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488 「TDD」と「FDD」の違い(LTEとTD-LTEの違いとは)

「LTE」と「TD-LTE」のどこが「根本的に違う」のか、解るように記事を書いてみましょう。「TDD」と「FDD」の説明をしてみたいと思います。

おそらくこれから話題にされることになる「TD-LTE」を理解するためには・・あるいは、これから流行るかもしれない「TD-LTEの過剰評価」の流れに間違って乗せられてしまわないためには、「TDD」と「FDD」の違いや、「TDDの欠点」を知っておくと役に立つのではないかと思いましたので、つたないながら記事にしてみます。

◆かつて「TDDすごい」があったが、今は無いということ

「TDD」が無駄に褒められる現象、実は過去に一度発生済みです。その再発生が懸念されるので記事を書いています。

というわけでまずは昔話です。

昔、TDD系の第三世代が「従来の第三世代を超える新技術」であるとして(一部で)紹介されていたことがありました。でも、私達が今現在「第三世代携帯」と呼ぶものほとんどは「FDD」です。
#中国でサービスインされつつあるTD-SCDMAを除けば

TDDはすごい!と(一部で)言われてれていたのに、時間が経った今、全然使われていないのです。結果としては「すごくなかった」のです。

・昔(一時期):TDDなCDMAはすごい!
・現在:結局ほとんど使われてない(国策で保護されて延命した中国以外では)

まずは、かつて「無駄なTDDブームがあった」ことは覚えておいてください。

話題になっていた証拠としてこういう話があります。

実はイーモバイル(イーアクセス)もソフトバンクも最初は、「TDD系の第三世代で携帯に新規参入するぞー」と息巻いていたのです。

・最初のソフトバンク:TD-CDMA で参入するぞ!
・最初のイーモバイル(イーアクセス):TD-SCDMA(MC)で参入するぞ!

結局、両社とも途中で「W-CDMAが現実的」と気がついてしまいました。ソフトバンクについてはさらに「新規参入しない方が現実的」と気がついて?、ボーダフォンを買収したので新規参入自体なくなってしまいました。

なお、これも現在の状況に少し似ているのでついでに書いてしまいますと、「TDD系のCDMA=中国」というイメージがありますが、ソフトバンクが検討していたものも、イーモバイルが検討していたものも、中国方式とは別のものでした。

いい加減な説明になりますが、
・TD-CDMA:日本などで作られた「TDDなCDMA」
・TD-SCDMA(MC):アメリカで作られた「TDDなCDMA」
・TD-SCDMA:中国が国策で作らせた「TDDなCDMA」

「別に中国方式だけではない」ということも覚えておきましょう。

おそらくこれから「TDDなLTE」の話題が出てくると思うのですが、以下は覚えておいて損はないと思います。

・かつて、無駄なTDDブームがあったこと
・TDDなCDMAと同じく、TDDなLTEは別に中国方式(TD-LTE)だけではないこと
(極端な話、WiMAXやXGPもTDDなLTEの親戚と言えます)


◆「TDD」とは?「FDD」とは?

では次に、TDDやFDDとは何かを(いいかげんに)説明してみたいと思います。
#以前から読んでおられる人には復習になります。

携帯電話で通話/通信をする際には、当然ながら以下のような通信が行われます。
・基地局→端末(下り)
・端末→基地局(上り)

携帯電話では、「下り」と「上り」をどうやってきっちり分離するかが大問題です。なぜならば、「下り」と「上り」が衝突すると困ったことになるからなのです。

・下り:基地局の強力な出力の電波を、端末の小さいアンテナで拾う
・上り:端末のアンテナの弱い電波を、基地局の巨大アンテナで拾う

人間の話し声で比喩してみましょう。

・下り:耳の悪い人に向かって、ものすごい大声で喋っている
・上り:声の小さい人の声を、耳を済ませて聞き取っている

もし、「声の小さい人の声を、耳を済ませて聞き取っている」真横で「ものすごい大声」を出されたらどうでしょう。聞こえなくなってしまいます。つまり上りと下りが衝突すると困るのです。

FDDはFrequency Division Duplex(周波数分割複信)の略で、下りと上りを「違う周波数」に割り当てることで、下りと上りが直接に衝突する可能性を排除してしまった方法です。

恐ろしい事態をまず最初に排除してしまった、という意味ではスマートな決断です。ただし、下りと上りで使う周波数をそれぞれ別に用意する必要が生じます。

また、下りと上りは周波数を分けるだけではなく、「適度な間隔」をあけておく必要があります。なぜならば、周波数が近いと電波が互いに回り込んでしまって分離できなくなるためです。かといって、あまりに周波数が離れると、上りと下りのアナログ処理的な部分(例えばアンテナとか)が互いに別物になってしまうなど非効率になります。

FDD
・「適度な間隔」で「帯域のペア」を用意する必要がある
・上りと下りは専用帯域になる
・上りと下りが衝突する心配は少ない

大半の携帯電話の通信方式(GSM,PDC,W-CDMA,CDMA2000,LTEなど)はFDDを採用しています。

一方TDDはTime Division Duplex(時分割複信)の略で、「同じ周波数」を時間ごとに切り替えて使うことで下りと上りを分離する方法です。

時間で切り替えて使うので帯域は一つで済みます。ですから帯域の確保は簡単になります。しかし、違う周波数ではないので、何か一つ間違えると「下りと上りが衝突してしまう」可能性が生まれます。

TDD
・帯域はペアになっている必要は無い
・上りと下りは同じ帯域
・上りと下りが衝突する可能性がある

TDDな方式としては、PHS,WiMAX,XGP,TD-SCDMA,TD-LTE,iBurstなどがあります。

時間で切り替えるだけだから簡単なのでは?心配しすぎじゃないの?と思うかもしれませんが、実はそうでもないのです。


◆TDD地獄

携帯電話と端末は当然ながら一対一ではありません。端末は一つではありませんし、基地局も一つではありません。

簡単に思えるのは「一対一」をイメージしているからなのです。

端末からの「上り」の電波を聞こうと基地局が静かにしていたとします。その時、もし「隣」の基地局が「下り」の電波、つまり「大声」を出してしまったらどうなるでしょうか。

その場合も上りと下りが衝突して聞こえなくなってしまいます。

実際、この現象で大事故を起こしたキャリアがあります。それはなんとウィルコム(当時のDDIPocket)です。本来のPHSよりも高出力な基地局を配置していたためでした。

ウィルコムはこの問題をどうやって乗り越えたかというと、「全ての基地局を同期させ、上りと下りのタイミングを揃える」ことで衝突しないようにしました。つまり「日本国中」で「今は上りの時間」「今は下りの時間」と揃えるようにしたのです。

その対策をとるため、一時的に電波を止めてサービスを中止し、お金のかかるGPSで時間を取得して同期を取る、という大変なことをしなければならなくなりました。
#日本のモバイルWiMAXでも、同様の対策がとられています

同期すれば衝突の心配はなくなるかといえばそうではありません。「遠くの基地局の電波」による衝突が起こる可能性がまだあるのです。

光(電磁波)には速度があります。よって電波にも速度があります。遠くに届くまでには時間がかかります。

時間がかかるということは、「基地局から発射された時刻」と「その場所に届いた時の時刻」が少しずれるということです。

つまり、こういうことが起こる可能性があることになります。
・たった今、基地局は静かにして端末の電波を聞く時間に突入
・しかし、遠くの基地局が「大声を出して良い時間」に放射した電波が遅れてやってきて、「静かにする時間帯」に届いてしまって衝突。

また対策が必要になってしまいました。

対策
・多少遠くから届いても大丈夫なように「上りの時間」と「下りの時間」の間に「待ち時間」を設ける
・しかし、あまりに「遠くから届いても大丈夫」なようにすると、「待ち時間」が長くなって無駄になるので、基地局が電波を飛ばしてよい距離を制限する

「待ち時間」はつまり無駄な時間です。電波の利用効率が下がってしまいます。
「基地局が電波を飛ばしてよい距離を制限する」というのはつまり、基地局のセル半径を大きくするのが難しいということになります。

どちらもあまり望ましい現象ではありません。

このようなことがあるため、エリクソンがLTEのTDDモードに対応した基地局の試作品を披露した時に「TDDは性能が劣るので、事情が無い限りは通常のLTE(FDDなLTE)をお勧めしますが」とか言ったこともあります。

例えば以下でもこのように言っています、

エリクソンのNGN/IMS/LTE戦略を聞く(4):エリクソンのLTE製品開発ロードマップ
http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/20080409/591

当社の立場は、ビット・パー・ヘルツ(bit/Hz、1Hz当たり送信できるビット/秒数)で表されるスペクトクル利用効率についてFDDとTDDとを比較すると、FDDのほうが利用効率が比較的よく、またTDDにおける基地局と端末の間でのさまざまな干渉の問題もあるため、FDDのメリットが高いと見ています。

なお、エリクソンはFDDとTDDの両方に対応したLTE基地局を開発して随分前にテストしています。エリクソンとしては「FDDなLTEに利権がある」のでFDDひいきなところもあるはずですが、TDDの技術開発が何も出来ていないからこんなことを言っているわけではないのです。


◆TDDのメリット

以上のようにTDDだと色々な面倒なことが起こります。原因は「時間での分離」が「鉄壁の分離方法ではない」ためです。

もちろんTDDは欠点ばかりではありません。FDDより優れている面もあります。

「かつてのTDDブーム」では、TDDでは上下比率を動的に変化できる、ことが優れている点として紹介されていたりしました。どういうことかというと、

・FDD:上りと下りは周波数で分離されているので、上りと下りの「配分比率」は変更不能
・TDD:時間で分割しているだけなので、時間の分割比率を変更すれば、その場で上りと下りの「配分比率」が変更可能

つまり、

「上りの通信が多いときには上りの時間を増やし、下りの通信が多いときには下りの時間を増やせば効率的」

という話です。

でも考えてみてください。上下比率が「状況で変化する」ようにするためには、「上りの時間帯」と「下り信号の時間帯」が、状況によって変化しなければなりません。それはつまり、

「上りと下りが衝突する危険性を高める」

ことになります。

実際、本来モバイルWiMAXは上下比率を動的に変化させることができるのですが、日本のモバイルWiMAXではわざわざ「上下比率を1:2に固定」して使っています。その理由は「上下の衝突が怖い」からだと思われます。

また、どっちにせよ

・上下比率が自由に変更できたところで、効率の向上は最大二倍に過ぎない。

「画期的な効率向上が見込める」的なことを書いてある場合もあるようですが、100%下り(ありえない状態)にしたところで二倍が限度です。効率向上の効果はありますが、劇的なものではありません。


TDDには他にもメリットがあります。基地局からの電波を端末に向けてビームのように集中させることが容易だというメリットがあります。
#ビームフォーミングという

・端末が電波の届きにくい場所に居ても、端末に電波を集中させることで圏外になりにくくできる

とか

・電波が不必要な場所に届かないようにできる
・不必要なところに電波が届かなければ、その電波を別の目的に使うことが出来る

電波の飛び方(飛ぶ経路)は周波数が違うと異なり、周波数が同じだと同じになります。
FDDでは上りと下りが違う周波数なので、当然に上りと下りの電波の飛び方や飛ぶ経路は異なることになります。

しかしTDDの場合には上りと下りが同じ周波数なので、上りと下りが同じ経路を通る現象がおきます。そのため、

・FDD:どの方向に向けて下りの電波を発射すれば端末に電波が集中するのか、簡単には解らない
・TDD:単に端末から電波が飛んできた方向に基地局から電波を送り返せば、端末に電波が集中する

ウィルコムはこの技術に長けており、XGPもこのノウハウが活用できるように配慮されています。ただ、これは色々な配慮があってのことなので、他の技術、例えば現状のモバイルWiMAXでは同じようなことは出来ていません。TDDでさえあればビームフォーミングが容易というわけではわけです。


エリクソンが「TDDはお勧めしない」ような事を言っているように、TDDを採用した場合、まずはTDDの問題点を解決しなければならないはずです。

PHSも初期にはいろんな失敗があり(PHSの場合はTDDに加えマイクロセルでもあります)、上記のとおりトラブルで停波するという情けないことまでやっています。問題点には実際に運用しないとわからないこともあります。良い面は大抵、悪い面を克服した後でないと十分に生かせなかったりするものです。PHSは長年の汗と涙によりTDDの問題点を身をもって体験し解決方法を会得してきたはずです。大昔からTDDに取り組んできたゆえのことです。

ですが、他の技術についてはどうなのかわかりません。またXGPについても、PHSのノウハウが次世代でも本当にそのまま生かせるの?という疑問点があります。

TD-LTEには同じくTDD方式のTD-SCDMAで長年苦労した経験がTD-LTEに生かされていて大丈夫なのかもしれません。あるいは逆に、長年TD-SCDMAが駄目だったのは根本的に駄目だったからで、現状でも引き続き駄目で、TD-LTEも現状では机上で調子の良い話をやってるだけのレベルかもしれません。


最後に最初の話題に戻りますと、

・普通の「LTE」はFDD
・TDDはメリットもあるが、FDDより難儀な点が多い
・だから、TD-LTEとLTEを同じように考えるのは要注意
・特に、TDDのメリットばかりが書いてある記事には注意
・実際、TDDなCDMA(TD-SCDMA)は長年完成しないままだった
(「調子の良い話」は出てくるが、ちっとも完成しない)
・TD-LTEが「TDDの難儀さ」を乗り越えているのかどうか解らない
・TDDなLTEは中国が作っているものだけではない



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コメント

とても詳しく参考になります。
ありがとうございます。
他の内容も拝見させていただきます。
ダイナマイト。

投稿: ダイナマイト | 2010/07/01 18:24

中国が自国の数に任せてTD-LTE方式を東南アジア一帯に迄広めようとしている記事を読んで、何のことだろうと思って調べました。このページを読んで、FDDとTDDの違い、特徴、及びLTEではそれがどう影響するかはやってみないと判らない所がある、等など大変良く解りました。どうも有り難うございました。

投稿: 滝澤 睦夫 | 2013/08/24 12:11

TDD方式とFDD方式の違いはほかにもたくさんあります。

投稿: sawa | 2015/05/15 23:48

うあ~話が長い!
しかも、つまらない!
結局、最後まで読んでも要点がはっきりしない。
マスを埋めているだけの救いようのない文章。
ネット上は本当にひどい文章が多いですね。

投稿: ヨッシーアイランド | 2017/06/20 16:30

とても興味深く読ませていただきました。
ウィルコムとかイーモバとか懐かしい名前だなあ、
と思ったら7年前の記事(^^;

投稿: アザース | 2017/06/21 11:35

すごいわかりやすくてよかった。
これからも頑張ってください!

投稿: ぴゅうたん | 2018/05/02 09:09

TDDにおける時刻同期についてとてもよくわかりました。ありがとうございました。ちなみに、FDD-LTEを採用しているNTTドコモなどは、基地局の時刻同期をとっていないのでしょうか?(同期する仕組みを入れない方がコスト安)

投稿: もったん | 2019/01/09 16:57

この記事へのコメントは終了しました。

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受信: 2010/05/31 22:57

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