原発の件についての説明を書いてみた(私の知っている程度で)
原発の件について、少し書いてみましょう。
どうにも(残念なことにメディアも含めて)、過大に不安を煽る話を見かけるということで、私の知っていることを少し書いてみます。
なお、私が解っているレベルのことを書くだけなので(注意!)、全て正確なことを書いているとは限らない点には注意してください。
まずまとめ
- 格納容器が健在なら、冷却に失敗しても大惨事はほぼ起こりません
- 格納容器が健在でなくても、冷却に成功すれば問題ありません
- 発表によれは、格納容器は健在です
- 爆発は、格納容器の外側で発生したもので、建物の外側が吹き飛んだだけです
- 格納容器は超頑丈に作られていてめったなことでは壊れません、最終防御装置だからです
- もし仮に最悪の事態(格納容器が深刻なダメージを受けていてその上で冷却に失敗)が起こっても、関東全域で「今すぐ」に天文学的な人が亡くなるというようなことは起こらない
◆原子力発電所はこういう感じになっている
まず、今回の事件に関係のある部分を抜き出して、原子力発電所の構造がどうなっているのかを説明します。
大まかに言って、中心部から順番にこういう構造になっています。
- 炉心(核反応が行われている部分)
- 圧力容器(原子炉そのものの容器)
- 格納容器(最終防御装置)
- 建物(吹き飛んだ部分)
◆「熱」とは何か?
原子力発電所に核反応により熱を発生させている中心部分があります。ここでは仮に「炉心」と呼んでおくことにします。発電は、ここで発生した熱で水を沸騰させて水蒸気を発生させ、水蒸気の力で発電機(タービン)を廻すことで行われます。
今回は地震と同時に自動停止装置が動作しており、核反応は既に停止しています(ここは大事なところです)。ですので、今問題になっている「熱」は炉が停止していないということではありません。
原子炉の中心にはウランが燃えた結果として放射能(放射性物質)があります、放射性物質とは原子核が不安定な物質のことで、時間が建つと原子核が自己崩壊する性質があります。そして、自己崩壊する際に熱が出るために、炉が停止していても熱が出ます。今回問題になっているのはこの熱です。
◆なぜ問題なのか
熱が出ると何が問題なのでしょうか。それは、高温になると炉心が溶けてしまう恐れがあるからです。そのため、常に冷却を続ける必要があります。
なので、当初の設計では、
- 大きな地震が起こったら、自動で核反応を停止する
- 炉の停止後も冷却を続けるが、冷却装置を動作させるには電気が必要
- 電力網が破壊される場合も考えられるので、自家発電して自前で電気が復旧するまで冷却できるようにする
今回は、核反応は停止したけれども、自前での冷却が十分に行えなかったという事件でした。まず最初に行われていた努力は、何らかの手段で炉心を冷やそうとする努力でした。
◆格納容器が鍵
じゃあ、冷却に失敗したらすべて終わりなのかといえば、そうではありません。
原子炉は最悪の事態を考えて設計されていて、炉心部分は炉心部分で最善を尽くして安全を確保するとともに、その外側の設計においては「炉心が最悪の形で暴走してしまう」ということを前提として、それでも大事故を防ぐような作りになっています。
最悪の事態が発生、例えば炉が暴走して以下の部分が溶けてしまうようなことがおこっても、
- 炉心(核反応が行われている部分)
- 圧力容器(原子炉そのものの容器)
以下の「格納容器」が最悪の事態を防ぐべく設計されているということです。
- 格納容器(最終防御装置)
格納容器は恐ろしく頑丈な防御壁だと思ってください。格納容器が健全ならば、炉心が大変なことになってもとりあえずは受け止める事ができるという作りになっています。要するに一般の人(ないしはマスゴミの煽り)が予想するよりもよっぽど頑丈な作りになっているということです。
あるいは、最終防御装置たる格納容器が大丈夫かどうかが、大事故になるかどうかの分かれ目だといえます。もし、格納容器が大丈夫ならばとりあえずは大丈夫(最悪の事態はおそらく避けられる)ということです。
◆あの爆発は何なのか?
では「あの爆発」は何だったのでしょう。
あの爆発は、最終防御装置である「格納容器」を守るために、中に溜まった高圧ガスを放出したところ、ガスに水素(爆発しやすいです)が混ざっていたために、放出後に外側で爆発してしまい、建物の上側が吹っ飛んでしまったという事故だったようです。
メディアでの報道の順番を追うと、
- まず最初に爆発の映像が公開された
- その後、枝野さんによる説明
派手だった「爆発の映像」が何を意味するか解らないので、不安が広がりました。これまでに説明したとおり、格納容器が大丈夫ならとりあえずは大丈夫なのですが、もしあの爆発が格納容器がダメージを追ったことを示すものなら、あるいは格納容器そのものが爆発したということなら、事態は深刻でした。
しかし、(一般人にはわかりにくい説明でしたが)12日の夕方に枝野さんが以下のように明言しました。
- 爆発は格納容器の外側で発生した
- 格納容器は健在である(これは非常に大事な情報)
- 格納容器の圧力を下げるために、つまり格納容器を守るために中の気体を放出したところ外側で水素が爆発した(いわば格納容器を死守するため作業で副次的に外側で爆発が起きた)
枝野さんの説明は、格納容器が健在だから大丈夫だぞ、と明言する意図の非常にわかりやすい説明でした。
なお、「中の気体」は弱いながらも放射能を帯びています。よって、出来るならば放出は避けたかったはずですが、最終防壁たる格納容器を守り抜くために決断がなされたと思われます。
◆現在の防御体制はこうなっている
つまり、炉心の冷却に成功する、格納容器が健在である、以上のどちらかが成功すれば大事故にはならないということになります。
格納容器については既に書いたとおりです、何かの理由で想定外のダメージを負っていることだけが心配されますが、発表によるとそれはなさそうです。圧力上昇に対しても、中の気体を放出するようになったので、とりあえずは大丈夫になりました。
冷却については、ポンプを持ってきて水を流し込んで炉心を冷やすとともに、格納容器の中に海水を流し込むことで二重の対策がとられるようです。
また、「ホウ酸を投入」と言っているのは、これはさらに念のための措置です。ホウ酸には核分裂反応の連鎖を抑止する性質があります。現在既にウランの核分裂反応は停止していますが、今後万が一何かが起こってしまった場合にも、ホウ酸を送り込んでおくことで、核分裂反応が再度始まってしまって制御できなくなる最悪の事態を防ぐための予防線です。
◆もし大事故になったとしても
上記の通り、爆発はありましたがむしろ事態は収束に向かいつつあると思えます。
なにやら、大事故が起こる寸前であり、仮に事故が起こると関東全域で今すぐに天文学的な人が亡くなるというような話が広まったりもしているようですが、正しくないと思っています。
もし大事故が起こった場合には、汚染はされますから確かに長期的影響は免れないでしょうが(例えばずっと住むには微妙な地区が出来たりするかもしれません)、人が「すぐに」バタバタ死ぬようなことは起こらないはずです。そもそもそんなに多量の汚染物質は無いからです。
むやみに外に出ないようにして、特に雨(放射性物質に汚染された雨)に打たれたりしないようにしばらく注意すれば、対策もできるはずです。汚染レベルは短期間で一気に下がるので(半減期が短い物質が減るため)、何かあった場合も当面おとなしくするだけでかなりの対策ができるでしょう。
私の理解する限りにおいてではありますが(注意!)、「今すぐに天文学的な人が亡くなる」ようなことは最悪の事態を想定しても起こらないので、パニックを起こすのは止めておいたほうが良いんじゃないかという意見でした。
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コメント
解説ありがとうございます。
現地の正確な情報は私にはわかりませんが、
格納容器(最終防御装置)が重要なことは
よくわかりました。
いつもながら大変わかりやすい解説で、勉強
になりました。
投稿: モコム | 2011/03/14 13:00