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525 「新幹線でネット」の戦いはまだ終わっていない

新幹線で無線LANが使えるようになったというニュースがありますが、これについて少し。


◆「新幹線でネット」の戦いはまだ終わっていない

新幹線で無線LANが使えるようになった件について過剰に期待している人がいるようなので、それをネタにして少し記事を書いてみたいと思います。

新幹線での移動時間に無線LANが使えるなら、移動中にネットを多用する作業をして資料を準備できると思っていた人が居たり、新幹線で無線LANが使えるなら3Gの通信カードを取り上げて経費削減できると思っていた人とか(そういうご時世らしいです)。

でも、あまり過剰に期待はしない方が良いかもしれないという話を少し。

無線LANと聞くと、とりあえずは高速というイメージがあります。ちゃんと繋がれば固定回線に近い速度が出るが、ちゃんと繋がる場所がかなり限定されるというイメージです。そして、非常に安いイメージ。

だからか、この記事を書くきっかけになった話では、

・気になること:ちゃんと安定して繋がるの?高速移動してるし
・暗黙の前提:速度はすごいんだろうな
・料金は激安のはずだ

こういうリアクションがありました。

繋がるかどうかについては、ちゃんと繋がるはずです。そもそも列車への作りつけですから、列車のどの席でも問題なく繋がるように作ってあるはずだからです。この点でJRがケチって中途半端にするとは考えにくいです。

速度については、高速接続は期待しない方が良いと思います。なぜならば新幹線の無線LANは以下のような方法で実現されているからです。ものすごく簡単にすると、

ノートPC =(無線LAN)= 車両 = (別の方法の無線)= 線路に沿って設置されているケーブル

ノートPCと車両の間の通信については、通常の無線LANと同じ感じを期待して問題ないのですが、問題は「列車」と「列車の外」との通信です。この部分の速度がとても心細いのです。

「列車」と「列車の外」との通信:
・線路沿いに設置してある地上ケーブルと列車の間での通信
・通信装置は列車1編成あたり、基本的に一台
・通信装置が出せる速度は
 ・下りが最大2Mbps
 ・上りが最大1Mbps

新幹線の線路に沿ってずーっと、「漏洩同軸ケーブル」というものが設置されていて、それと列車が通信を行います。「漏洩同軸ケーブル」は言ってみれば「恐ろしく長いアンテナ」のようなものです。列車は走りながらずっとすぐ横にある「恐ろしく長いアンテナ」と通信を続けます。

注意すべきは「車両一両あたり」ではなくて「1編成あたり(つまり全部の車両で)」というところで、つまりどういうことかというと、

・新幹線の列車1編成に乗っている「乗客全員」で、下り2Mbps/上り1Mbpsをシェアする

しかも新幹線といえばノートPC広げてる人は珍しくも何とも無いわけでして、通信容量不足は深刻と思われるわけです。


◆本当に混雑するのは「これから」ですが

まずは、今回の計画がスタートする前のニュース、実に「2006年」のニュースから。

東海道新幹線、2009年春から無線LANサービス提供
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060629/242122/

2006年の記事に「2009年春にスタートする」とありますから、JRはちゃんとスケジュールのとおりに仕事をしたことが解ります。

上記の記事にはサービスイン時の速度についての予想がなされています。

通信速度は、下り(漏えい同軸ケーブルから移動局)が最大2Mbps、上り(移動局から漏えい同軸ケーブル)が最大1Mbps。これを1編成の無線LAN利用者全員で分け合う形になる。「(1)乗客のおおむね10人に1人、1編成で120人~130人が同時に接続する、(2)複数ユーザーが周波数帯域を共有することによる『統計多重効果』を1%と仮定する、(3)動画配信やファイル転送といった負荷のかかる処理をせず、電子メールやWebサイト閲覧などの用途で利用する——との仮定で算出すると、1人当たり200kbps程度というのが理論上の速度になる」(JR東海広報部)。

つまり2006年のこの記事から「速度はあんまりでない」ことは想定されているということなのですが、記事は解りにくいのでまとめると、

前提
・10人に1人が通信
・列車全体で120-130人が同時利用
・沢山の人がばらばらに利用するのでアクセスタイミングは分散する
・「軽い」ネット利用しかしない
 ・軽い:電子メールなど
 ・重い:動画配信やファイル転送

その結果としては「一人あたり200kbps」だそうです。

なお、この記事が書かれたのは2006年の6月で、イーモバイルのサービスインはまだまだ後です。よって、当時想定されていたモバイルでのネット利用と、今の使い方は違っています。よって、負荷の予想は過小になっているのではないかという気がします。

そして、実際のサービスイン後に速度を調べた記事を張ってみましょう。

“新幹線ネット”でネット接続を試す
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20090318/326903/

実験は、FTPサーバーに10MBの容量のファイルを送信/受信する時間を3回計測し、その平均を割り出した。新幹線がビジネスマンの利用で混みやすい午後5時(東京~新大阪)と、比較的空いている朝10時(新大阪~東京)にテストした。
混雑時の転送速度は、送信が平均230kbps、受信時は平均217kbps。席の周りを見回しただけでも、数人のビジネスマンがパソコンを利用している状況だった。新幹線の1編成すべての乗客で2Mbpsの帯域を分け合うため、利用者が多ければ多いほど、速度は遅くなる。USENが提供する「スピードテスト」による計測でも、100k~200kbpsを行ったりきたりする状況だった。

一方、閑散時のテストでは、ファイルの送信時で220kbps、受信時で395kbpsに向上した。USENのスピードテストでは平均800kbpsだった。

なお、記事のサブタイトルには「転送速度は混雑時で約200kbps、閑散時なら400kbps」とあります。この記事を見る限り、事前の予想はおよそ当たっていることになりそうです。

ただしサービスインが3月14日で、この記事が投稿されたのは3月18日です。つまり、使ってみたいと思っているだけの人や、まだこういうサービスが始まったことが知らない人が多くいる状況です。つまり、新幹線で無線LANを利用しようとする人はこれからどんどん増えるはずですから、速度はここからさらに下がってゆく事になるはずです。

ちゃんと考えての予想ではありませんが、最終的に混雑時間帯には最終的に100k以下になるような気もします。


◆遅くともメリットはある

遅すぎてがっかりだ、と思った人もいると思います。3Gのデータ通信はまだこれからも必要になるはずです。

ただし上記の記事でも言及されていますが、速度が遅くとも「新幹線無線LAN」には、これまでの通信手段にはなかった優れた点があります。それは何かというと「トンネルになっても通信が途切れない」という特徴です。

先に書いたように、線路に沿って「恐ろしく長いアンテナ」を設置するようなことをしているため、携帯電話のように電波状態で速度が低下したり、電波の届かない場所で通信が止まったりする心配がありません。

無線LANなら接続状態を気にする必要自体がなくなるはずですが、遅さにはいらいらするかもしれません、3Gならば「もうすぐトンネルだ」とか「このトンネルを出たらすぐに繋いでデータを取らなきゃ」という余計な心配をすることになり、思考の邪魔になります。

よって、

・速度は出ないが、恐ろしく安定している「新幹線無線LAN」
・速度は出るが、場所によって速度が変わったりトンネルに入ると切れてしまう「3Gのデータ通信」

新幹線での通信手段にはまだ決定的なものが無いので、どちらかを選ぶか組み合わせて使いましょうということです。つまり、「新幹線でネット」の戦いはまだ終わっていないということです。

あるいは、シームレスに複数の通信手段を組み合わせるサービスを提供するところがあれば、歓迎されるかもしれません。

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