472 ドコモはLTE(Xi)を定額制にせざるを得ず、その結果起こる意外な結果とは
現在、ドコモはLTE(Xi)を、定額制ではない料金プランで提供しています。
しかし最終的には、定額制にせざるを得ない「かもしれない」という話と、定額制を維持すると何が起こりそうかについて考察をしました。
(ドコモの社長さんの発言が出てくる前に同じ内容の記事を書いていたのですが、投稿する前にの発言があったので少し切れ味が悪くなった記事です。ちょっと残念)
◆ドコモのLTE(Xi)は現在「定額ではないけれど定額」
まず現在の状況を整理しておきましょう。
ドコモは2010年の12月24日、ドコモはLTEのサービスをスタートさせました。現在は基地局整備を盛んに行っています。おそらく2011年末には、LTE最初の大攻勢が始まっているはずです。
現在はPC定額向けの端末のみが提供されています。エリア整備が進んでくるにつれて、2011年の春くらいからは、PC向け定額でLTE(Xi)の広告もなされるようになりました。とうとう売り込んできました。
今後は秋にLTE(Xi)タブレットが登場し、年末にはLTE(Xi)スマホが投入され、ドコモのLTE攻勢が本格化すると思われます。
しかし、ある点でLTE(Xi)は不評です。
まあ、細かいことを言うと電池の持ちが悪いとか、エリア整備がまだ不十分であるとか、色々問題点はあると思うのですが、これらはそのうち解消すると思われる点です。
問題となっているのは、「LTE(Xi)の料金コースは定額ではない」ことです。
ただし現在は、「LTE(Xi)は定額ではないものの、キャンペーン中につき当面は定額」となっており、ドコモに何らかの迷いがあることを伺わせる状況ともなっています。
「Xi」(クロッシィ)スタートキャンペーン http://www.nttdocomo.co.jp/campaign_event/xi_start/index.html
キャンペーン期間 2010年12月24日(金曜)~2012年4月30日(月曜)
キャンペーン適用後の月額利用料上限額
Xiデータプランにねん2 : 4,935円
Xiデータプラン : 6,405円
つまり、次の4月の終わりまではともかくも実質的に定額で、それまでにドコモはどうするのか判断することになります。
◆ドコモ、「定額制を検討している」と発表
「定額料金コースではない」点は、好意的に受け止められていないことが多いように思います。
「準定額」というような表現が用いられることは少なく、「従量制」とか、場合によっては「青天井」というような表現が使われていることもあるように思います。
実際の料金プランを確認すると、ドコモが言っているように定額制に近い料金コースであるとも思えるのです。にもかかわらず、青天井とまで言われているのは、準定額制の導入はやはり難しいと思わせる反応です。
「キャンペーンで定額」でスタートあたりから迷いは見えていましたが、とうとう公式に「定額制への変更を検討している」という発言が出てきました。
記事には色々な話題がありますが、今回はひとまずLTE(Xi)の定額問題の部分についてのみ取り扱うことにしましょう。
キーパーソン・インタビュー
冬モデル、LTE、周波数オークション――ドコモ山田社長に聞く
http://k-tai.impress.co.jp/docs/interview/20110708_459300.html
「Xi」の料金については、今年度一杯までキャンペーン料金として定額ですが、その後どうするか検討中です。ユーザーアンケートでは、「Xiの料金プランは不安。どこまで上がるかわからない」という声をいただきます。それは一理だな、ということで、
ユーザアンケートでも不評のようで、見直し作業中のようです。
そこで、従量制に代わって以下のような案が検討されているようです
一定の通信量に達すると通信速度が遅くなるものの定額、という形が考えられます。1カ月間の下旬になると基準に達して遅くなるけど、数日我慢して翌月になると元に戻る、というものですね。しかし追加料金を支払ってでも大容量動画を観たい、ということにも対応できるようにしたいと思います。
つまり以下のようになります。
- 帯域制限:一定の通信量を超えると速度制限される
- 従量制を望む人にも配慮:追加料金を払えば、帯域制限を解除できる
帯域制限を解除できるというのは面白い仕組みです。結局、課金するか制限するかしかないわけですが、ドコモはどちらも選択できるようにするつもりのようです。
また、現在の制限の基準値となっている「月間5ギガバイト」は見直されそうです。
最近では通信量が増加して、一般の方でも達することがありますので
先日の記事でも書いたとおり、スマホ的あるいはタブレット的な使い方はパケットの消費量を大きく変えつつあるので、従来の常識が通用しなくなったということであろうと思います。
少し前までは携帯他社も含めて、一部の悪質なユーザーが大量に通信しており、とでも言いたげな感じもありましたが、何のことはない、一般にもスマホが普及すると皆がパケット浪費体質になってしまいつつあります。
◆理解は得られないし、おそらく逆切れされる
先日の記事でも書いたとおり、
ケータイ(スマホ)でWi-Fi(無線LAN)の時代が来るまでの話を思い出してみる
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2011/07/473-wi-filan-b8.html
今後も通信量の増加は続くはずです。そのような意味では、定額制をなんとかしたいところでしょう。北米では定額制をギブアップしたキャリアも出てきました。
しかし、これも上記の記事に書いたとおり、準定額制(従量制)は利用者には理解してもらいにくいと思われます。
携帯電話会社の目論見としては、多量に利用するユーザの判断にのみ影響を与え、一般ユーザは「それなら私は関係ないから安心」と思わせることだと思います。理屈の上ではそうなるはずです。
しかし、一般ユーザこそ従量制に不安を感じて、結果的に単なる利用者離れを招くことにもなりかねません。他社が、うちは定額制だから安心です、とキャンペーンを張ればなおさらです。
アンケートの「Xiの料金プランは不安。どこまで上がるかわからない」はこの懸念が現実のものであることを示しているようなものです。
そもそも「定額じゃないと不安だから」を使って、無意味に定額オプションを売りこんできたのも携帯電話会社です。自分たちの都合の良い現実だけをつまみ食いすることはできないということでしょう。
また、ユーザの操作以外で発生する通信があるのに従量制にすると、トラブルの元にもなりかねません。WindowsUpdateでの通信や、Skypeが知らない間に大量に通信していた場合など、知識の無いユーザには課金に納得してもらえない可能性があります。
過去に、これを懸念させることが起こっています。
従来からある「ケータイでは定額」を誤解して、携帯をPCに接続して多量に通信し、後日とんでもない請求が来た人が、不当な請求だと携帯電話会社に逆切れする事件が相次いだことがありました。
その上、消費者団体や一部のメディア(新聞社など)が上記の争いについて、悪徳携帯電話会社に苦しめられる可哀想な消費者という風に報じたことすらあります。世間はなかなか解ってくれないのです。
◆従量制だとドコモ自身がピンチになるかもしれない
また、従量制のままだとドコモ自身がピンチになる可能性もあります。
これも以前記事にしましたが、ドコモは現在、ドコモの主力帯域である2GHz帯で第三世代用の電波を止めてLTEに切り替える、とても大変な作業を行っています。
ドコモがLTEに本腰であることはすぐわかるという話
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2011/06/485-lte-2c1b.html
細かいことは上記の記事を読んで欲しいですが、現在行っている作業は以下のような作業です。
- ただでもスマホなどで大混雑の、主力帯域の第三世代を部分的に停波
- 停波後にLTEに置き換えるが、最初は利用者が居ない
- 一時的に第三世代は混雑するが、なんとか堪える
- 利用者にLTEに乗り換えてもらって、第三世代の混雑を解消
LTEの方が電波の利用効率は高いですから、LTEへの移行が進めば、移行時に一時的に苦しむものの、その後は現在よりも楽が出来ることになります。
しかし、LTEへの移行が進まずに利用者がFOMAに留まってしまったらどうなるでしょう?ただでも混雑している第三世代をさらに混雑させるだけに終わります。自分の首が絞まるだけになります。
また、移行して欲しいユーザとはどのようなものでしょう?
トラフィックは一部の利用に集中しています。そのようなパケットを多量消費している利用者が早期にLTEに移行することこそ、ドコモにとって最もありがたい展開です。
しかして、「従量制プランのLTE」とは何でしょうか。
従量制とはあまり使わない人がうれしい料金プランです。つまり、FOMAから引っ越して欲しい人の引越しを狙い撃ちで遅らせてしまうのです。
LTE(Xi)に移行すると従量制になってしまうから、ギリギリまでFOMAの定額を使い続けよう。そう思う人が出てくるような最悪の流れになりかねません。
◆ドコモが定額制の維持を決断したら?
ドコモが定額制の維持を決断した場合、他社にも大きな影響を及ぶことになると思われます。
ドコモが定額制+帯域制限とすることを決断したとします。すると、他社も定額制を維持せざるを得なくなるのではないでしょうか。少なくとも従量制への移行は難しくなるはずです。
「わが社には安心の定額制があります」この売り文句は相当に強力です。
ドコモが定額制を止めたのなら、定額制ではないけれどエリアなど回線の品質で優れるドコモと、品質では不満はあるが定額の他社の綱引きになったり、他社も定額制を止めてしまうこともできるでしょう。
しかし、ドコモが定額制を維持した場合、エリアなど回線品質で日本最強な上に「安心の定額」となってしまいます。他社が定額制を廃止するのは難しくなるはずです。
その結果、各社共に準定額制で一息つくことは出来なくなります。その結果、インフラ整備の戦いがよりシビアに展開されることになるはずです。
基地局整備能力においても、帯域制御の上手さにおいても、いずれにおいてもドコモは他社より優れていますから、戦いはドコモ優位に進むことでしょう。
結果、ドコモがドコモ自身の当初の希望に反して定額制の維持を決断した場合、結果的にドコモが他社よりもより優位となり、利用者にとってもドコモらしさ(ドコモのインフラは実に頑丈だな)がアピールされる結末になるのではないか、と思っています。
◆まとめ
- ドコモはとうとう、LTEでの定額制維持を検討していると発表した
- 準定額制は合理的にできている面もあるが、利用者は納得しない可能性がある
- ドコモのアンケートでも利用者から不満(不安)が出ている
- 準定額制は料金請求でトラブルを起こす可能性もある
- 準定額制はヘビーユーザーのLTEへの移行を遅らせ、ドコモ自身を苦しめるかもしれない
- 定額制が維持されると、基地局建設戦争に突入する可能性がある
- 基地局建設競争になると、ドコモは他社に対して優位
また、近いうちに書くつもりのネタなのですが、現在のドコモでの「社内の考え方」に沿えばお客様が望まないことはやらない方針が取られるはずです。
つまり、従量制は不安だというユーザの声がある場合、ユーザにドコモの方針に合わせてもらうのではなく、ユーザにあわせようという声が上がる可能性が高いです。
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