474 今後流行るかもしれない、超連携モバイルOS「webOS」について
モバイル世界のOSを巡る戦いが激しさを増していますが、その中で日本ではあまり話題になっていないが、これから話題になる「かもしれない」あるOSについて、少し記事を書きます。
そのモバイルOSとは「webOS」です。
◆webOSは「名前が紛らわしい」
まず最初に、webOSには「名前が紛らわしい」という大問題があるので、まず最初にその説明をします。
webOSには、これから話題にしようとしている「固有名詞:モバイル用のOS」という意味と、一般名詞としてのwebOSがあります。マーケティングとしては完全に失敗している感じです。
実際この混乱のために、余計に知名度が下がっている気もします。実際、ニュース記事で混同されていることすらあるので、ここはあえて、多めに説明をすることにします。
一般名詞の「webOS」とは、ウェブブラウザ上でパソコンのデスクトップのようなものを再現しようとする試み全般のことを言います。
つまり、アイコンがあってフォルダがあって、マウスでドラッグできて、アプリを起動するとウインドウが開いて・・というような、普通のパソコンのエクスペリエンスをウェブブラウザ上で再現しようとする試み「全般」を差す語です。
ちなみに、このような試みは「最近のJavascriptは結構色々なことができるな」と皆が思いはじめた頃から始まっていますが、結局現在でも広くは普及していません。実際、これを読んだ方のリアクションの大半は「知ってるよ」ではなく「へー、そんなのがあるんだ」だと思います。
で、今回説明するのは上記のwebOSとは別のwebOSです。区別するために正式名称は「HP webOS」となっています。なおHPは会社の名前(ヒューレットパッカード)です。確かに区別はされましたが、混同するという問題は何も解決していないように思われます。
◆webOSとは
では、携帯OSの「webOS」について説明をしましょう。
webOSとは、今でいうスマートフォン的なデバイスであった「PDA」の老舗である「Palm」が開発したモバイルOSです。
「Palm」はポケットに入れて携帯する小さな情報端末(PDA)の老舗です。PDAは色々なメーカーが発売したのですが、Palmはマシンパワーやバッテリーが非常に限られていた当時の現状を踏まえた、現実的に割り切った使いやすい端末を発表して、大変評判になります。
つまり「Palm」は一度天下をとっていたのでした。知らない?それは仕方がありません。PDAとはそもそも一般人が広く使うものではなく、限られたユーザ(ヲタとも言う)が個人使用するものだったり、業務用途で利用するものだったりしたからです。
しかしその後、Palmは時代の流れに取り残されてしまいます。ブラックベリーが登場してビジネス用途などで支持を得るようになり、そしてiPhoneが衝撃のデビューをします。その後はもう完全に流れが変わってしまいます。
先にも書いたようにPalmはかつての状況(マシンパワーやバッテリーが厳しい)では良く出来ていましたが、新しいライバルに対抗して戦わなければならない状況においては十分な力を持っていませんでした。Palmは次第に昔話で語られる存在となります。
そのような状況においてPalmは、社運をかけた新OSを開発して発表します。それが「webOS」でした。
webOSは、明らかにiPhoneを意識したマルチタッチ操作のOSで、老舗PalmがUIを作りこんだだけあって、評判もなかなか悪くありませんでした。
LinuxがベースとなっているOSで、他のモバイルOSの多くと同様にHTMLを表示するエンジンとして「webKit」が搭載されています。マルチタッチに対応している他、最初から高度なマルチタスクを備えていました。当時のiPhoneにまるで出来ないこと(今でも不完全にしかできないこと)が最初から完璧に出来たということです。
また「カード」のメタファを用いたUIになっており、画面上でカードをめくったり動かしたり重ねたりする感じで操作するようになっていて、とても使いやすいつくりになっている・・と聞いています。
搭載端末としては「Palm Pre」という一機種が発売され、北米の携帯電話会社である「スプリント」から発売されます。当時のスプリントはWiMAXバブルが崩壊して、今後どうするの状態でした。
ともかくも感心させる新OSを作り上げたという点では、土俵際で踏みとどまったPalmでしたが、Palm Preに続いて対応端末をどんどん出して完全復活を遂げることには失敗します。
そしてその後、PalmはHP(Hewlett-Packard)に買収されて、何とか命脈をつなぐことになります。
◆HPの計画:webOSで相互連携された世界の実現
私の感想ですが、webOSの評価は二つに分かれていたように思います。
一つは手遅れでダメだというもの。iPhoneとAndroidを中心に激烈な戦いが繰り広げられているモバイルOSの戦いに、独自OSなんて無理でしょという意見。
もう一つは、webOSは非常に良く出来ている今風のモバイルOSであり、それなのに「買うことが出来る」存在である。これからモバイルOSの決戦場に突入しようと考えている会社なら、今すぐ買収すべき存在であるという意見。
そして結局HP(Hewlett-Packard)が、webOSには可能性があると判断してPalmを買収することになります。HPはプリンタやパソコンの販売でおなじみのあの会社です。買収後、HPはwebOSに予算をつぎ込み、webOSの完成度を引き上げて行きます。
プリンタやパソコンの販売をしている会社?HPは一体webOSで何をしようとしているのかという疑問が沸くことになりますが、HPはどうやら「あらゆるものにwebOSを搭載する」という戦略に出るようです。
まずは、webOSの出自である「モバイルOS」としての使われ方での製品が登場しています。
HP、webOSベースのタブレット「TouchPad」と新スマートフォンを発表
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1102/10/news024.html
簡単に言うと、「webOS」で「iPad」を作りましたという感じのもの(タブレット)と、単にスマートフォンです。これは別に意外ではありません。
HPは「プリンター」にも「webOS」を搭載するぞ、と表明しています。従来のモバイルOSではあまり聞かない取り組みです。
そしてプリンターどころか、HPが発売するWindowsパソコン全てに「webOS」を搭載する、という発表も行います。
HP、来年からwebOSを全PCで採用へ
http://japanese.engadget.com/2011/03/09/webos-hp-pc/
つまり、HPからパソコンを買うとWindows上で「webOS」が動かせるようになっていますよ、という発表です。
HPは何を目指しているのでしょうか?
HPは、あらゆるものにwebOSが搭載され、それらが互いに連携するような将来像を描いているようなのです。
例えば、スマートフォンのwebOSで何かを閲覧していてパソコンの前に来たとします。そうなると、スマートフォンの画面ではなくパソコンの広い画面で閲覧したくなりますよね、webOSではそういう場合には難なくスマートフォンからパソコンへの「連携」ができることを目標にしているそうです。
このような相互連携をwebOSが搭載された様々なデバイスで行えるようにするつもりらしいのです。
つまりHPは、HPが巨大なシェアを持っている「パソコン」と「プリンタ」と、そして新興のスマートフォンやタブレットの世界との間が、webOSで相互連携された世界を実現しようとしているようなのです。
またHPは自社だけでwebOSを採用するのではなく、他社にもライセンスを提供することを計画しているようです。
HPのCEO、「webOS」のライセンス許諾について言明--D9カンファレンスで
http://japan.cnet.com/news/service/35003474/
質問に対し、同社のモバイルOS「webOS」をほかのハードウェアメーカーにライセンス提供する考えがあると述べた。
過去にPalmを買収するのでは?と言われたこともある台湾のHTCについては、積極的にライセンスするつもりであるような発言があります。なおHTCとはスマートフォンの製造で有名な台湾メーカーです。
HPがwebOSをHTCにライセンス提供するつもりがあるかという聴衆からの質問に対し、Apotheker氏は「それは確実に検討することになるだろう」と述べた。
つまりHPはwebOSで相互連携された世界を、自社製品で閉じたものにしないかもしれないということです。
◆どうして日本では知られていないの?
webOSですが、日本ではあまりなじみがありません。
最初の「Palm Pre」が北米での発売にとどまったことも原因ですが、根本的な問題として、残念ながら現在のところwebOSは「日本語化が完了していない」という大問題があります。
どうやら、その昔のPalmにおいても日本語化がなかなかなされなかったので、日本のユーザによる工夫による対応が続いた歴史があるようです。
ただPalmの場合、日本は重要な市場ではなかった可能性もありますが(漢字などの日本語対応をしても所詮日本市場でしか売れない・・とか)、HPにとっては日本市場は明らかに重要な市場です。
スマートフォンやタブレットへのwebOSの搭載だけならともかく、日本でプリンターやパソコンを売らないわけには行きません。ですから、HPが本当にwebOSに本腰ならば、遠くないうちに日本語で使えるwebOSが登場することになるはずです。
◆ゐらぬ考察
なお、機器間が互いに連携するようにする試みは大昔からあるアイディアです(あるあるネタと言って良いほど)。例えばプリンタとデジカメが、パソコンなどを介さずにその場で連携して印刷できる、というような試みは昔からありました。
また、デバイス間でのデータ連携はすでにスマートフォンの世界で戦場になりつつある分野です。iPhoneとMacの間での高度な連携機能がわかりやすい例です。
HPのこの大勝負の成否は解りません。買収前に散々言われていたように、iPhoneとAndroidの大決戦が行われているのに、いくら出来が良いからといってPalmから買ったOS程度で戦えるものではないのかもしれません。
また、他陣営とは「本陣の位置」が随分と違う点は今後のポイントになるかもしれないと思います。
例えばAndroidですが、Googleの本拠地はどこでしょう?それはネットの中です。
しかし、(少なくとも今のところは)HPの本拠地はネット上ではありません。物理的な存在としてのプリンタやPCが本拠地です。今後、HPもネット上でのサービスに軸足をシフトするようなこともあるかもしれませんが、今のところ、布陣は随分と違うことになります。
違いがあるということは、Androidと棲み分けがされる可能性もあります。HPは他社のプリンタとは圧倒的な違いを持ったプリンタを売りたいだけで、ネットでの支配力には興味が無い、Googleも物体としてのプリンタには興味が無い、とか。
また、Androidとは握手したくないがwebOSとなら握手したい勢力との連合の可能性も生まれます。本音が「プリンタ売りたい」ならば、他の家電メーカと協力できたり、また逆に、同じ目論見をAndroidで実現しようとしたメーカと激しく競うようなこともあるかもしれません。
◆まとめ
- webOSという「もう一つのモバイルOS」があります
- 一般名詞の「webOS」もあるので、大変ややこしいですが混同なきよう
- webOSはLinuxベースの、よく出来ているとされるモバイルOSです
- プリンタやパソコンでおなじみのHPが買収しました
- スマートフォンやタブレットだけでなく、プリンタやパソコンへの搭載が予定されています
- その目的は「超連携webOS」の世界の実現のようです
- webOSが勝ち残るのか、秒殺されるのかはわかりません
- 他のモバイルOSとは目的(布陣)が異なるので、他陣営と違った動きをするかもしれません
あとですが、AndroidやiPhoneばっかりの世界に窒息しそうな人、オルタナとしてのMeeGoの沈没にガッカリした人にとっては、モバイル世界を面白くしてくれるかもしれない新勢力として期待の存在かもしれません。
プリンタと連携するというHPの目論見に賛同するかどうかはともかく、純粋なモバイル用のOSとしても良く出来ていると言われています。状況を面白くする新勢力を待望する人にとっては、ありがたい存在でしょう。
また、自分で作るぜ!いじりたいぜ!という人にとっても、例えばAndroidなどと違って、Linuxがそのまま見えるそうなので、楽しいかもしれません。
そのような人達は、HTCにライセンスがされて、webOSスマホが発売される未来を想像して待ちましょう。
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