あの「羽柴秀吉」が夕張市長選で当選有力になっている件、と、何故そんなことになったか?
「羽柴秀吉」とは、いろんな選挙に無駄に出馬しては落選するネタ要員として知られているあの人のことです。有名どころの選挙に出馬しては「お前はいったい何を言っているんだ」的公約とともに見事落選する選挙の名物さんです。
ところがその「ネタ要員」が、もうすぐ(4/24)行われる夕張市長選挙で「実際に当選しそうな」流れになっています。なんと、当選の最有力候補です。
衝撃のニュースに笑い転げた人も、意味が解らずに困ってしまった人も多いのではないかと思います。
何がどうなってそういうことになってしまったのか(これには夕張市の悲しい事情があるのです)、また「羽柴秀吉」ってどういう人なのか、そういうところについて少し書いてみたいと思います。
◆まずは元のニュースを引用
まずは元のニュースを引用してみましょう。
ついに…夕張市長に羽柴秀吉氏当選有力?職員「覚悟できた…」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110221/lcl11022123370008-n1.htm
海道夕張市のトップを選ぶ市長選(4月24日投開票)で、驚くべきドラマが進行しつつある。全国各地の選挙に出馬してきた青森県の実業家、羽柴秀吉氏(61)=本名・三上誠三=が、何と「最有力候補」と目されているというのだ。
「当選するかもしれない」ではなくて「最有力候補」なのですね、他の候補は何とか当選を阻止しようと必死ですが、どうやら旗色は悪くないようです。
あまり広くは知られていないのですが、実は前回もこういう結果でした。実は、前回の選挙結果からしてこういう結果だったのです。
4年前の夕張市長選では、当選した藤倉肇市長にわずか342票差まで迫った。
前回はネタ要員を市長にしてたまるか!と羽柴阻止で統一候補を立てて戦い、その結果、なんとか僅差で当選を阻止していました。
今回「最有力候補」とされているのは、今回の選挙では統一候補の擁立に失敗したためです。前回僅差で敗れたこともあり、「今回は当選してしまうかもしれない」ということになっています。
記事でも、羽柴氏が(相変わらず)妙な公約をしていることが紹介されています。
今回の市長選、羽柴氏は、天然ガス開発や砂金採掘に加え、炭鉱で栄えた夕張ににぎわいを取り戻すためには「石炭の露天掘りしかない」などと、やや突拍子もないような政策も掲げる。市が抱える300億円以上の借金も「早ければ4年、遅くても7年で財政破綻から脱出してみせる」と自信満々だ。
やはり今回も「お前はいったい何を言っているんだ」状態となっております。
しかし当選するのは、投票をする人がいるから当選するわけです、前回も投票した人が居るから僅差の敗北でした。夕張の人はアホの子ばっかりなのか、と思いたいところですが、こういうことになっているのには色々と事情があるようなのです。
◆この人は誰?
夕張市の事情の説明の前に、この「謎の人」についてまずは説明をしてみましょう。
この人「羽柴秀吉(羽柴誠三秀吉)」という妙な名前で知られていますがが、本名は「三上誠三」という普通の名前です。「羽柴秀吉」は自分でそう名乗っているというだけのことです。そして、選挙は本名以外でも立候補できます。
本人曰く、「近所の」住職が「羽柴秀吉の生まれ変わりだ」と言ったので秀吉の生まれ変わりであると思うようになって現在の名前を名乗るようになり、各種の「羽柴秀吉活動」を行うようになったようです。
なお、その近所の住職は「秀吉の生まれ変わりとは言っていない。」と言っているそうですが・・
選挙に「羽柴誠三秀吉」として出馬し、自宅は大阪城(のような形)、個人で対北朝鮮ミサイル基地(のようなもの)の建設を行うなど・・そういう話題には事欠かない人です。
この人は東北で社長をやっている人です。建設業や産業廃棄物処理、旅館経営などで成功した人で、一代で大金持ちになった人です(総資産は数百億円ともいわれる)。つまり、リアルに億万長者な人です。ただの変人ではないのです。
また、次男が「元気が出るテレビ」の口ゲンカ王決定戦に出場して準優勝しています。どうやら家族も普通の人ではないようです。
なお、囁かれている噂として、経営している旅館が古くなってくると、なぜか誰も居ないときに原因不明の火事が発生して燃えてしまい、そして何故か火災保険に入っているという話があります(この件は報道もされています)。
たとえば、青森県五所川原市のの旅館について、このようなことが言われています。
- 元々、平等院鳳凰堂(のような形)の旅館があった
- 2000年3月に全焼
- その後、火災保険で国会議事堂(のような形)として再建される
- 2010年4月にまた全焼
- その後、また火災保険で再建される
私自身が事実関係を確認したわけではありませんが、こういうこともあって世間では何か変だとか言われています。例えば、夕張市で当選したら夕張市役所が全焼するぞという冗談があったりします。
ただし、羽柴さんご本人はこのような報道や噂は意に介しておられないようで、その辺は秀吉らしいかもしれません。
◆選挙と羽柴さん
選挙では、皆さんご存知の通り落選続きです。
- 1976年:金木町長選(地元) に出馬するも落選、公職選挙法違反で逮捕される
- 1999年:総勢19人の立候補者(奇人だらけ)の東京都知事選に出馬するも余裕で落選、石原知事が初当選
- 2000年:秀吉ということで大阪府知事選に出馬するも落選(当選:太田房江)
- 2000年:秀吉ということで衆院大阪1区から出馬するもやはり落選
- 2001年:自由連合の参院比例区から出馬するも、自由連合は一議席もとれず落選
- 2002年:田中康夫を倒そうと長野県知事選に出馬するがやはり落選
- 2003年:秀吉ということで大阪市長選に出馬するも落選(当選:関淳一)
- 2005年:地元の五所川原市長選(市町村合併で名前が変わった)に出馬するも落選
- 2005年:今度は小泉純一郎を倒すと言って衆院神奈川11区から出馬するも当然に落選、日本国民に失望したと発言して国政への出馬をやめると発言(しかし後に出馬)。
- 2006年:再度、地元の五所川原市長選に出馬するも落選
- 2007年:夕張市長選に出馬、なんと僅差で落選(詳細は後で説明)
- 2007年:国政には出ないと言ったものの参院北海道選挙区に出馬、しかし落選
- 2009年:青森県田子町長選二出馬するも落選
- 2011年:夕張市長選→とうとう当選?
人気絶頂の小泉純一郎に戦いを挑み、自分が当選しなかったことについて真面目に怒る(本人は出馬はネタだとは思っていない・・・)など、どうにも無茶な戦いが目立つのが特徴です。
他、未遂に終わっているものもあります。宮崎県の「あの知事」との対決も実現する可能性もありました。
初期の選挙では文字通りの泡沫候補(ほとんど得票が無い)でしたが、夕張市長選では僅差での落選、参院北海道選挙区では社民党候補よりも多くの票を獲得して話題になるなど、最近では単なるネタではなくなりつつありました。
参院北海道選挙区では、夕張市での得票が多くあったことと(参院選は夕張市の選挙の後)、農村の高齢者がどういうわけかこの人に投票したと見られています。
◆夕張の斜陽
夕張市については以下のような事情がありました。
夕張市は、財政破綻したことで有名となりました。自治体が破産状態となり「財政再建団体」として国の厳しい管理下にあります。この夕張市の苦境が、前回の羽柴さんの当選未遂と関係しています。
夕張市は、もともと炭鉱(石炭)で栄えた町でした。日本有数の石炭鉱脈があったために、かつては非常に栄えました。石炭が燃料の主役ではなくなった現代の感覚で言うと、大油田があるような感じだと思ってください。
石炭は地下から掘り出さないといけないので、炭鉱と石炭を掘り出す沢山の人達で夕張市は長い間栄えました。
しかし、石油の時代が到来するとともに炭鉱は閉山し、最終的には海外の石炭に押されて夕張の石炭の歴史は終わります。夕張はあまり農業に適さない土地だったこともあり、石炭が終わると夕張には何もなくなってしまいました。急激に人口が減り、しかしかつて栄えていたことから多数の高齢者が残されます。
夕張から炭鉱の最後の灯火が消えてゆく時代、ちょうど日本はバブルの最中でした。夕張は栄えていたころの繁栄をそのまま維持しようとします。夕張は考えました。レジャーやリゾートで栄えよう。ですが夕張に人は来るでしょうか?地方自治体のセンスで企画されたものに人が来るでしょうか?
そしてバブルが崩壊し、夕張にはどうしようもない金額の借金が残されます。そして夕張市は財政再建団体となります。当然の結果として、公務員の給料はカット、公共施設は閉鎖、公共サービスはカットとなりました。石炭で繁栄していた時代の繁栄を無理に維持していたことも原因だったからです。
◆羽柴さんの公約と選挙
普通に考えると石炭時代の繁栄を維持することは困難でした。ですから、本当は何らかの形で「縮小」が行われるべきでした。つまり、現在の夕張市の試練は、半ば政治の判断ミスでありながらも、半ば避けがたい身から出た錆だともいえました。
ですが、市民にはなかなか納得の出来ることではないのもまた事実です。解っていても、それでも納得できないこともあるものです。夕張市は苦しみます。
夕張市がこういう状態になっている時に、羽柴さんは夕張市長選に立候補します。公約の内容は、実質的に整理すると以下のようなものでした。
- 冷静に判断すると「お前はいったい何を言っているんだ」と思えるような調子の良すぎる公約
- 私財を投入して夕張市を支援することを示唆する内容
給料が下がるのは嫌だ、施設の閉鎖は嫌だ、そう思っているところに、(その内容はともかくも)給料は下げません施設は維持しますと主張し、しかも巨額の資産を持っているとされる人が「私財を投入して施設を維持する」と言って立候補することになります。
そして夕張市には、羽柴さんのこの提案を支持する人が沢山出てきます。
この結果、前回の選挙では反羽柴の統一候補が立てられましたが、それでも僅差での決着(342票差)となりました。
落選後、羽柴さんは次の選挙に向けて動き続けます。夕張市へ企業を進出させ、今後の夕張市の構想を発表するなどします(石炭産業を復活させるなど)。
そして、今回はとうとう統一候補の擁立にも失敗します。左右が分裂してしまったのです。
こうして、羽柴有利の状況が出来上がったのが今回の選挙です。
さて、最初のニュース記事から再度の引用です
今回の市長選、羽柴氏は、天然ガス開発や砂金採掘に加え、炭鉱で栄えた夕張ににぎわいを取り戻すためには「石炭の露天掘りしかない」などと、やや突拍子もないような政策も掲げる。市が抱える300億円以上の借金も「早ければ4年、遅くても7年で財政破綻から脱出してみせる」と自信満々だ。
記事に書かれていることだけについても冷静に考えてみると、やはり「お前はいったい何を言っているんだ」というような公約が並んでいます。他、その他の公約も書き足すとこういうことになります。
- 閉山した夕張炭鉱を露天掘りで復活
- 採掘した石炭で発電して電気を売る
- 夕張川での砂金採掘
- 天然ガス開発
- 夕張に城を建てる
夕張市の人がこれらについてどう考えているのか、私にはまるで解りません。参院選(参院北海道選挙区)で起こったとされるように、こんなありさまでも農村部の高齢者は票を入れるのかもしれません。
あるいは、「そんなことはわかっているがそれでも当選させる」のかもしれません。公約ではありませんが、以下も事実だろうからです。
- 億万長者である
- 私財の投入を示唆している
- 現に羽柴グループの企業が夕張市を支援している
この人はどうやら夕張で「石炭の夢」をやたら語っているようです、石炭で繁栄した時代の夢から醒めることが出来ない人達が、現実逃避で羽柴市長を誕生させようとしているのかもしれません。だとしたら大変不幸なことです。
それともしたたかに羽柴さんを「財布」として利用するつもりなのかもしれません、地方政治ですから最悪「リコール」という手があります。億万長者が夕張市に貢がないことが解り次第、あるいは絞るだけ絞ってから、その後に市長を選びなおすことは出来ないことではありません。
あるい言っていることはともかく実際の仕事はできる人という可能性もあります。全くの無能なら、一代で億万長者にはなれません。大企業が見捨てた炭鉱でも、再度採掘すれば採算が取れることもあるのかもしれません。露天掘りしたとたん、夕張に石炭の革命が起こることだってあるかもしれません(もしそんな大事件が起こったら、羽柴秀吉は夕張市長の次は中央政界間違いなしでしょう)。
また、落選してもおそらく、この人はまだ諦めないでしょう。ですから、どちらにしても夕張の混乱は、当面続くことになると思われます。
ネタとしては、相変わらずの「お前は何を言っているんだ」公約だけでもかなり面白いのに、羽柴秀吉当選リーチとなると面白くて仕方ないのですが、夕張市の事情まで解ってくると笑えるような笑えないような感じになってきます。
選挙まではあと二週間です。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
鈴木直道 当確
投稿: 岡本昌明 | 2011/04/25 02:22