519 WiMAXの次世代が300Mbps、が実はあんまり凄くない件
結論としては、また数字のインフレでした、という話。
恒例の算数考察をしてみたいと思います。
◆300Mbpsは実はあまりすごくない
まずはもとのニュースを引用して、
[5]WiMAXの次世代規格では最大300Mビット/秒に高速化
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20090407/327978/
まずは300Mbpsを片付けてしまいましょう。
現行のモバイルWiMAXを「普通に」高速化する方法には二つあります。「普通に」というのは、さしたる新しい工夫も無く(というのは言い過ぎかもしれませんが)、ということです。
・×2:10MHz幅(現行)を20MHz幅に増やす
・×2:2x2MIMO(現行)を4x4MIMOする
20MHz幅対応については、帯域を2倍使って2倍に高速化します(そして混雑に2倍弱くなります)。帯域が余っている場合(あるいは余っている時間帯のみ)高速化されます。
MIMOについてはそもそもあまりうまく働かない傾向があるので、2x2を4x4にしても素直に2倍になるわけではありません、スペック以外は。
つまり、両方とも実際の利用者レベルで素直に2倍の高速化をするということではないのですが、とりあえずスペック上は4倍になる余地があることになります。
実際WiMAXの「2.0」では上記の高速化手法が両方とも使われています。逆にいえば将来のスペックを「4で割れば」現在のモバイルWiMAXのスペックと比較可能だということになります。
記事では「モバイルWiMAXはもうしばらくすると300Mbps」になるという内容になっていますから、試しにこれを4で割ってみましょう。
300Mbps÷4 = 75Mbps
今サービスされているモバイルWiMAXは40Mbpsだから、これはすごい、と思いたいところですが、実はそうではありません。
記事ではこうあります。
・1.0(現行バージョン):最大64Mbps
・1.5:最大140Mbps
・2.0:最大300Mbps
つまり、現行のモバイルWiMAXは「最大64Mbps」という事になっています。この謎の数字はいったい何なのでしょうか。
これは言ってみれば、
・下り帯域だけでなく、上り帯域も帯域も足してある
・それだけでなく、その他エラー訂正やら諸々で実質的に消費される帯域も足してある
というようなものです。素の64Mbpsを加工して実際のサービスにするという意味ではウソではないのですが、いわば「限度いっぱいまでの大きくみせた数字」とでも言えるものです。
少なくとも、一般人向けに示すには誠意の無い数字だと言えます。
では、仕方ないので64Mbpsと比較してみましょう。
・75Mbps:300Mbps÷4
・64Mbps
実際の速度向上(効率の向上)は大した事が無い事が解ります。300Mbpsを信じるとしても1.17倍くらいの改善というところです。
そもそも「64Mbps」の時点でどうも話のつくりが怪しい(一般人向けの話としては)ので、「実質的にはほぼ違いが無い」という方が正しい気もします。
◆日本のモバイルWiMAXは2012年まで基本的にそのまま
記事中ではWiMAXについての表があります。
・リリース1.0:最大64Mbps、現行のバージョン(UQ WiMAXもこれ)
・リリース1.5:最大140Mbps、20MHz幅対応、FDD対応、マルチキャスト対応、2010年予定
・リリース2.0:最大300Mbps、4x4MIMO対応、高速移動(350Km/h)、フェムトセル、基地局の自動セル構成、2012年ごろ、
UQコニュミケーションズは1.5はスルーする感じのようで、2.0で「大幅な機能拡張を考えている」とのことです。
FDD帯域がLTE(とHSPA+)に占拠されるのはもう決まったようなものですし、UQはTDD帯域でサービスをしているわけでFDD対応しても何ら意味がありません。
「マルチキャスト対応」は、放送的なサービスが可能になるという事です。従来と何が違うのかというと、今まででは基地局から20人に「同じデータを同時に送信」する場合にも20人分の帯域が必要になっていますすが、これを束ねて一つで済ませる方法です。ただし、同じ内容を同時にしか送ることしか出来ません。
ちなみに、マルチキャストにはCDMA2000陣営がとっくに対応していますが、画期的なサービスを生むには至っていません。
20MHz幅対応についても、帯域が余っていなければ高速化の効果が限られる事と、UQコニュミケーションズは10MHz×3(というか10MHz×2+10MHz×1)で基地局間の干渉を減らしてエリア展開しているので、20MHz幅にするとエリア設計がやり直しになってし舞う問題点があります。
以上のようなことから1.5についてはスルーする感じなのだと思われます。
2.0については、スペック上は派手に速度が上がるかもしれないにせよ(先に書いたように)実際の速度向上の効果は知れているはずです。
もとのニュースでは「速度がすごく上がる」ことが見出しにすらなっていますが、実際に注目すべきは
・高速移動に耐えうるように作り直す
・フェムトセル対応にする
・自動セル構成(つまり「干渉しない技術」)
を採用する予定になっているという点です。これらは現行のWiMAXの欠点を解消しうるためです。ただし、2012年ともなるとLTEが本格的に稼動している状態で、そのときになって欠点解消に着手しても手遅れかもしれませんが。
つまり、UQコニュミケーションズは速度が上がるから2.0に対応するのではなく、WiMAXの欠点が解消するかもしれないから対応を検討している、とみられます。
ただ、2.0で解消される事になっているこれらの点は、実際に解消されるとは限りません。予定は未定という感じです。そもそもモバイルWiMAX自体が「実現するはずだった」話を実現できていないという前科もあります。
また、同じ事を思った人もいると思いますが、
・高速移動に耐えうる
・フェムトセル対応
・干渉しない技術
というのは、XGP(次世代PHS)が最初から実現する予定になっているものでもあります。
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コメント
KDDI、マルチキャリア化によりEV-DO Rev.Aを高速化
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0904/23/news100.html
本当にこんな器用なことができるんなら、UQWiMAXなんて要らなかったんじゃないかしら?
HSPA+対抗としても勝利できるのなら、
LTEに対し、 Rev.Bが凌駕できる可能性まで見えてくるし?
投稿: ※ | 2009/04/24 01:16