526 「LTE実験で120Mbpsの通信を確認」はどの程度のものか?
LTEが実験で120Mbpsを出したというニュースについて書いてみたいと思います。
◆LTE実験で120Mbpsの通信を確認
まずは記事の引用。
富士通やNTTドコモなど、LTE実験で120Mbpsの通信を確認
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2009/03/16/22788.html
富士通と富士通研究所は、NTTドコモと共同で、北海道札幌市のユビキタス特区で「LTE(Long Term Evolution)」のフィールド実証実験を実施したと発表した。
実証実験では、3社が共同で開発した「LTE無線基地局装置」の試作機を利用。札幌市の市街地環境で、4本のアンテナから同一時刻に、同一周波数で異なる信号を送信する「4×4 Pre-coding MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)」の下りリンクでのスループット特性を評価し、最大120Mbps(帯域幅:10MHz)の通信を確認した。
ドコモと富士通が札幌で、10MHz幅で4x4MIMOのLTEで最大120Mbpsを出したというニュースです。
この「120Mbps」という数字がどのようなものなのかを考えてみたいと思います。
◆以前の「LTEで250Mbps出ました」とほぼ同じ数字
今回の実験は、日本で実際にサービスインする可能性の高い「10MHz幅」での速度です。つまり、この実験は近いうちに実際にサービスインするLTEでこれくらいの速度が出ますと言いたいのだと思います。
これまでのLTEのデモでは20MHz幅で行われている事が多かったですから、過去の話と比較するためにも、一度20MHz幅換算にしてみましょう。
・120Mbps/10MHz幅
・240Mbps/20MHz幅
240Mbps相当という数字が出てきましたが、これは過去に出てきた数字と似ています。というのは、ドコモが以前「LTEで250Mbpsが出ます」というデモを行っていた事がありますが、その「250」とほぼ同じだということです。
250と240相当という数字の接近は偶然ではないはずで、有線接続ではないデモで限界いっぱいまで速度を出そうとした場合にはこの程度まで出るということなのだと思われます。
#逆にいえば、実環境では出ない速度なのではないかと
◆モトローラによるLTEのスペックの説明
次に、LTEのスペックとの比較をしてみましょう。
モトローラがLTEの速度について書いているページからデータを持ってきます。
LTEのパフォーマンス
http://www.motorola.jp/networks/lte/lte-depth.html
最初にエラー対策を考えない速度と、エラー対策入りの速度(「より現実的なピークデータレート」)があります。
帯域幅:MIMO:速度(エラー対策なし)
・5MHz幅:2x2:43Mbps
・10MHz幅:2x2:86Mbps
・20MHz幅:2x2:173Mbps
・5MHz幅:4x4:82Mbps
・10MHz幅:4x4:163Mbps
・20MHz幅:4x4:326Mbps
帯域幅:MIMO:速度(5/6エラーレートコーディング)
・5MHz幅:2x2:29Mbps
・10MHz幅:2x2:59Mbps
・20MHz幅:2x2:117Mbps
・5MHz幅:4x4:55Mbps
・10MHz幅:4x4:113Mbps
・20MHz幅:4x4:226Mbps
5/6エラーレートコーディングというのは、6ビットに5ビット分の情報を載せて運ぶ方法だと思ってください。送信できるデータが1ビット減る代わりに、データがどこかで「少しだけ」壊れても再送なしで復元できるようにする方法です。
エラー対策なしの場合には少しでもデータが壊れてしまうと、再送処理が必要になります。実際の環境ではエラーは頻繁に発生しますから非現実的です。よって、モトローラも
この理論最大値にはエラーレートコーディングが含まれず、これ無しでは、実環境で大部分のビットを再送することになり、それがスペクトル効率を悪くしてしまう、ということに注意してください。
とした上で、「5/6エラーレートコーディング」の数値を「現実的な数値」として出しています。
◆そもそものLTEのスペックと比較をする
なおモトローラが出している速度は「実際の環境で頻繁に体感できる」という速度ではありません。実際にユーザが体感できる速度については
ユーザーのピークレートと予想平均レート予想ユーザーデータレートの評価は非常に難しく、無線技術の特徴である多くの要素(セルまでの距離、セルの負荷、加入者の移動速度、屋内/屋外、マクロレイヤー、ホットスポット…)に依存します。
として「わからない」としています。
それでは今回のニュースの10MHz幅4x4MIMOの数値を持ってきて考えてみましょう。
・10MHz幅:4x4:163Mbps(エラー対策なし)
・10MHz幅:4x4:113Mbps(5/6エラーレートコーディング)
そして実験で出たとされる数字は以下のようなものでした、
・10MHz幅・4x4:120Mbps
モトローラの「より現実的なピークデータレート」とより少し多い似た数字だということがわかります。ちなみに、20MHz幅で250Mbpsについては、
・20MHz幅:4x4:326Mbps(エラー対策なし)
・20MHz幅:4x4:226Mbps(5/6エラーレートコーディング)
こちらも少し多い数字になっています。
ただしこの速度は、
・電波状態がものすごく良く
・他に利用者が誰も居らず
・4x4MIMOが理想的に動作
という場合の速度のはずです。特に実環境でMIMOが想定したとおりに動作することは考えにくいとされるので、チューンしたデモで見かける速度ではあっても、実環境で見かける速度にはならないのではないかと思われます。
では、実際の速度はということになるとモトローラも「予想ユーザーデータレートの評価は非常に難しく」と言っているような状態ですが、
・MIMOにはあまり期待してはいけない
・電波状態や混雑でも速度は落ちる
ということになりますから、実際にユーザが体感できる速度は「かなり落ちる」ことになるはずです。
いずれにせよ、
・10MHz幅:4x4:163Mbps(エラー対策なし)
なのに、「120Mbpsも出た」というのは、理論値の73%もの数値になっています。これは40Mbps(が既に163Mbps相当ではない)のモバイルWiMAX(しかも2x2)で73%にすると、30Mbpsが出た状態に相当します。
なお、モバイルWiMAXのスペックと並べて書いてみると、
・10MHz(TDD):2x2MIMO:40Mbps
で、LTEの2x2での速度は
帯域幅:MIMO:速度(5/6エラーレートコーディング/エラー対策無し)
・5MHz幅:2x2:29Mbps/43Mbps
・10MHz幅:2x2:59Mbps/86Mbps
・20MHz幅:2x2:117Mbps/173Mbps
となります。
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