522 エリクソンが「HSPA+で56Mbpsのデモ」について
まだ例のごとくの内容ではありますが、「エリクソンがHSPA+で56Mbps」というニュースが出ていますので、それについて少し(また)記事を書いてみたいと思います。
◆またもや「理論値」
まずは元のニュースを持ってきます。
Ericsson、下り最大56MbpsのHSPA+をデモ
http://www.itmedia.co.jp/promobile/articles/0904/03/news054.html
Ericssonは、米国ラスベガスで開催されている通信イベント「CTIA Wireless」において、下り最大56Mbpsの通信速度を実現するHSPA技術を世界で初めて公開した。
今回の技術についてEricssonは、2010年中の商用化を予定していることを明らかにした。 なお同社は、2009年2月にスペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congressで下り最大42Mbpsのデモを公開。こちらについては2009年中の商用化を目指している。また、下り最大21.6MbpsのHSPA+サービスは、すでにシンガポールなどでスタートしている。
一部では画期的な新技術が登場したような扱いにもなっているようですが、このブログをずっと読んでおられる人にとっては「またかエリクソン」というニュースではないかと思います。
もうほとんど解っている人向けにごく簡単にまとめてしまうと
・14.4Mbps化×2(帯域2つ束ね)×2(2x2MIMO)
で理論値56Mbpsが実現しただけのことです。
解っている人は以上の説明だけで納得できると思いますが、以下またもや説明してみたいと思います。
◆またもや復習
まず注意して欲しいのは、56Mbpsは「理論値」だということです。実環境で出る速度とは全く異なった数字だと考えるべき数字です。
もしエリクソンが理論値に近いような速度でのデモを行っていた場合には、それはデモのためのデモである可能性が高く、理論値に極めて近い数字でのデモが行われていた場合には「必殺有線接続」が疑われます。
第3世代の高速化手法をまとめると以下のようになります。
既存の第3.5世代の枠組みでの高速化:3.6Mbps→7.2Mbps→14.4Mbps
注意すべきは、スペック上の数値は二倍になりますが、実効速度は二倍にならない事です。7.2Mbps化しても素直に二倍にもなりませんし、14.4Mbps化の場合にはさらに実際の高速化の効果は限定されます。実際の速度向上とコストを考慮すると7.2Mbps化くらいまでで打ち止め(すべき)だろうという予想もあります。ドコモはこの方向です。
64QAM化:×1.5
16QAM(一つの信号で4ビットの情報を送信する)を64QAM(一つの信号で6ビットの信号を送信する)にして、スペック上の最高速度を1.5倍にする方法です。ノイズに弱くなるために電波状態が良い状態でしか効果が無く、基地局が近い場合などにしか高速化の効果は見込めません。よって、実際の速度向上は限定されます。
2x2MIMO:×2
基地局と端末に電波的な性質の違うアンテナを二本装備し、基地局と端末の間の通信経路が複数になるような効果をによって高速化をする方法です。理屈の上では最大2倍になりますが、MIMOが実環境でうまく働く事はあまりないとされます。よって、こちらも実際の速度向上は限定されます。
また、MIMOは基地局や端末のアンテナを二本にしないと実現できないので、基地局の工事などが必要になります。信号処理だけでも実現可能な他の高速化よりも手間とコストがかかる可能性があり、それならばLTEに乗り換えた方がよいという判断がされる可能性があります。
帯域複数束ね:×2
W-CDMAは5MHz幅での通信を行いますが、複数帯域を同時に使う事で高速化を図る方法です。帯域を2倍使えば、スペックは当然に2倍になります。混雑を考慮しなければ、帯域を2倍使う事によって実効速度も素直に2倍になります。ただし、混雑による速度低下がある場合には、帯域を2倍使うと混雑も2倍になってしまいます。
◆56Mbpsをどうやって実現しているか
つまり、スペック上の高速化には4つの方法があるのですが、56Mbps化とは
・14.4Mbps化
・2x2MIMO
・帯域複数束ね
を組み合わせて実現されているということになります。
なお、元の記事でも出てくる「42Mbps」では、
・14.4Mbps化
・64QAM化
・帯域複数束ね
で42Mbpsが実現されています。
また、すでに21Mbps化を行っている携帯電話会社がある、というのは
・14.4Mbps化
・64QAM化
による実現です。
もし今回の発表が新しいとしたらMIMOでの高速化がお披露目されたということかもしれません。
また、すでに
・64QAM化
・帯域複数束ね
のデモを行われているのに、その次に行われたMIMOのデモが64QAMが無い状態に戻ってしまっている点に注意すべきかもしれません。
もしかすると「64QAM化」と「MIMO」が同時にうまく働かないのが原因の可能性があります。というのもこの二つは相性が悪いかもしれないからです。もしかしたらエリクソンは、うまくチューンしたデモが実現できないので、あえて64QAM無しに戻してデモをしている可能性もあります。
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