517 XGPがデモ:秋には東京都心にXGPのマイクロセルが完成しているかも
ちょっと間があいてになりますが、ウィルコムがXGP(次世代PHS)をデモしたりした件について書いてみたいと思います。
◆上手なデモでした
4月22日、ウィルコムがとうとうXGP(次世代PHS)のお披露目を行いました、とりあえずニュース記事、
ウィルコム喜久川氏、「XGP」への展望を語る
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/45063.html
まず最初に断っておきますと、私はずっと前の最初から、XGP(次世代PHS)について、もし成功したら歴史に残るほどの大勝利になる可能性があると思いつつも、基本的には「大丈夫なのか心配」と思って見ています。
というところをまず断ってから書き始めたいと思います、以下本題。
最大の話題は、デモで予想外に良い速度が出ていた点でしょうからまずはそこから書いてみたいと思います。
- 下り速度 最大で約18Mbps(18542.34kbps)を記録し、平均で17~18Mbps
- 上り速度 最大で約11.7Mbps(12077.79kbps)
ちなみに理論値は上下ともに20Mbpsですから、下り速度は理論値に接近する実効速度になっており、上り速度についてもWiMAXの理論速度すら突破する実効速度になっています。
理論値
- 下り最大速度 XGP:20Mbps WiMAX:40Mbps(MIMOなしだと20Mbps)
- 上り最大速度 XGP:20Mbps WiMAX:10Mbps
最高速度の面でXGPに期待していた人はあまり多くなかったと思いますから、XGPが速度面でこういう数字を叩き出したのは驚きを持って迎えられているようです。
前々から他の通信技術のデモが行われるたびに同じ事を書いて来ましたが、「デモは基本的にデモ」ではあります。デモでの環境は実運用の環境とは異なりますし、速度が出るようにチューニングを凝らして行われるのが普通です(極端な例になると「有線接続」とか)。
今回のデモについてもウィルコムは周到に準備をしているものと思われます。よって、この速度は実際にサービスインされたときの速度ではないはずです。よって、この数字をあまり真に受けてはいけません(ということは強調しておきます)。
しかし、デモであるとはいえ、あまりにも速度が出ています。
この速度はかなり「頑張った」速度だと思いますが、本当に駄目な技術な場合、いくら頑張ってデモしてもここまでの速度は出ません。
また「18Mbps」という数字は、モバイルWiMAXがこれまでのデモで披露したことのある速度と、XGPの理論最高速度の間の速度です。この狭い隙間が存在しているうちに、この隙間に収まるデモを行おうと準備をしていたのではないかという気もします。ならばウィルコム、今回はうまいことやったことになります。
しかもモバイルWiMAXはもうサービスインしてしまっていますから、今から「すごい速度のデモ」をしたところで、実効速度とかけ離れたデモをやっていると言われてしまいます。
◆256QAM
MIMO無しではWiMAXもXGPも共に20Mbpsなのですが、20Mbpsの意味が少し違います。
現行のWiMAXは最大64QAM(一つの信号で6ビットの情報を送信)で20Mbpsを実現しており、XGPは最大256QAM(一つの信号で8ビットの情報を送信)で20Mbpsを実現しています。
XGPの方が難しい変調方式を用いているのに最高速度が同じなのは、WiMAXより一部難儀な事をしているXGPでは最高速度が出しにくくなっている部分があり、その部分での速度低下が256QAMで帳消しになっていると考えてください。
前代未聞の256QAMなんて実際に使えるんですか?という意見(20Mbpsと言いたいだけではないか)もあったわけですが、今回のデモでの下り速度は256QAMが文字通りにフル動作しないと出ない速度でした、「デモ」だったとは言え「下り256QAMが『十分に』動作しました」ということも示されたこととなりました。
逆に、上りが12Mbpsに留まったのは、現状では64QAMは動作しているが256QAMは十分に動作していないことを示した事になるのではないかと思います。発表で、上り速度についてもこれから改良します、と言っているのは「上りでも256QAMが使えるよう努力します」という事だと思います。
なお、XGPは基地局同士が干渉しないように互いに帯域を譲り合う方式で、それがきちんと動作した場合には、他の通信方式よりも通信同士の干渉によるノイズを浴びにくい特徴があります。ですから、基地局と端末自体が256QAMの難しさに耐えられるなら、実環境でも案外と速度が出る可能性も出てきます。
つまり、もしかしたら実環境でも256QAMは意外と使い物になるの「かも」しれない、というのも今回のデモで示されたことでした。
#結局まともに動作したのは最初のデモだけだった、の可能性もあります
◆スケジュールの意味
今後のエリア限定サービス(試験サービス)のスケジュールも示されました。
大まかには
- とりあえず形だけでも4月にスタートしたことにはする
- 最初はデモ展示中心の「見てるだけ状態」
- 次に、関係法人にデモ機貸し出し
- 法人向けのデモは徐々に拡大するが、個人向けはしばらくお待ちください
XGPはおそらく現在開発・配置されている基地局は試作段階ないしは研究段階というべきものではないかと思います。前々から本格的な開発が行われているモバイルWiMAXとは違い、開発に必要な時間があまりに無かったはずだからです。
開発が一通り済んでいるモバイルWiMAXにとって正しい時間の使い方は、エリア整備に時間を使って対LTEで先行する、というものですが、XGPの場合には基地局用地は現行PHSで確保されているので急速な設置も一応可能であることもあり、最初の完成版を大量配置するのを遅らせた方が良い状況なのではないかと思います。
よってモバイルWiMAXの試験サービスが、「完成品」への反応を試している感じがするのに対し、XGPの場合には開発中の技術を試作機で使ってもらって技術開発の参考にする形になるのではないか、と思います。
記事にはこういう部分があります、
PHS開始時の1995年、新しいネットワークとして立ち上げながら最初から商用サービスとして展開し、技術的課題が山積したことから一度電波を止めたという苦い経験があったためという。またデータ通信で4xサービスを開始する際にも理論値に近づけるためにも検証を重ねた。喜久川氏は「今回は、世代が切り替わることから、一般ユーザーが利用できる状況になる時には、十分なスペックが実現できることを目指す」として、万全を期すためにステップを踏むことにしたという。
エリア限定サービスの期間内にいろいろ試して対策や改良を行ってから、その後に本格的なエリア展開や端末配布をやる、ということのようです。
現時点でもう十分に完成品の技術になっているのが本来望ましいには違いありませんが、
自社で独自に技術開発をやっているメリットを生かすとなると、試して出てきた問題をすぐに反映させて技術そのものをすら改良するような話になるのかもしれません。機材を丸ごと買ってきただけだったり、世界標準の規格だとこうはできません。
◆エリア限定サービス(試験サービス)における作戦
発表ではXGPの基地局は既に100局程度配置済みであることが発表されました。
引き続いての基地局の設置方針として、東京の中心部の一部のエリアに集中的に基地局を配置することが発表されています。つまり、マクロセル的に薄く広くまずエリアの面をカバーするのではなく、東京の中心部にまず試験的にマイクロセルなエリアを出現させる方針、ということになります。
これは、マクロセル的に薄く広くエリアをどんどん展開する攻めの段階には無いことを示すと同時に、かといって漫然と基地局配置をしてお茶を濁す気も無い、ということも解ります。
もし技術的な未熟さへの守りに出るのであれば、無難な密度で無難にエリアカバーをするようなことをするはずです。ですが、発表された計画では東京の中心部に高い密度で基地局を配置する計画になっています。つまり、いきなりエクストリームな状態にチャレンジすると言っていることになります。
エリア限定サービス(試験サービス)期間に技術的問題を解決したいと言っているのと併せて考えると、いきなりマイクロセル運用してしまってマイクロセルとしての改良と実証をしたいと考えていること、とりあえずそういう目標を掲げても最低限大丈夫な程度には技術開発が進んでいるらしいこと(それ以前の状態なら「漫然と基地局を配置」しつつ基礎的な問題の対処をするはず)が予想できます。
そしてもしかすると早期に「マイクロセルの凄さ」(他社には出来ない事が出来ます)をアピールしたい(ないしはする必要がある)と考えてのことだとも考えられます。
もしこの「マイクロセルへの挑戦」が順調に進めば、秋には東京の中心部に「本物のワイヤレスブロードバンドの世界」が出現していることになるかもしれません。
ただし、あくまでも「万事が順調に進めば」ですが・・・
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