557 中国政府、今度は2011年までにPHS停波を命令(利用者は6800万人)
中国政府がまた無茶なことをはじめました。
今度は2年以内に中国大陸のPHSを停波しなさい、と命令を出してしまいました。
◆もはや違う話題に
最初に書いておきますと、中国のPHSはこれから難しいことになるだろうなと思っていまして、中国の第3世代に関する記事では以前からそういう風なことを書いておりました(後述)。
PHSをやっていた固定電話会社は念願の携帯電話の免許を手に入れて喜んでいるところなので、これからPHSはないがしろにされるだろう。ただ、第3世代の熱狂が醒めて現実を向き合う時がやってきたとき、見直しの時期がくるかもしれず、そのときが本当に最後の勝負だろうと。
ところが中国政府、PHSの存在意義があるとかないとか、そういう議論とは別次元のことをなさるようです。2011年末までにPHSを停波しなさいという命令を出してしまいました。
まずは引用、
中国のPHS「小霊通」、2011年末までに撤退
http://www.asahi.com/international/jinmin/TKY200902040183.html
中国のPHS「小霊通」撤退が3日、ついに決定された。中国移動(チャイナ・モバイル)はこの日、政府主管部門からすべての1900―1920MHz周波数の無線システムを2011年末までに引き揚げ、1880―1900MHz周波数のTD―SCDMAシステムに影響がでないよう明確な指示を受けたと表明した。「国際金融報」が伝えた。中国移動の関係者によると、政府主管部門はすでに中国移動が1880―1900MHzと2010―2015MHzのあわせて35MHz周波数を使ってTD―SCDMAネットワークを構築することに同意しており、他のキャリアに対し、1900―1920MHz周波数の無線システムでの容量拡張や新ユーザーの拡大を停止し、カバー範囲を広げないよう要求した。
山西電信の従業員は、「このほど小霊通の受付を停止したが、市場から完全に撤退する時期は定かではない」と話す。
工業情報化部がこのほど発表した統計によると、PHS利用者は08年12月現在、全国で6893万人にまで減少しており、その大多数は小霊通の利用者だという。
まとめるとこういうことになります。
・2011年末までに停波しなさい(今は「2009年2月なのに」)
・理由:TD-SCDMAと干渉するから全部停波しなさい
・現在の利用者数:6893万人
2年切ってる状態で、停波の命令です。本音がTD-SCDMAだろうというのは簡単にわかる話ではあります。
6893万人もの利用者が居るのに残り二年です、巻き取りとなると6893万人を6893万台の新しい携帯に置き換えることになります。また、中国のPHSは料金が安いために利用されている面があるので、携帯への乗り換えは値上げになるはずです。電話番号も変わってしまいます。
しかも残り二年切っていますので、利用者がたくさん残ったままに停波になってしまうのではないかと思えます。ちょっと強引過ぎるんじゃないかなと。オリンピックのために土地を強引に取り上げた話なんかを聞いたことがありますが、同じく無茶しますね。日本ではちょっと考えられないです。
よってこういうことも考えてしまいます。
・中国でのWiMAXはやっぱり絶望的かもしれない
こんなことまでなさるのなら、政府が嫌っているモバイルWiMAXが上陸しようとしたらどんなことになるのか解りません。念のために補足をすると、TD-SCDMAとモバイルWiMAXは同じTDD帯域を利用するので直接競合します。
・日中韓で協力して第四世代携帯規格を作ろうという人は考え直した方が良いかもしれない
日本には「日中韓で協力して第四世代を」と言っている人が一部居られます。(日欧の)LTE系の技術が第四世代本命にリーチをかけている状態で別陣営をこさえようとする意味があるのですか、という突っ込みは前からありましたが、加えて、日本と「協力関係」が成立しうるのかどうかよく考えた方が良いかもしれないです。
◆妙な損得関係
まず前置きで、まとめのコピペをまた持ってきます、
グループ1:TD-SCDMA(国策の独自第三世代技術)
中国移動(国営携帯電話会社)(国内1位:世界1位)
+中国鉄通(チャイナレールコム)(鉄道の通信網が由来の固定事業者)
+中国衛星通信(チャイナサットコム)(元は中国電信の一部)
グループ2:CDMA2000(クアルコムと協力関係)
中国電信(チャイナテレコム)(固定1位)(PHS事業者)
+中国聯通(チャイナユニコム)(国内2位:世界3位)のCDMA部門
グループ3:W-CDMA(W-CDMAは世界標準)
中国網通(チャイナネットコム)(固定2位)(PHS事業者)
+中国聯通(国内2位:世界3位)のGSM部門
毎度の事ながら、グループにつけた番号は私が適当に付けた番号です。
復習になりますが、中国大陸のPHSはそもそも携帯電話事業への参入を禁止されていた固定通信事業者が「携帯じゃないもんねー」の屁理屈でサービスインしたものです。その後、安かったこともあって1億台を超えるまでに普及が進みます。
で、現在固定通信事業者だったところは再編の結果、夢にまで見た念願の携帯電話の免許をもらって浮かれている状態です。
また、TD-SCDMAが技術的に怪しい状態の今、完成された技術であるCDMA2000やW-CDMAで大攻勢をかけることが出来れば、下位2陣営が歴史的大逆転をすることが出来るかもしれない絶好の機会でもあります。当然に第3世代への熱は高まります。
よって、もともとPHSはないがしろにされてゆくだろうと見ていました。少なくとも今しばらくは。
ただし第3世代の基地局網の整備を実際に開始すると、途方も無い作業になることがこれから解ってゆくはずです。その時に、PHSの基地局網は既に整備済みで、利益も生みつづけていることが再評価される可能性はありました。ですが、それどころか停波命令が出てきてしまいましたが。
また両陣営にとって、第3世代に力を入れてPHSから軸足を移すことや、第3世代へ巻き取ってゆくことには意味があったとしても、「停波」となるとメリットが無かったりもします。なぜかと言うと、PHSを停波して空く帯域はTDD帯域ですから、どうやってもW-CDMAやCDMA2000の役には立ちません。停波すると敵陣営のTD-SCDMAが元気になるだけです。
よって今回の政府の命令、W-CDMAやCDMA2000の陣営に無用な苦労と犠牲を強いて停波をさせ、得をするのはTD-SCDMA陣営(中国移動)だけというなんとも不公平なことにもなっているように思われます。第3世代に浮かれているとはいえ、短期間で停波しろと言われたら、やっぱりいろんな意味で嫌には違いありません。本来なら自陣営の第3世代に巻き取れるはずだったユーザもこぼれてしまうでしょうし。
この命令、もしかするとこういうことも解った上でTD-SCDMA陣営以外への嫌がらせも兼ねているのかもしれません。
中国の人が停波が迫ってきたときにどういうリアクションをするのかわかりませんが(怒るのか、諦めるのか、それとも物分りがとてもよくてあっさり巻き取りできているとか)、場合によっては「アメリカのアナログ地上波の停波延期」みたいな顛末になることも、もしかしたらあるかもしれません。なにしろ残り2年以下ですから。
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