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502 「次世代」の速度は結局どれくらいになりそうか?(HSPA+/WiMAX/LTE/XGP)

「非常に大雑把な話」として(注意)、次世代通信の速度はどの程度になりそうか、ということを書いてみたいと思います。

書いてみてから、あんまり意味のないことを書いてるな、と思いましたが、しょうがないので投稿。


◆劇的な速度向上が難しい、という復習

IT関係の世界では、「信じられないような性能の向上の連続」というのが当たり前です(ないしは「でした」)。ですから、モバイル通信の速度も同じように、10倍だ100倍だ、気がついたら1000倍だ、という風に進歩してゆくものだ、と思い込まれているところがあるように思います。

ですが、例えばCPUの劇的な演算性能の向上は「ムーアの法則」で示されるようなどんどん伸びてゆく未来が示されてきたのに対し、モバイルの速度(容量)は「シャノンの限界」という「理論的な天井」に制限されています。

しかも困ったことに、現行の技術ですでに利用する電波の帯域あたりに出せる速度は「理論的な天井」の近くまで来てしまっているという事実があります。

現在、次世代通信技術が「異次元の凄い速度がでるようになりますよ」と言っているのは
・広い帯域を一人で占有
・基地局の超近くなどノイズが非常に少ない状況
・MIMOなどによるインフレ
というような状況でのトップスピードのプレゼン競争の側面があります。

このプレゼン競争に「IT関連は凄い勢いで進歩するものである」というイメージが合わさって、一部で無用な誤解があるように思います。

実際の利用環境では
・限られた帯域を沢山の人間が共有して利用するので、混雑で速度低下する
・電波状態がそんなに良くなければあっさりと速度低下する
・帯域を新しく確保するのは難しい
・基地局の増設は容易ではないし、コスト増につながる
と、そう簡単には行きません。(かつての)CPUの性能のように「ぐんぐん伸びる競争」というより、残った隙間をいかに上手に埋めるかという競争に近くなっているのではないかと。

ただし逆の誤解(例えば「今のままで進歩は無い」)も正しくないのではないかと思われ、

・しかし、これから将来に向け着実な性能向上は続く
・次世代通信技術は結果的に、現在とは全く違うモバイル高速通信の世界をもたらすだろう

ということもまた事実だろうと思います。

ただこれは、ITへの素朴なイメージのような「ありえない勢いの進歩」というより、自動車の燃費って昔と比べてすごく良くなって感心します、というイメージに近いのではないかな、と。


◆クアルコム曰く、LTEもHSPA+もそんなに性能差は無い

以下、「着実な進歩」の側面を端折っていることに注意して読んでください。

以前、モバイル通信関連の技術での世界の王である「クアルコム」が、「LTEもHSPA+もそんなに性能差は無いぞ」と言っているという記事を書きました。

クアルコムCEO曰く:「HSPA+もLTEもそんな変わらない」
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2009/03/524-ceohspalte-.html

上記記事にも目を通していただければと思いますが、

クアルコムの主張
・理論的な速度限界が近いのが現状
・LTE(などのOFDMA系)の方が速度面(帯域利用効率)で優れているが、HSPA+との間に大きな差は無い
・だから基地局を沢山作るような方向が今後の正しい方向である(が現行の携帯電話の技術ではこれが難しい)

また、その次に書いた記事で触れましたが、

LTEでは「オフライン」の概念が無いかもしれない
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2009/03/523-lte-e11a.html

・少なくとも現在のところ、MIMOはあまりうまく働かない

という発言もされています。そもそも、第三世代系でのMIMOの採用も可能ですから、LTEだけが使える技ではありません(次世代系の方がMIMOとの親和性は高いですが)。

◆「大まかな」予想

また、他にはこういう要素があります

・W-CDMA/CDMA2000は技術として枯れていて安定している
・OFDMA系(モバイルWiMAX/LTE/XGP)はまだ技術的に発展途上で、最初は持っている能力を十分に発揮できない可能性がある
・最悪の場合には、OFDMA系はやっぱり駄目だった、となって総崩れ(ただし可能性はあまり無い)
・最高速度面ではOFDMA系の方が優れるが、干渉に対する性能は(現在のところ)第二世代に近いので、基地局の電波が干渉した場合の安定性は、第三世代の方が勝る可能性がある

そして何より、

・速度(容量)は利用する帯域幅に比例して改善する

という実に解りやすいルールがあります。

とりあえずは、2015年や2020年のようなずっと先は別にして、今年や来年すぐのレベルではクアルコムの言うように、
・第三世代の発展系であるHSPA+と、OFDMA系の技術には大きな速度面での性能差は無い
かもしれない、ということになります。

また、以下の記事ですが、実はあんまり良く考えずに書いているということは念を押しておきつつ書いてみたいと思います。

◆次世代第一ステージ

では、日本で近いうちに問題になる「次世代っぽいもの」が用いる帯域幅を書き並べて見ましょう。

・モバイルWiMAX(10MHz):帯域は上下兼用、下り2:上り1
・XGP(10MHz):帯域は上下兼用、下り1:上り1の上下対称
・HSPA+(10MHz:5MHz×2):下り専用帯域が5MHz幅、上り専用帯域が5MHz幅

実のところ「10MHz幅」で横並びであることがわかります。スペック上の最大速度についても、

・モバイルWiMAX(10MHz幅):40Mbps(MIMOなしなら20Mbps)
・XGP(10MHz幅):20Mbps
・HSPA+(10MHz幅:5MHz×2):21Mbps

と似たような数字になっています。

もちろん、最高速度以外の面について、実際に使ってみた感触ではそれぞれの技術にはいろんな違いがあるはずです。実際、
・モバイルWiMAXは他と比較して不安定
・XGPはエリア内なら安定
・HSPA+は、すでに利用者が沢山居るので混雑時は顕著な速度低下がある(しょうがない)
・HSPA+はエリア外でもHSDPAとして使えるのでエリアで安心
とか、違いがあります。

しかし、状況が良い場合の速度を持ってきて「xxMbpsが出ました~」みたいな話になった場合には、互いに大きくは違わない数字になるはずで、実際のところ現在報告されている数字は、そういう感じになっているようです。

現時点の利用者にとっては「その違いこそ全て」でもあるのですが、長い目でみると、似たような数字ではないかなと思ってみています。

#むしろ利用者にとっての違いは速度面以外にあるのではないかと


◆次世代第二ステージ

では、話をもう少し先にしてみましょう。もうしばらくするとLTEが始まったり、DC-HSDPAが始まったりします。

・モバイルWiMAX(20MHz幅):80Mbps=40Mbps×2(MIMOなしなら40Mbps)
・XGP(20MHz幅):40Mbps(MIMO無しのままの場合)
・XGP(20MHz幅,2x2MIMO):80Mbps
・DC-HSDPAかつHSPA+(20MHz幅:5MHz×2×2):42Mbps
・DC-HSDPAかつHSPA+かつMIMO(20MHz幅:5MHz×2×2,2x2MIMO):84Mbps
・LTE(20MHz幅:10MHz×2、2x2):86Mbps(MIMO無し換算なら43Mbps)
ないしは
・LTE(20MHz幅:10MHz×2、2x2):59Mbps(MIMO無し換算なら29.5Mbps)

LTEの速度は手抜きで過去の記事の数字をそのまま持ってきました。

「LTE実験で120Mbpsの通信を確認」はどの程度のものか?
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2009/03/526-lte.html

の「モトローラによる数値」の数字を持ってきました。数字が二つある理由は上記記事をご覧ください。

LTE開始までにイーモバイルが42Mbps化をするのは確実だろうと思います。MIMO無しの数字だと似た数字になるでしょうが、MIMOが効いている分、スペック上での速度はLTEが上になります。

ただ、イーモバイルもMIMOを採用した場合には84Mbpsになり、スペックでも似た数字になるはずです。ちなみに以前の記事に書いたとおり、エリクソンはHSPA+の84Mbps化を実用化しつつあります。

クアルコムの言うとおりになった場合、実測できる最高速度では確かにLTEの方が上になるけれども、HSPA+との速度差は大きくは無いだろう、ということになります。利用している帯域幅は同じですから。

もしイーモバイルが、LTEとHSPA+の両天秤という日和見をやめ、早期に「1.7GHz帯は全部HSPA+に使います」と宣言して「帯域三つ束ね」をしてMIMOまでやってしまった場合、LTEを含めてもイーモバイルが日本最速になるかもしれません。

その場合はイーモバイル、日本初の100Mbps超えを宣言できることにもなるかもしれません。

XGPも計画されている高速化、20MHz幅対応や、MIMO対応をすればこちらもスペック上は80Mbpsと同じ領域に到達します。ただ、実測される最高速度がどうなるかは私にはわかりません。

モバイルWiMAXも20MHz幅対応をする技術的余地はありますが、モバイルWiMAXは基地局同士が干渉しての性能低下を避けるため、現在のところ帯域をこのような運用にしているようです。

・10MHz幅A:屋外用周波数A
・10MHz幅B:屋外用周波数B(干渉を避けるため周波数Aと互い違いに利用)
・10MHz幅C:屋内基地局専用

蛇足ですが、KDDIはモバイルWiMAXの欠点(とされるもの)をカバーするために、
・上記のような周波数の利用を行っている
・通信の上下比率を固定
・基地局間の同期
ということをしているようで、大変に慎重な運用がなされています。

日本のモバイルWiMAXが比較的健闘しているのは、上記のような運用をしているからかもしれないので、下手すると

「20MHz幅運用にしたとたん、大変なことになりました」

となってしまい、手を出せないかもしれません。もっとも、もしそうだったとしても

・モバイルWiMAX(10MHz幅、4x4MIMO):80Mbps=20Mbps×4(MIMOなしなら20Mbps)

とする方法はあります。4x4MIMOを用いた場合にはスペック上の速度は上がっても、実際の速度はちっとも上がらないということになると思いますが。崩壊するよりましです。

なお、XGPの場合は「基地局同士が干渉しない技術」なので、PHS由来の「干渉しない技術」の開発が及第点のところまで進めば、20MHz幅運用は割と問題なく行える、のではないかと思います。ただ、「ちゃんと開発が出来れば」ですが。

LTEの場合は、XGPのようには自動で干渉をしないようには動作したりしませんが、セルの境界に配慮した動作をするようには計画されているようです。

ただ、これがうまく動作しない場合には(日本の都市部の厳しい状況で動作不良が発生するなど)、モバイルWiMAXと同じように帯域を二分割してエリア設計しなければならないかもしれず(そんなことにはならないと思いますが)、

・LTE(10MHz幅:5MHz×2、2x2):43Mbps(MIMO無し換算なら21.5Mbps)
ないしは
・LTE(10MHz幅:5MHz×2、2x2):29Mbps(MIMO無し換算なら14.5Mbps)

となるかもしれません。あるいは3.5世代で「LTEの穴」を埋めることになるでしょうが、その場合にはLTEと3.5世代のハンドオーバーがスムーズに行えないと、やはりおかしなことになるはずです。

ちなみに、HSPA+には上記のような各種リスクが少ないという特徴があります、なにしろ既存技術に下駄を履かせただけですから。ただし、優れた性能も期待しにくいのではないかと思います、なにしろ既存技術に下駄を履かせただけですから。


◆「実際に使ってみてどうか」は解りません

通常に利用した場合に体感できる速度はどれくらいだろうかとか、混雑時間帯の速度がどうなるのかとか、圏外になりにくいかどうかとか、移動時の性能とか、そもそもエリア化の速度はどうかとか、消費電力の面(携帯電話っぽい端末に搭載できるかどうか、でも問題になる要素)などでは、それぞれかなり違いが出てくるのではないかと思います。

このあたりはスペックや実測速度競争と違って、どういう状況なのかが解りにくいのも困ったところです。

また、

・モバイルWiMAXはどうも技術として作りが甘いようだが、今後の改良は無視できない
・XGPはいろんな意味で未知数。大躍進の可能性も、早期滅亡の可能性も
・HSPA+は無難な性能だろうが、悪い意味で無難な性能という結末になるかもしれないし、OFDMA系が初期不良に苦しむ中、無難さゆえに黄金時代になるかもしれない。
・LTEはまだお披露目されていない、多分しっかりしたものが出てくるだろうが。

とりあえず、今回問題にした側面については、

20MHz幅(上下あわせて40MHz幅:20MHz×2)のLTEでも開始することになっていれば、他の技術と圧倒的なスペック差がつくことになったかもしれませんが、1.5GHz帯は細切れになりましたから、案外と長期間の団子レースになるかもしれません。

#ただし「実際に利用して快適か快適でないか」では大きな差がつくかもしれません

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