北米でW-CDMA統一陣営が成立の方向:AT&TがTモバイルを買収
北米の携帯電話会社同士で大きな買収が行われ、いわば北米で「W-CDMA統一陣営」が成立する運びとなりそうです。
それについて少し書いてみます。
◆北米の「一位」の携帯電話会社が入れ替わる
まずはニュースから
AT&Tが米携帯4位買収 3兆円超で、最大手に
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819499E0E3E2E2E38DE0E3E2E1E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2
米通信大手AT&Tは20日、欧州通信大手ドイツテレコムの米携帯電話部門を買収すると発表した。買収金額は約390億ドル(約3兆1500億円)。携帯加入件数で2位のAT&Tは買収により、現在1位の米ベライゾン・ワイヤレスを大きく引き離す最大手になる。 詳細は後で説明しますが、このニュースは、北米の携帯電話の会社である「AT&T:現在二位」が「TモバイルUSA:現在四位」(ドイツテレコムの米携帯電話部門)を買収することで、結果的に「ベライゾン:現在一位」を抜いて一位になるというニュースです。
なお、AT&Tは北米のW-CDMA陣営の筆頭でiPhoneを独占発売していた会社でした。
◆北米のおさらい
以前、北米の700MHz帯の争奪戦の際に詳しく説明をしましたが(興味のある方は過去の記事を検索して読んでいただければと思います)、北米の携帯電話会社の勢力図は現在おおよそこのようになっています。
現在の勢力図:
- 一位:ベライゾン(CDMA2000陣営:CDMA2000/LTE)
- 二位:AT&T(W-CDMA陣営:GSM/W-CDMA/LTE)
- 三位:スプリント(CDMA2000陣営:CDMA2000/LTE)
- 四位:Tモバイル(W-CDMA陣営:GSM/W-CDMA/LTE)
ベライゾンは北米の勝ち組と言える携帯電話会社で、CDMA2000陣営で世界最大の携帯電話会社です。品質面でも定評があります。北米の700MHz帯の争奪戦では帯域を多量に獲得し(以前から書いているように700MHz帯は携帯電話にとって最高級の帯域です)、現在700MHz帯でのLTEのサービスインの準備をしています。
また、CDMA2000陣営(=クアルコム陣営)の筆頭でありながら、次世代技術で日欧陣営のLTEに寝返ると宣言し、LTEを事実上の世界統一技術にする原因を作った会社でもあります。なお、CDMA2000からLTEへの早期移行を目指す戦略は、日本のKDDI/AUとも共通する先着です。
北米のモバイル馬鹿にとっては、ベライゾンにはiPhoneが無いことが悩みだったようですが、とうとうCDMA2000版のiPhoneが発売されて、ベライゾンからもiPhoneが発売されるようになっています。
AT&Tは、北米におけるW-CDMA陣営の筆頭です。かつてドコモがiModeバブルで金が唸っていたころ、ドコモが北米にW-CDMAを広めるために投資したものの壮大な無駄にしてしまうと言うような事件もありました。長い間GSMメインで、W-CDMAの整備は最近になってはじめています(日本が異常なだけなのですが)。
良いイメージのベライゾンとちがい、AT&Tは「なんか今ひとつ」な感じの携帯電話会社でした。しかしiPhoneを獲得したため、iPhoneが欲しい人はAT&Tを契約せざるを得ない的な事情で好調になったりしているキャリアでした。
しかも、iPhone効果については、仇敵ベライゾンへのiPhone供給が始まってしまったために終了の方向となっていました。
スプリントはCDMA2000陣営です。ここはかつての「モバイルWiMAXバブル」の際にすっかり騙されてしまい、次世代にモバイルWiMAXを採用して通信業界に革命を起こすぜー、と調子に乗っていましたが、その後モバイルWiMAXとともに経営が炎上してしまいます。
結果としては、モバイルWiMAXは外部の別会社に切り離し、CDMA2000で現在立て直しを図っています。
Tモバイルは、ドイツのNTTとも言えるドイツテレコムの米携帯電話部門で、こちらも世界標準のGSM/W-CDMA陣営の電話会社です。こちらはスプリントのような炎上はしていませんが、四位と言うこともあり好調とも言えないような状態でした。
◆三位四位連合の噂もあったようですが
二位と四位が連合する結果となりそうですが、三位と四位が連合するという噂もありました。この噂は、ずっと前からあったように思いますが(モバイルWiMAXが炎上開始したころから)、結局現実とはならなかったようです。
ドイツテレコム、米携帯部門をスプリントと統合協議 米通信社報道
3/9のニュースだというのが何ともいえません。なお、上記のニュースは3/21でした。直前まで駆け引きが行われていたと言うか、スプリントは当て馬に使われたような結末です。
通信方式が根本的に異なるので(スプリントはCDMA2000で、TモバイルはW-CDMA)、統合したところでその後どうすれば良いのか難しいことになるのは確実でしたので、この握手は難しいだろうという意見は、以前から書いているとおりでした。
◆北米のW-CDMA統一陣営
結果としては、今現在はとりあえず問題ないけれども、今後に不安のある二社、二位と四位が手を組んだ形となりました。
結果として北米に「GSM/W-CDMA/LTE統一陣営」が誕生することになりました。
その結果今後こうなることになります、
- 一位:AT&T+Tモバイル(W-CDMA陣営:GSM/W-CDMA/LTE)
- 二位:ベライゾン(CDMA2000陣営:CDMA2000/LTE)
- 三位:スプリント(CDMA2000陣営:CDMA2000/LTE)
なお、アメリカの携帯電話会社の契約者数はドコモの独走が続いている日本と違って比較的拮抗しているため、この統合が現実になると、契約者数においては「W-CDMA統一陣営が独走一位」になる見込みです。
結果として、今後は二強一論外の対決になると思われます。
- 数で独走するW-CDMA統一陣営
- 質で圧倒するベライゾン(CDMA2000+LTE)
- 論外のスプリント
両陣営は最終的には両方とも次世代技術としてLTEを採用していますが、そこに至るまでの方向性について、二強には違いがあります。
ベライゾンはCDMA2000からLTEへの早期移行を計画していますが、少なくともAT&TはそもそもW-CDMA自体が整備して間もないこともあり(iPhoneをゲットしてから慌てて第三世代の整備をやっていたくらいです)、次世代に関してもまずはHSPA+を経由してからLTEへの移行を計画しているとされます。つまり「LTEは後から派」です。
さて、北米最強のベライゾン、数で上回る相手の出現に対しどう出てくるでしょうか?
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