498 「ドコモのフェムトセル」と「AUのフェムトセル」の違い
前回(リンク)の続きです。
◆ドコモがフェムトセルをサービスインする
まず、ドコモがサービスインするフェムトセルについてのニュースを引用します。
今秋提供のフェムトセル――ドコモが考えるサービスの将来像
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0907/24/news078.html
通常の基地局との電波干渉は「まったく起きないわけではないが、利用状況に応じて自動的に干渉を軽減する機能をフェムトセル基地局に持たせている」(説明員)という。
電話番号を登録した端末のみと通信する仕様で、接続できるユーザーは最大4人。不特定多数が利用する通常の基地局と違い、通信速度の低下が起きにくく、音楽や映像ファイルも快適にダウンロードできるとしている。
“限定したエリアで特定の端末のみと通信する”特徴
自宅に設置したフェムトセル基地局で、自宅で使う端末のみと通信する、「いわば家族専用の基地局のようなもの」で、通常の基地局との干渉が起きないように最小限の出力で動作するもののようです。
場所は自宅だけで通信相手は家族だけに限られるため、
“限定したエリアで特定の端末のみと通信する”特徴を生かし、家族の在宅状況を外出先で確認できる「在宅プレゼンス機能」の提供も可能となる。端末がエリア内にあるかどうかで、家にいるかいないかを判断し、家族の帰宅をメールで知らせたり、サイトで確認できるようになる。
限定的なカバーしかしない基地局であることを逆に利用したサービスです。
◆AUのフェムトセル
[KDDI]来年初めにフェムト実験,高層住宅の電波対策に
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20090803/334962/?ST=network
KDDIがフェムトセルを導入する目的は,都市部の不感地域の対策。屋外の基地局では,特にマンションの高層階をカバーし切れないケースが多い。こうした場所にフェムトセルを展開する。
KDDIのものも基本は、スポット的な圏外対策です。
不感地域対策としてフェムトセルを実用化済みのNTTドコモとソフトバンクモバイルは,家庭内に置かれたフェムトセルを使って付加価値サービスを提供する意向を見せている。例えば,子供の携帯電話がフェムトセルにつながったら親にメールを送るといったものだ。しかしKDDIは,現時点ではこうしたサービスは想定していないという。
こちらの記事にも「不感地域対策としてフェムトセルを実用化済み」とあります。
ただし、「干渉対策」の方法がドコモとは違う方法を取っています。
KDDIが利用するCDMA2000では,5MHz幅の帯域に1.25MHzの3本の搬送波を乗せている。KDDIは2GHz帯にある割り当て帯域で使われる搬送波のうち,1波をフェムトセル専用に割り当てる予定。このため,既存の搬送波との干渉を気にしなくて済むという。一方,NTTドコモやソフトバンクモバイルが利用するW-CDMAでは,1本の搬送波で5MHzを使う。屋外基地局とフェムトセルで搬送波を分けられないため,電波干渉が大規模展開の際の問題になっている。
つまり、最初から基地局との干渉が起こりえないようにした、というわけです。
記事にはAU以外ではこの方法は難しいと書かれていますが、実はソフトバンクも「この方法」を取る事が可能です。なぜならばソフトバンク、2GHz帯に4つ割り当てられている帯域のうち一つがほとんど使われておらず、そこをフェムトセル専用とすることが可能なためです。
◆干渉を防ぐ方法:「ひそひそ話」
フェムトセルが干渉を避ける方法には主に二つの方法があります。その二つの方法とは、ドコモが用いている方法と、AUが用いている(用いるかもしれない)方法です。
まずドコモが用いている方法をいい加減な例え話で説明しましょう。
携帯電話「すみません!このあたりに基地局は居られませんか?」
・・・・・・
携帯電話「おーい!(大声で)」
携帯電話(あかん、圏外や)
?「ひょっとして圏外で困っているのか?」
携帯電話「誰ですか?」
?「私はフェムトセルだ」
携帯電話「こんにちはフェムトセルさん」
フェムトセル「しー、声がでかい。基地局に話を聞かれる、もっと小さい声で話せ」
携帯電話「わかりました」
フェムトセル「基地局の電波が弱いなら、代わりに接続をいたそうか」
携帯電話「お願いします」
フェムトセル「ただし、くれぐれもひそひそ話で、基地局には聞こえない声の大きさでたのむ」
(略)
フェムトセル「おっと、電波状況が変わって他の電波が届き出した」
フェムトセル「邪魔になるから、私の仕事はここまでだ」
フェムトセル「では」
携帯電話「え?」
フェムトセル(無言)
#モンスターエンジン風で
◆干渉を防ぐ方法:「専用帯域」
基地局との干渉が問題になるのは、基地局と同じ周波数を用いていることも原因です(原因と呼ぶにはあまりにも当たり前の理由ですが)。
ならば、
・通常の基地局が使う帯域(ちゃんと計画的に管理されて使われる帯域)
・フェムトセルが使う帯域
を別のものにすれば、基地局とフェムトセルの間の干渉は発生し得なくなります。
ただし代償として、帯域の一つがフェムトセル専用として消費されてしまいます。
KDDIがこの方法を検討しているのは、CDMA2000の「有利な点」を生かすためだとも思われます。W-CDMAは5MHz幅×2ごとに帯域を利用するため、フェムトセルごときに5MHz幅×2もの専用帯域を割り当てることになります。しかしCDMA2000では1.25MHz幅×2ごとに帯域を利用しているため、専用帯域を設けることは比較して容易です。
専用帯域を設けるとこういうことになります
・通常の基地局が使う帯域
これまで通り、ちゃんと計画的に管理され、綺麗な状態で使われる。
・フェムトセルが使う帯域
無計画に配置された基地局が干渉しても、フェムトセル同士の干渉に過ぎず、フェムトセルとフェムトセル(の中間部)が干渉で潰れるだけ。
あるいは
・通常の基地局が使う帯域
完全な管理社会
・フェムトセルが使う帯域
ヒャッハー状態
の二つに隔離することになります。
フェムトセルの帯域が基地局乱立でヒャッハー状態になったところで、帯域ごと完全隔離しているので特に問題は無い(そんなの関係ねえ)という方式です。
またこの方法なら、フェムトセルが干渉を恐れてひそひそ話にする必要性はなく、大声で話しても破綻しません。フェムトセル近辺では電波が強くて便利だが、フェムトセルから離れると干渉しまくり(だがそういうところは通常基地局がカバーしているので問題なし)、という状況も許容できることになります。
◆ドコモとAU
ドコモのフェムトセル基地局は、ヒソヒソ話をするフェムトセル基地局で、一方でAUは専用帯域を用いた「そんなの関係ねえ」方式を予定しているということになります。
再度引用します
KDDIが利用するCDMA2000では,5MHz幅の帯域に1.25MHzの3本の搬送波を乗せている。KDDIは2GHz帯にある割り当て帯域で使われる搬送波のうち,1波をフェムトセル専用に割り当てる予定。このため,既存の搬送波との干渉を気にしなくて済むという。一方,NTTドコモやソフトバンクモバイルが利用するW-CDMAでは,1本の搬送波で5MHzを使う。屋外基地局とフェムトセルで搬送波を分けられないため,電波干渉が大規模展開の際の問題になっている。
記事には「ソフトバンクには難しい方法である」とありますが、先にも書いた通り、実はソフトバンク、2GHz帯の帯域の一つをほとんど使っていないため、その帯域をフェムトセル専用の「そんなの関係ねえ帯域」にすることは出来なくはありません。
もっとも、2GHz帯の帯域の四分の一を割り当てる事になるので、思い切った判断をすることになります。ただし、現状では帯域はろくに使われておらず、1.5GHzへの投資に集中するつもりなので、基地局が綺麗に配置されていない2GHzは後回しでよい、ということなら、KDDIと同じ方法を取ることも出来ます。
◆無線LANの方が良いのでは、という意見もある
そもそも、フェムトセル自体要らないのではないかという意見もあります。
実際、ドコモが実現しようとしているサービス、基本的には無線LANでも多くが実現可能なものです(むろん、全部が実現できるわけではありません)。
例えばエリクソンはフェムトセルについて以下のようなコメントをしています、
HSPA+とLTEは並行して導入される――Ericsson、モバイルブロードバンドの動向を予測 (2/2)
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0902/26/news085_2.html
――「フェムトセル」はモバイルブロードバンドで重要になるのでしょうか。エリクソン氏 フェムトセルについては、慎重に対応していきます。オペレーターが抱える問題の種類によって、フェムトセルが適さないこともあります。現時点でEricssonは、ゲートウェイ側で開発しています。オペレーターの反応はさまざまですね。
フェムトセルではDSL回線への接続が必要となりますが、DSL回線を持っている人の多くが無線LAN環境(Wi-Fi)を構築しています。フェムトセルはネットワークの混雑を止めるのが目的ですが、混雑の原因となっているのはデータであり、データ通信を行うノートPCのほとんどがWi-Fiに対応しています。つまり、フェムトセルで解決できる課題は、Wi-Fiでも対応できるということです。
フェムトセルの導入は、音声トラフィックの解決には意義がありますが、ネットワークのキャパシティを上げる際にはデータが問題となります。また、エリアカバーの問題解決にもフェムトセルが有効だと思いますが、キャパシティの問題解決には最適とはいえません。個人的には、フェムトセルが多くのオペレーターが必要とする解決策になるとは思いません。
エリクソンは「携帯電話の基地局メーカー」なので、通常基地局を置き換えるような画期的フェムトセルが登場すると大変困る立場である、というところには注意する必要はある気がしますが、
・エリクソンとしてはフェムトセルにはあまり乗り気では無いらしい
・フェムトセルを設置するブロードバンド回線がある場合、フェムトセル以前にWi-Fi(無線LAN)が利用可能になっていることが多いのでは?
・混雑の原因の多くはデータ通信で、これは無線LANで吸収できる
また、
・フェムトセルはエリアカバーの問題解決(圏外対策)には有効
・キャパシティ(容量)の問題解決には最適では無い
つまりエリクソンも、フェムトセルで携帯基地局網の容量を増加させようとするのは、あまり良い方法では無いと言っている事になります。
フェムトセルは携帯電話の基地局そのものの一種ですから、もしきちんと動けばいろんな可能性を秘めています。ですから、無線LANとフェムトセルを一緒にするのは失礼でもあるのですが、今のところ出来るようになることには大きな違いはない、とも言えますし、今後実際に出来る事に大きな違いが出るのかどうかもわかりません。
とりあえず、フェムトセル基地局より、無線LANのルータの方が確実に安くて面倒が起きないのは事実です。
ちなみに、ドコモもAUも「自宅では無線LANで」は既にサービスイン済みです。実はどっちに転んでも問題は無さそうです。
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コメント
「ヒャッハー状態」吹いたw
投稿: | 2009/08/25 02:35