546 ドコモが携帯端末メーカを囲い込もうとしている?(結果的に)
「結果的に」だと思うのですが、ドコモが携帯端末メーカの囲い込みをする事になるかもしれないというニュース。
つまり、ドコモ向け端末を他キャリアに流用するのが難しくなるかもしれないという話。
◆ドコモ「携帯端末開発費の支援」を発表、ただし知的財産権を渡す代わりに
開発費が高すぎるとか言われている日本の携帯電話ですが、実際にかなりの開発費がかかっています。
そこでドコモが「メーカー支援のために、開発費を負担する」という発表を行いました。
メーカー支援のため、100億円規模の開発費負担を発表──NTTドコモ 山田社長
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0902/02/news035.html
ドコモは、ユーザーに適切な価格でタイムリーに魅力的な端末を提供するためには、端末メーカーの協力が不可欠だと考えており、端末開発費の一部をドコモが負担し、その知的財産権をドコモで持つスキームを、今期限定で運用する考えを示した。今年度はおおむね100億円規模の開発費をドコモ側で負担する。
このニュースは一般向けには「良いニュース」だと報じられていると思います。
・携帯の開発で困っているメーカをドコモが助けてあげる
・消費者は携帯電話を安く買えるようになるかもしれない
順番が前後しますが、この記事でも安くなるかもしれないという事が書かれています。
この開発費の援助は、国内・国外のメーカーを問わず行う方針だ。これによって、端末の調達費が安くなるため、ユーザーに販売する端末の価格も安くなる見通し。
たぶんドコモ自身が「安くなる見込みです」と言ったのだと思います。
ただ、ドコモが負担しようと携帯端末メーカが負担しようと、その源をたどってゆくと結局はユーザの支払う料金で、従来と同じ開発が行われる限りは同じコストがかかるわけで、最終的な負担額は変わらない気もしませんか?説明もなしに安くなると思い込んではいけません。
実質的には、まずはドコモによる端末メーカの救済の側面があるのではないかと思います。端末開発から撤退するメーカがまた出たら困るのでしょう。
#もしかすると具体的にどこかが撤退しそうになっていての話かもしれない
◆「知的財産権をドコモが頂きます」という意味
この話は支援をして終わりではありませんでした。支援する代わりにドコモは対価として「知的財産権」をもらう事になっています。
知的財産権とは何かというと特許とか著作権のことで、今回の話では主に「ソフトウェアの著作権」(の一部)がドコモの手に渡る事になるのではないかと思われます。
端末開発費の一部をドコモが負担し、その知的財産権をドコモで持つスキーム
端末メーカがドコモ向けだけに開発をしている分には、さしたる問題は発生しないのではないかと思います。
しかし、ドコモが権利を持つわけですから、ドコモからの支援を受けて開発した端末を他キャリア向けに流用しようと思ったときにドコモの権利に抵触してしまうことが起こりうることになります。
つまり例えば、ドコモから支援を受けて作ったドコモ向け端末をソフトバンク向けに作りなおしたりするのが難しくなると予想されます。
結果的に「ドコモが携帯端末メーカを囲い込んでしまう」結果になる可能性があります。
◆しかし、前向きな意義も相当にあるかもしれない
ただし、「建設的」な意義もありまして、
「ドコモのサービスに対応してもらうために、端末メーカーにお願いするソフトウェアの開発費用をドコモが資産として買い取るイメージになる。知的財産はドコモが確保するので、将来的にはオペレーターパックなどに組み込みやすくなるのという側面もあると考えている」(山田氏)
ドコモが権利を持っているソフトウェアを、ドコモ向け端末メーカで共有するものにしたり、世界共通の携帯プラットフォームと組み合わせて使うものにしたりすることもできるようになります。
これらは端末のコストを下げたり、日本の携帯端末市場と世界の携帯端末市場の壁を低くするような良い効果もあります。
前者については、A社が開発したソフトウェアがドコモのものになり、ドコモ経由でB社やC社の端末開発でも活用されるようなパターンです。ドコモがどうするのかわかりませんが、もしかするとA社にも利用料収入があるようにするかもしれません。そうすればみんな幸せかもしれません。
後者については、現在話題になっている「世界共通の携帯プラットフォーム」の日本市場固有モジュールにするという話です。
現在ドコモの携帯は、SymbianベースとLinuxベースでの開発がされていますが、両方とも「世界的な陣営」があります。
・Symbian陣営(Nokiaなど)
・LiMo陣営(ドコモ、ボーダフォン、NEC、パナソニックなど)
それぞれ世界共通の携帯電話開発プラットフォームを目指しており、ドコモ向けの携帯を開発する場合には、これらのプラットフォームに「ドコモ向けモジュール」を追加して開発出来るように計画されています。
ドコモが権利を持っているソフトウェアを「ドコモ向けモジュール」にすることも検討されていると思われます。記事での「オペレーターパック」とはこういうもののことです。
もしかするとドコモは後から振り返ると「日本にとってものすごく重要な一歩を踏み出した」可能性もあります。
◆しかし再利用って簡単じゃないんですよ
しかし、どうにも悪い予感もします。というのもソフトウェアの再利用というのは難しいからです。
コストダウンとかいう話になると、すぐに「再利用の話」が出てきます。ですが、実際にソフトウェアの再利用を行おうとすると、あまり上手く行かないことが多いのです。
「失敗」になりにくいのはこういうパターンでしょうか、
・ソフトウェアの再利用ではなくて、製品ごと再利用する
・最初から再利用を意識して製品と関係なしに作る
前者は使いまわしとか焼き直しをするということです。これはすでに多用されています。「既存の機種によく似た新機種だなあ」というのはこの方法が取られた結果です。
ただそもそもこの方法だと、開発チームごと使いまわさないとどうにもならないはずですが・・
とりあえず、具体的な端末向けに作られたソフトウェアの一部を、他社の別の目的にリサイクルするのは難しい(そうやって「安くなったなあ」というようにするのは)はずです。
後者は、最初から「あちこちで使われる」事を目的として製品から独立した部品を作る方法です。ただし、普通に一つの端末向けに作るのに比べてかなりのコストはかかりますし、最終製品に特化して作られるわけではないため、よっぽど上手く作らないと不満が出やすい感じになります。つまりAUのKCP+の状態。
共通プラットフォームに思いっきり具体的機能の大半を詰め込んではどうかという発想もあるとおもうのですが、それは何かというと「そういうのをスマートフォンと呼ぶんじゃないのかね?」という事になるのではないかと思います。
というわけで注意しないと、
・ドコモは役に立たない権利をもらっただけ
・開発したメーカはドコモ向け以外への流用が出来なくなる
ということになるかもしれません。
#「そうなるに決まってるだろ」と思っている人も、多そう
ただそうなっても、「端末メーカの囲い込み」には成功するので、ドコモにとって無意味ではありません。
他陣営を日干しにするのが本音ならば、「あらら上手く行かないけどもうちょっとがんばってみますよ」とか言っていても問題なさそうです。
ただし、もし再利用の方向で上手く話が進んで行けば、ものすごく重要な変化の最初の一歩となるかもしれません。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
大会社の知財部は超保守的かつ事なかれ主義だから
メーカー救済のため開発費を出すという目的とは真逆の知財囲い込みが発生し
メーカーを困らせるだろう。
投稿: 白ロム | 2009/02/16 09:24