三世代での切実感は日本のようには高まりませんでした。
このようにGSMが延命しているのには合理的理由もあるのですが、しかし現地では世代移行が進まないことへの焦りもあります。そのため、次世代への移行が進んでいるドコモが呼ばれて講演したのでしょう。
ドコモが「同じことが3Gでも起こるので気を付けたほうがいい」と言っているのは、GSMが居座って困っているのと同じように、HSPA+に投資してしまうと第三世代が居座って後悔しますよ、と言いたいのですね。
◆HSPA+の是非
ドコモは以前から、HSPA+に対して批判的です。このことについては、以前(かなり前)にも記事にしました。
ドコモはHSPA+が嫌いらしい
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/07/616_hspa_1d00.html
ドコモの以前からの主張は以下のようなものです。
- 第三世代の改良は、少ない投資の小改良で高速化をはかるのが本来であったはず
- HSPA+は本格的な投資が必要になる。本格的な投資で既存の技術を延命するのは本末転倒である
- 性能の向上も、LTEの方が大きい
- 本格的な投資をするなら、LTEへの投資の方が結局は合理的である。特に長期的にはLTE-Advanced(真の第四世代)への移行が容易になる。
つまり「貧乏人は二度払う」ことになるだけですよ。という主張です。
しかし、HSPA+にも導入のメリットがあります(これも以前書いたとおりです)。
- LTEと第三世代は、同一の帯域で混在させて利用できない。
- そのため、第三世代を部分的にでも一度停波しないと、LTEへの基地局置き換えはできない
- 第三世代の端末はLTEの基地局とは通信できない、よって、LTE対応の端末に置き換える必要がある。
- 性能(電波の利用効率)は改善する
LTEの場合、帯域をLTE用に置き換える必要があり、端末もLTE用の端末に置き換える必要があります。
しかし、HSPA+の場合
- HSPA+と第三世代は、同一の帯域で混在させて利用できる。
- そのため、第三世代を一度停波させなくても、HSPA+への基地局置き換えが可能
- 第三世代の端末はHSPA+基地局と通信できる、よって、既存の端末は影響を受けない
- 性能(電波の利用効率)はあまり改善しないが、スペック面ではLTE並みに向上する(ハッタリなら可能ということ)
既存のインフラや既存の端末をそのまま使い続けることができる利点があります。
例えば、第三世代にのみ対応した現行端末は、LTE用の基地局とは通信できませんが、HSPA+の基地局となら通信できるので穏やかに移行できますよ、という話です。
まとめ
おそらくこれからも「ドコモの悩み」として、
- 世界で揃って2GHz帯(2.1GHz帯)にLTEを導入して欲しい
- HSPA+はやめようよ
という主張が(日本および世界に向けて)続くと思いますので覚えておきましょう。
なお、日本での各キャリアの判断は以下のようなものだと思われます。
- ドコモ:早期のLTE移行、LTEの主力は2GHz帯
- AU:800MHz帯の再編が済み次第の早期のLTE移行、LTEの主力は800MHz帯
- ソフトバンク:まずはHSPA+を導入してから後でLTEへ移行、LTEの主力は2GHz帯(か700/900かもしれない)
- イーモバイル:まずはHSPA+を導入してから後でLTEへ移行と思われる
つまり、「LTE早く始めよう」ではAUと事情が似ており、「2GHz帯に揃えよう」問題ではソフトバンクと事情が少し似ているとも言えます。
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