471 Firefoxの「六週間」に企業から不満:リリース"される"側が確認作業に耐えらない
以前、Firefoxはなぜ突然バージョンがインフレするようになったのか(六週間ごとにバージョンアップだから)について記事を書きました。
今回はその続きの話です。
「六週間ごとにバージョンアップ」の方針について、Firefoxの企業ユーザから不満の声が上がっていること、そしてもしかすると、Firefoxのそのものの安全性にも悪影響を及している可能性もあることについて説明をします。
◆「六週間ごとにリリース」では「チェック」が追いつかない可能性
まずは、以前書いたFirefoxの記事について少し補足説明をします。
(Firefox が 2011年末には「Firefox 9」にもなるのはどうしてか?
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2011/06/479-firefox-201.html)
上記の記事を読んでおられない方は、まずは上記を読んでいただければと思います。
前回の話題のうち今回に関係する部分について再確認しましょう。
- Firefoxは今後やたらと「バージョンアップ」する
- 6週間ごとにバージョンが一つ上がるようになる
- 番号は派手に上がっても、当面は機能的に「Firefox 4」を改良したもの程度
- 今後は最新バージョンの利用が強制され、旧バージョンのサポートはすぐに打ち切られる
六週間ごとに新しいのが出てきて、そしてその度に古いものが「期限切れ」になるということでした。そしてこれは、Firefoxの開発が前に進む速度を上げることを狙った変更でした。
あまり話題が発散してもいけないので書かなかったのですが、このような方針にすると、実は困ることがあります。それは「チェック」が追いつかなくなったり不十分になる可能性があるのです。
一般的に、きちんとしたソフトウェアはリリースする前に「確認作業」を行います。間違っているままリリースされると使う人が困るからです。
どのようなことをするかというと、作ることになっている部分がちゃんと完成しているか、マズい事になっている部分(つまりバグとかセキュリティの問題など)がないかを、完成品を動作させて確認作業を行い、その結果「大丈夫です」と判断されてから、リリースをします。
実はこのような作業、ソフトウェア開発においてかなりの作業量を占めます。自動で確認すれば大丈夫だという主張も出てきがちな話なのですが、実際のところその認識は甘いでしょう(なぜそうなのかを説明しだすと長いので割愛)。
六週間ごとのリリースとなると、六週間ごとに「確認作業」をやり直す必要が生じます。そのため、確認をする人達は大変なことになります・・ないしは確認作業を端折ってリリースすることになります。端折ると、その分だけ問題点を残したままリリースされる恐れが高まります。
つまり、「チェック」が大変なことになっている可能性があります。
◆リリース"される"側が、六週間に耐えられなくなった
ここまでの話はFirefox側がなんとか工夫すれば良い話でした。
しかし、Firefox側がなんとかうまく工夫して乗り切ったとしても、その外側の人達が「六週間ごとの確認」に耐えられなくなってしまう問題があります。
Firefox 4のサポート打ち切りに企業から不満の声、MicrosoftはIEをアピール
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1106/27/news011.html
上記は、業務でFirefoxを使って何かをしている企業から、確認が追いつかなくなったという不満が出ているというニュースです。
「企業は6週間ではWebブラウザのメジャーアップデートに追い付けない」と苦言を呈した。
どういうことなのか、説明しましょう、
- 彼らは「Firefox+自分たちが用意したもの」で「業務」を行っている
- 業務なので「新しいFirefoxで動かしたら動きませんでした」では許されないことがある
- だから、動くことを確認してから使う必要がある
では、そのための「確認」で何が困っているのでしょうか。
- Firefoxそのものについては、Firefox側(Mozilla)が確認を行ったとして信用する
- 「自分たちが用意したもの」も、以前に確認したことがある
- しかし「新しいFirefox」と「自分たちが用意したもの」を組み合わせた時にちゃんと動作するかどうかは、確認しないとわからない
実際、アドオンが動かなくなったりすることや、複雑なことをしているページの動作や表示が変わってしまうことはありますよね?
つまり、Firefoxが新しくなる度に「Firefox+自分たちが用意したもの」の組み合わせで業務がちゃんと行えることを確認し、「大丈夫、今まで通りに動いたから仕事で使って大丈夫ですよ」、と確認する必要があったのです。
これまでは、「Firefox3.0」や「Firefox3.5」のような大きな節目で大規模な確認を行えば良く、多くても一年に一回あるかないかでした。
しかし今後は、六週間ごとにリリースが続くことになり、大きな節目は消滅します。そのため、以下のようなことになります。
- 六週間ごとに全部の確認をやり直す:作業が多すぎて死にます
- 六週間ごとに全部の確認はできないので確認を端折る:安全確認が不十分になり、事故が起こった場合にも責任が取れなくなる
このために「ちょっと勘弁してくださいよ」と言っている人達が居るというニュースです。記事から引用しますと、
社内で50万人がFirefox 3.6を利用しているという大手企業のジョン・バリキ氏がコメント。同氏の会社は数千の社内アプリについてFirefox 4のテストサイクルを済ませ、7~9月期にFirefox 4.01を導入しようとしていたところだった
安全確認が楽な作業ではないのは上記からもイメージできると思います。そして、ようやく大変な確認作業が終わってみると、以下のようなことが起こってしまいました。
- 今後は六週間ごとに新しくなる方針に変更しました
- というわけでFirefox5をリリースしました
- Firefox5をリリースしましたのでFirefox4のサポートを打ち切ります
大変な確認作業を経て安全確認が終わったとたん、Firefox4の安全確認が賞味期限切れになってしまったわけです。そのため、下記のどちらかを強いられることになりました
- サポートが切れたFirefox4を使い続ける
- Firefox5でもう一度確認作業を行う
しかも、Firefox4→5のリリースでは、これまでのセキュリティ問題などに限った最小限の変更(例:3.5.0→3.5.1)と違って、六週間内に行われた「大きな変更」も含んでいます。ですから、六週間だからほとんど変更はない、とは言えないのです
この結果、六週間では対応できないと困っている人達が出てきたというニュースです。
◆Internet Explorerなら従来通りのリリース方式と長期の保障
記事では、これに乗じてマイクロソフトがIEの売り込みをかけているという話が続いています。
MicrosoftのIEチームは企業を大切にしているとアピールし、「IEの各バージョンは、それが実行される最新版のWindowsがサポートされている限り、サポートの対象となる」と説明。例えばWindows 7 Enterpriseは2020年1月までサポートされるため、IE 9のサポートも2020年1月まで続くとした。
「そのIEを実行できる最新版のWindowsがサポートされている限り、サポートの対象となる」ですから、六週間とは比べるのも馬鹿馬鹿しいほどの長期間のサポートが提供されることになります。
なお、企業によってはIE6の利用が続いていることがあるのは、今回説明したような問題があることも原因です。もちろん、無益な事なかれ主義によって、IEの新しいバージョンでの安全確認をサボっていることも原因でしょうから、IE6のままになっている組織を擁護する気はまるでありませんが。
なお、Google Chrome はFirefoxよりも先に六週間ごとの強制アップデートを行っており、Firefoxと違って旧バージョンのままにする選択肢すらないので、この問題においては乗り換え候補にはなりません。
◆まとめ
- 「六週間ごとにリリース」は六週間ごとにチェック作業が必要
- チェック作業は通常、多くの作業が必要になって大変
- よって、Firefoxは六週間ごとに多量のチェック作業をしているか、チェック作業を間引いている可能性がある
- Firefoxのチェック作業が順調に進むとしても、企業ユーザが六週間に対応できない
- 「新しいFirefox+自分たちが用意したもの」での動作確認を六週間ごとに強いられるから
- 六週間なんて無理だ、という不満が出ている
結果として、一部の法人ユーザでFirefox離れが起こるかもしれないというニュースでした。
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