476 現在話題の「アノニマス」とは具体的何かのことではない
知ってる人には改めて説明するまでもないことですが、誤解してる人向けに説明を書いてみることにします。
ソニーと喧嘩しているということで、「アノニマス」というものが現在話題になっています。
この「アノニマス」について、そういう名前の具体的なワルい団体が存在すると思っている人(やメディア)も居るようなのですが、実のところアノニマスとは「はっきりした実体の無い」ものに過ぎないという話について。
◆「アノニマス」を悪の秘密結社みたいにイメージするのは不正確
「アノニマス」とはソニーをネット経由で攻撃したのではないかと報道されている何かです。メディアでの報じられ方は様々ですが、こんな感じのことがよくあります。
- 「アノニマス」という名前の「国際的ハッカー集団」
- 得体の知れない闇の団体
- 「お面」を被っている映像(後述)を流し、得体の知れない奴らであるというイメージを補強
悪の秘密結社のような扱い、例えばアルカイダやショッカーなどと同じような扱いになっていることがあります。
(補足:アルカイダの実体も本当は良く解らないので、こちらも同様の間違いがある可能性もありますが、ひとまずは世間的なイメージでの比喩だとご理解ください)
ですが、「アノニマス」という呼び名は実のところ、「にちゃんねらー」とか「VIPPER」とか「はてブ民」程度のことでしかないと思われます。
◆4chan:アノニマス発祥の地
たとえばこういう記事があります。
番外編 本当のAnonymousが知りたいの
http://www.atmarkit.co.jp/fsecurity/special/161dknight/dknight01.html
まずは一番肝心な点について、
辻:Anonymousは、「ふたば☆ちゃんねる」のスクリプトを用いた非公認姉妹サイト「4chan」で生まれたとのことですが。 A:はい。「Anonymous」は、日本の巨大掲示板「2ちゃんねる」でいうところの「名無しさん」に当たるものです。
日本のメディアの一部で、日本はけしからん匿名インターネットで、海外では実名が常識ということを言っている人達が居ます(この話題については、また別の記事で書く予定です)。
「日本は世界に遅れている」とは毎回毎度おなじみの煽りですが、実は海外にも匿名が基本の文化も存在しています。それが今回話題になっている「何か」です。
「4chan」という匿名のネット掲示板があります。
4chan
wikipediaによる説明:http://ja.wikipedia.org/wiki/4chan
4chan:http://www.4chan.org/
名前が妙に日本語っぽいですが、実際に日本に由来した名前です。ただし、にちゃんねるがルーツではありません。
「ふたば☆ちゃんねる」という日本の(画像投稿)掲示板があります。この掲示板を動かしているプログラム(公開されていた)を使って、アメリカ人が英語版のふたば☆ちゃんねるの英語版サイトを目指して開設したのが、4chan(Yotsuba-Chan)の始まりです。
その成り立ちからして、日本のアニメの話題やゲームなど、英語圏におけるヲタ話題が満載の掲示板となりました。
4chanでは、単に掲示板に投稿をすると名前欄が「名無しさん」になるようになっています。その名無しさんの名前こそ、「Anonymous(アノニマス:匿名という意味)」でした。
なお、日本の匿名掲示板と同じく投稿時に名前を入力することも可能ですが、特に必要もないのに名前を入力することは無駄な自己顕示であるとみなされ好まれていないようです(にちゃんねると同じですね)。つまり、匿名が推奨される文化です。
◆4chanは日本でもおなじみの感じ
また、一部の物好きが細々とやっている掲示板ではなく、にちゃんねると同じく巨大な存在となっています。
たとえばwikipediaにソース付きで存在する解説にも、以下のようにあります。
ロサンゼルス・タイムズによれば、4chanはインターネット上で最も多くのトラフィックを集める画像掲示板である[7]。 David Sarno (2008年5月25日). “Web Scout exclusive! Rick Astley, king of the 'Rickroll,' talks about his song's second coming”. ロサンゼルス・タイムズ. 2009年10月26日閲覧。
また、具体的データからもかなりの利用者がいることが解ります。下記はつまり、世界で山ほどあるウェブサイトのうち、1000位代であるということですから。
アレクサによる統計では、1000位代の順位を維持しているhttp://www.alexa.com/siteinfo/4chan.org
日本と海外の文化の違いもありますから、何から何まで同じではありませんが、結果的には「にちゃんねる」と同じような存在だと考えて、大体良いのではないかと思います。
例えば、にちゃんねる固有の「ネタ」やユーモアが沢山あるように、4chanにも固有のネタやユーモアが沢山あります。つまり吉野屋コピペとか、お前はまた騙されたわけだが、みたいな皆が知っているネタの4chan版が色々あるということです。
つまり、ネットで下らないこと(褒め言葉)を延々やっている人達が集まっている場所となっています。
また、一般メディアにおいて「にちゃんねる」が話題になるように、同じく4chanも一般メディアでも話題になっています。
◆「アノニマス」として認知される
にちゃんねるでは「祭り」などの集団的な活動が発生することがあります。
これと同じようなことが、「4chan」でも発生ていました。例えばネット検閲への反発で掲示板がその話題だらけになり、一部の人が抗議行動やサイトへの攻撃を行ったりするようになった、などです。
このような事件が発生した場合、日本だと「にちゃんねらー」がまた何かやってるぞ、とか「VIPPER」はいい加減にしろ、というような「呼ばれ方」になると思います。
4chanでは、こういう場合の「彼ら」の呼び名が「Anonuymous(アノニマス)」でした。
wikipediaにはこうあります、
2008年頃からは利用者の一部が、サムシング・オーフル・フォーラムやエンサイクロペディア・ドラマティカ、711chan、Youtubeなどの利用者とともに「Anonymous」(アノニマス、「匿名」、Anonymous)と呼ばれるグループを作り、カルト教団やネット検閲と戦うネット上の「祭り」に参加したり「祭り」を仕掛けたりしている
上記は結局のところ、同じような人達が出入りしているところだと考えられます。結果的には「VIPPER」とかそんな感じですかね。
ソニーの事件では、
- ある「天才」がPS3のロックを解除する穴を見つけた(ソニーが許可したもの以外を使わせない仕組みを破ることに成功した)
- ところがソニーはその「天才」をすぐに逮捕させてしまった
- 4chan方面の住民、逮捕はやりすぎだろ!と反発
- 「ソニー叩き祭り」が発生
- 行儀の悪い攻撃(抗議)にまで及ぶ人達も出現
おそらくこんなところだろうと思います。
ですから、得体の知れない悪の秘密結社の国際的ハッカー集団アノニマス、というイメージ正確ではありません。
「にちゃんねらー」とか「VIPPER」とか、あるいは「ネトウヨ」あたりが適切なイメージだろうと思います。
ソニーの事件の記事ではありませんが、このあたりの事情が解ってる人達(というかおそらく4chan利用者)が書いた記事では、「記事タイトル」がこのようになっています。
米国『4ちゃん』、「wikileaks支援」で銀行等にdos攻撃
http://wired.jp/wv/2010/12/09/米国『4ちゃん』、「wikileaks支援」で銀行等にdos攻撃/
上記の翻訳元記事でも、
4chan rushes to WikiLeaks' defense, forces Swiss banking site offline
http://arstechnica.com/tech-policy/news/2010/12/4chan-rushes-to-wikileaks-defense-forces-swiss-banking-site-offline.ars
『4ちゃん』のアホがまた何かやってますよという記事です。
◆あの「お面」は何なのか?
テレビなどで「アノニマス」が出てくるときに被っている、奇妙な「お面」は何でしょうか。
「お面」もまた、4chan上での活動が生み出した共有ネタの一種です。つまり「吉野屋コピペ」とか「モナー」などと同じようなものです。
あの「お面」が生まれた経緯については、先ほど引用した記事にも簡単に書かれています。また、以下の騒動で4chan民(「アノニマス」の呼称とともに)が広く認知されるようにもなったようです。
番外編 本当のAnonymousが知りたいの
http://www.atmarkit.co.jp/fsecurity/special/161dknight/dknight01.html
- ある宗教団体からリークされた動画が4chanに貼られる
- 削除要請が出される
- 4chan的にはその団体は極悪カルトとみなされていたため、削除依頼に対して反感が広がって「祭り」になる
ネットや表現の規制を嫌い、怪しい団体を嫌うのは日本のにちゃんねらーとも共通しているようです。そしてこの後、祭りの流れが変化して「お面」の文化が生まれます。
記事から、
しかしその後、そのとある団体の元メンバーであるMark Bunkerが、Anonymousの行動に対するメッセージを込めた動画を公開しました。この中で彼は、とある団体への抗議のトーンダウンを要求し、「平和的、合法的に行うべきである」と伝えました。多くのAnonymousはこれに感銘を受け、合法的に活動をしようということになり、とある団体に合法的に抗議すべくオフラインで集まったのです。
そして、オフラインで集まって抗議する際に、あの「お面」をかぶって集まるようになったようです。
なおあの「お面」は、「Vフォー・ヴェンデッタ(V for Vendetta)」という英語のコミック(映画化もされている)の中で、主人公がかぶっているマスクだそうです。
物語は最悪の独裁国家になってしまったイギリスで、"V"という謎の主人公が国家と戦うという話だとかで、記事にはこうあります。
辻:まるで、映画「V for Vendetta」のエンディングのようですね。
A:ガイ・フォークスのマスクは、いつからかはっきりとはしませんが、いつの間にか伝統的なものになっていました。辻さんのいうように「V for Vendetta」のエンディングのイメージと合致することに加え、単純に「みんなで悪を倒そう!」という意図が込められ、かっこいいというイメージがあるのかもしれませんね。1人1人は無力だけれど、集まれば強くなるといったイメージでしょうか。
なお、ちょっと話がややこしいので説明すると、
- 「V for Vendetta」の主人公は「V」
- 「V」は「ガイ・フォークス」のマスクをかぶっていた
- 「ガイ・フォークス」は実在する歴史上の人物
ガイ・フォークス
http://ja.wikipedia.org/wiki/ガイ・フォークス
この人は1605年(大昔)にイングランド国王の爆殺未遂事件を起こした人で、イギリスでは権力への反逆をイメージさせる有名人のようです。
ただ実際のところ歴史的経緯を踏まえてなのか、単に何となくあの「お面」がカッコいいので皆かぶるようになったのかは解りません。
あるいは日本的に比喩すると、「コードギアスのゼロの仮面」をかぶって集合するようになったとか、「ジョジョの石仮面」をかぶって集合したとか、タイガーマスクの名前で寄付がブームになったとか、そんな感じなんじゃないかと思います。
◆妙さ加減をついての比喩
つまり比喩するならば、にちゃんねらーでソニー叩き祭りが発生し、一部の厨がF5攻撃を呼びかけたり、一部の人が実際にシステム侵入を行ってしまったりした、というのが正しい感じではなかろうかと思います。
メディアでの報じられ方での正しくないだろう点は、具体的な構成員の存在する恐ろしい集団が存在するような話になっていることがある点と、「ハッカー集団」などと悪いことをする側面のみを説明としてつけている点だろうと思います。
妙さ加減を無理に比喩すると、こういう感じではないでしょうか。
- 「国際的な利権集団『主婦』が公式声明を発表し」
- 「国際的な倒錯趣味集団『鉄ヲタ』のメンバーを逮捕した」
『主婦』は具体的な構成員の存在する団体ではありませんから、公式声明を発表したりすることはありません。また『鉄ヲタ』を倒錯趣味集団と呼ぶのはあまりに一面的で失礼です。普通の単語にするとこういう感じになるような説明に思えるのですが、こんな感じで説明されていることのほうが多いと思います。
例えば、アノニマスを無名の世界市民の集合体であるとみなして、世界中の小さな声がネットで集合し、ソニーへの抗議運動として表面化しましたという風な説明も可能です。ですが、そのような説明は見ません。
攻撃に出たのは行儀の良くないことですが、例えば、タイの政府への抗議運動などでは一部が暴徒化するようなこともありましたが、マスコミの取り扱いでは略奪集団とは呼ばれていません。
横断幕を持ってデモ行進をしている人には共感するが、ネットで怒っている人には共感できないから関係ない人達にしてしまう、つまり「マスゴミ」のネット嫌悪ですか、とも思えます。
#なお、私はソニーへの攻撃的な抗議行動には賛同できないので、攻撃に出た彼らについて、良い印象は持っていません。ですから主張には賛同しているわけではありません
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