481 接続料問題、ソフトバンクのドコモへの「応酬」がブーメランするかもしれない件
前回の記事に追加の記事を書きます。
ドコモに対するソフトバンクの「返事」の中身はどういうものか、ということについて少し。
そして、ソフトバンクのドコモへの「応酬」の結果、「ネットワーク外部性追加料金」というものがソフトバンクにブーメランかもしれないという話について。
(補足:逆に解りにくそうだったので、記事タイトル変えました)
◆まずは前回の記事を
前回の記事を読まれていない方は、まずは先に前回の記事を読んでいただければと思います。
前回の記事:ドコモとソフトバンクが「接続料」で喧嘩している件について
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2011/06/482-497d.html
接続料問題は、多少話が入り組んでいるので、すぐには理解しにくいところがあります。読んで「まさかそんなことになっていたとは思っていなかった」と思った人も多かったのではないかと思います。
上記の記事は、接続料問題について何も知らない人にすぐ解ってもらえるように書いたものです。「説明」が面倒なときに上記の記事を使っていただければと、ブログ主は思っております。
以下は、上記の記事を補足するものとして、「ソフトバンクが逆にドコモに対して行った要求」について、その中身がどのようなものかについて書きます。
◆ソフトバンクの返事の内容
ドコモの「高い接続料の根拠を開示してください」に対するソフトバンクの返答は以下のようなものでした。
- 接続料の根拠をお役所には開示するが、ドコモには開示しない
- 逆にドコモに対し、過去に払った接続料の返還を要求
- NTT東西の事業者向け配線工事が1件当たり200円高いと主張
- NTTの「116」窓口における「フレッツ光」の不適切な勧誘についての意見申し出
- 「問題は接続料だけではない。通信業界では競争上のハンディが多数ある」
前回の記事で書いたとおり、後ろ三つについては「ドコモ」との「接続料」の話し合いとは関係の無い話題が混ぜ込まれたものです。
「本題」については役所が、受け取った内容および、ドコモや「世間」に対して根拠を開示しなかった点も含めてどう判断するかを待つことになりました。
以下で話題にしたいのは、「ドコモに対する接続料の返還」とはどういうことなのかという点です。
(もしわからないことがあった場合は前回の記事を参照してください)
接続料とは本来、他社からの着信時にかかる費用を請求するものです。ですが、前回の千本会長の発言にもあるように、従来は「あまり関係の無い費用」も接続料に含まれていました。
広告費用も契約獲得費用も、端末の開発費用も関係ない。
接続料で揉めた結果、「2010年3月」に接続料の計算ルールが明示化されました。
- 音声通話の接続料:「ネットワークコスト+適正な利潤」÷「総通話時間」
- ネットワークコストには営業費用は原則含まれない
「営業費用は原則含まれない」とは、「あまり関係の無い費用」は接続料には含めないというルールになったということです。これによって接続料も下がりました。
- docomo:8.10円(2009) -> 5.22円(2010)
ポイントは、明瞭なルールにしたので揉める余地が無くなった(大きく減った)点と、各社同じ新ルールに従って一斉値下げになって互いに帳消しになるので、どこかが損をする話では(本来は)無いという点です。
では、ソフトバンクの要求は何でしょうか。
ソフトバンクは、「計算ルールが明示化されるより前」の接続料の払いすぎを返還して欲しいと言っているのです。つまり、以下の「そうではなかった」の部分を返還して欲しいという主張です。
- 2010年以降: 営業費用などが除外されるルールになった
- それ以前: 各社ともに「そうではなかった」
ソフトバンクの要求は、「2010年より前」の接続料の支払いに対して、営業費用などを払い戻して欲しいというものです。
ソフトバンク、ドコモへ支払った接続料の返還求める
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20110610-OYT8T00339.htm
ソフトバンクモバイルは9日、NTTドコモに支払った2009年度以前の携帯電話の回線使用料(接続料)が高すぎたとして、総務省の電気通信事業紛争処理委員会に一部返還を求めるあっせん申請を行った。
ソフトバンクは、ドコモの接続料には販売奨励金などが含まれ、適正でなかったと主張している。
つまり、「2010年より前」の支払いに対し、「2010年より後」のルールを適用して払い戻しを要求しているのです。
◆「ネットワーク外部性追加料金」のブーメラン
これに対してドコモが反論しています。
「携帯接続料は合意の上で精算した」、ドコモがソフトバンクに反論
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20110614/361343/
つまりこういうことです、
- 営業コストが一部は言っていたことは事実だが、除外する計算ルールが決まった「2010年」よりも前の話
- ドコモには接続料の計算ルールと根拠の法的な開示義務があるので開示しており、それに沿って計算した料金であること
- 上記ルールに対するソフトバンクからの異議申し立てはなかった
- その上で、そもそも両社合意の上の接続料の支払いがなされていること
ドコモとしては終わった話を後出しで何を言っているんだ、というリアクションです。
また、ソフトバンクのドコモへの主張、すぐに「ブーメラン」する可能性があります。
なぜならば、2010年より前には、ソフトバンクも「現在のルールでは除外されるべき費用」を接続料に含めていたからです。もしドコモへの要求が通るのであれば、ソフトバンクもこれを返還しなければならなくなるからです。
有名なところでは、「ネットワーク外部性追加料金」という謎の費用が接続料に含まれています。
さて、「ネットワーク外部性追加料金」とは何でしょうか?言語で説明するよりも見ていただいたほうが良かろうということで、以下にスライドの図へのリンクを張ります。
写真3●ネットワーク外部性追加料金の概念図
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20090515/330115/?SS=imgview&FD=-652795730
なお「ネットワーク外部性」とは経済学など方面の用語で、例えば、Windowsを皆が使っていることでWindowsが便利になり、Windowsを使いたい人が増えるような現象のことを言います。
図での説明を書き下すと以下のようなものだろうと思います。
『わが社は利用者が少ないので通話先が限定されており利便性が低く、利便性が低いので新規加入者に対して加入時に「補助」をする必要性があり、この費用を「ネットワーク外部性追加料金」という名前で(どういうわけか)接続料に含めています』
意味が解らない?
ざっくりと説明すると
- 「新規獲得のためのばら撒き費用」を接続料に含めています(ユーザーへのキャンペーンや割り引きで生じたコスト)
- 理由は「加入者数が少なく不利なので費用が必要なので」
キャリア間のバランスをとるための費用の是非もあろうかとは思いますが、それを接続料に含めて良いのかという問題もあります。なにしろ日本では、接続料は本来、そういう役割のものではありません(だからこそ、明示されたルールにも含まれていない)。
また、それはそもそも「営業費用」のことではないのか、と思えます。しかしソフトバンクとしては「営業費用」と「ネットワーク外部性追加料金」とは別のものだという主張だそうです。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20110609/361262/
「ネットワーク外部性追加料金は電気通信事業法の適正利潤に該当すると解釈しており、営業コストとは異なり算入する根拠がある。水掛け論になることも考えられるが、根拠も違うし、算入している比率も格段に違う」(弓削氏)と回答した。
念のために書いておきますと、接続料の計算ルールが出来た2010年以降は、ソフトバンクもこの費用は除外しているそうです。しかし「それより前」の返還合戦をするのであれば、ソフトバンクにブーメランがやってくることになります。
ただそもそも、ソフトバンクについては「一部の支払いを返還してください」ではなくて、「根本的におかしいのではないか」ということでドコモから根拠を開示してくださいと言われていて、一部払い戻しというレベルではないわけですが・・・
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