なぜLTEのエリア展開はゆっくりに見えるか?
LTEとモバイルWiMAXについて少し書きます。
LTEのエリア展開が遅いという主張がされていることがあります、モバイルWiMAXと比較しての意見ですね。
しかし、LTEの展開はそれでも(それほどは)問題がないということを少し書きます。
◆前置きから
一部でLTEのエリア展開が遅いと言われることがあるようですが、実はそれでも思ったほどは問題がないという話をします。
「エリア展開が遅い」という話、主に二つの観点からです。
- モバイルWiMAXと比べて
- 従来のエリア展開の感覚と比べて
世の中にはいろいろ大人の事情がありますから、モバイルWiMAXは快進撃で、LTEは足踏みしていて引き離されている、という主張をしたい人がいることも、ちょっと話をややこしくしているように思います。
つまり、本来不必要な比較をしたい人が居ることはまず覚えておきましょう。
また、LTEはモバイルWiMAXと比べて最近サービスインしたばかりです。そもそも初期のモバイルWiMAXはなかなか酷い状態でしたし、どちらにせよ長期的な様子を見るにはもうちょっと待った方がよいとは思います。
そしてその後もロケットスタートでエリア展開しないのは、初期のLTEは慎重にサービスインしたい事情もあったと思われます。このあたりは以前の記事にも書きました。
- モバイルWiMAXは、出来の悪い技術をいわばデチューンして安定性を上げて使っている(だから日本のモバイルWiMAXは健闘している)
- LTEは、どちらかというとパワーが出る方向にチューンするチャレンジを最初から行っている
特に日本の都心部は、いろんな意味で世界一過酷です。異常に高い利用者の密度、複雑怪奇な電波の飛び方、その上客は世界一品質にうるさいと来ています。
そんなところで難しいことをやろうとしているので、最初は慎重に基地局を配置してノウハウ(ないしは確認作業)を積み上げる必要があったと思われます。そういう状態では最初の最初からはロケットスタートはできません。
従量制を匂わせての牽制があったり、通信速度が絞ってある可能性が見えたりするなど、あまり気前が良くないのも、ドコモの慎重モードの一部だろうと思われます。
ただこれらを考えても、中期的なスケジュールにおいて鬼のような勢いでエリアカバーを広げるつもりではないのも事実のようです。
◆「日本以外」の第三世代と似た状況に
なぜそうなっているかというと、別に無理する必要がないからだと思われます。つまり、大慌てしてまでLTEを整備する必要に迫られていないからだと思われます。なぜならば、
「ドコモ自慢の最強第三世代網が既に日本をカバーしているから」
です。
念のために書いておきますと、ドコモは別にLTEに消極的なわけではありません。むしろ、LTEへの早期移行を企んでいます。その上、資金力も十分すぎるほどにあります。
実は第三世代への移行における日本以外での事情と、現在の日本の事情がちょっと似ています。例えば欧州やアメリカでは、今でも広くGSM(第二世代)が使われていて、第三世代はそこそこのペースでしか整備が進んでいません。
日本の場合、第二世代(PDC)をW-CDMAですっかり置き換えることが望ましい状態が生じました。その結果、早期にW-CDMAだけで十分なエリアカバーをする必要が生じました。
しかし日本以外では事情が違いました。GSMとW-CDMAは一緒に使えるように作られているため、W-CDMAの時代がやってきても、無理をしてまでGSM(第二世代)を引退させる必要性は生じませんでした。
そして、LTEへの移行では日本も世界の他の国と事情が同じになりました。
LTEの時代がやってきても、無理をしてまでW-CDMAを引退させる必要性は生じないのです。なぜなら、LTEとW-CDMAは組み合わせて使えるように作られているからです。
W-CDMAだけで十分なエリアは(当面は)別にそのままでも問題ないわけです。例えば、ほとんど誰も住んでいない場所とか。
◆ モバイルWiMAXはLTEだけと戦っているわけではない
実はつまりモバイルWiMAXは、「LTEと戦っている」のではなく「LTE+W-CDMA/HSPA」と戦っているということになります。
#同じ事情でモバイルWiMAXとCDMA2000を張り合わせた端末も作られていますが、LTEとW-CDMAのように一緒に使えるように作られていない限界があります
あるいは、モバイルWiMAXが基地局をどんどん建設しているのは、モバイルWiMAXだけでエリアカバーしないといけないからでしょう。
ドコモは最終的には現在のFOMAと同じように、LTEないしはその次の技術(何らかのLTE改良版)で、意味不明なレベルで日本の隅々までをエリア内にするはずです。
LTEは、W-CDMAとの組み合わせを前提に、混雑が激しい場所での電波利用効率向上や、高速通信の需要が多い場所での満足度向上の為の、パワーアップブースターとして使うこともできます。
パワーアップブースターとして使う場合、優先してエリアを広げるよりも、ニーズが集中している地域を重点的に整備する方が合理的です。
また、現状のLTE基地局が将来的に旧式化することが解っているのであれば、今は無理して基地局を沢山整備しないほうが得策かもしれません。
◆ この話、実はドコモ以外にこそ関係がある
随分ドコモに親切な解説だなと思われたかもしれません。
しかしこの話、おそらくドコモ以外にこそ関係がある話だろうと思います。ドコモには、遠からず関係のない話になるでしょうから。
ドコモはとうとうLTEでのCMを打ちはじめました。年末にはLTE対応のスマートフォンの登場も発表されています。つまり、2011年の末までには、LTEでの最初の攻勢が始まると思われます。
基地局建設競争でドコモに勝てるキャリアなど存在しませんので、(LTEが深刻な欠陥でも抱えていない限りは)遠くないうちにFOMAでそうだったような怒涛の基地局建設が開始されることになろうと思います。
ドコモ以外はどうか?
AUはW-CDMAではありません、CDMA2000です。ですから、LTEと組み合わせての利用には制限があります。帯域の都合でAUは現在LTEを様子見していますが、LTEへの移行開始後は、速い速度でのLTE化が進む可能性があります。
そして本当に問題なのが残りのキャリアです。
例えばソフトバンク、LTEに大量のお金を使う余裕はありません。そもそも、第三世代でのエリア整備すらまだ不十分なままです。
そうなると、以下のような現実的な話をせざるを得なくなるでしょう。
- 当面は技術的に枯れて安いHSPA+で十分である、LTEは安定して安くなってから導入する(第三世代のエリア整備が終わっておらず続けざるを得ない事情も隠せる)
- LTEはW-CDMAと組み合わせて使う方が賢い、他国だってそうだ。だからLTE単独で広い範囲をカバーするのは賢い方法ではない
後者はつまり、先に書いた「パワーアップブースター」としてのLTEとなります。
ないしは現在整備中のHSPA+でも、「パワーアップブースターなので単独でのカバー率で語らないでください」という説明が必要かもしれませんが・・
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コメント
つまりLTE+CDMA2000+WiMAX+10万局のWi-Hi...を組み合わせるauが最強と。
投稿: あ | 2011/06/21 12:55