« 今週のらくがき帳 | トップページ | 544 「ウィルコムが次世代PHSで中国のZTEと提携」の件 »

545 2009年中にイーモバイルが「最速」の座を取り戻すかもしれない(スペック上は)

もうしばらくすると、40Mbpsを名乗るモバイルWiMAXがスタートします。

しかしもしかすると、2009年中にイーモバイルが「最速」の座を取り返す可能性があるという話です。


◆イーモバイルの千本会長「モバイルWiMAX対抗策も準備」

まず、記事の引用をしてから、順番に説明をしたいと思います。

イー・モバイル、月額780円から利用できる音声通話向け新プラン
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/24688.html

今回の問題になる部分は以下です。

モバイルデータ通信サービスでは、新たにUQコミュニケーションズが2月よりモバイルWiMAXの展開を予定(本格展開は夏以降)。これに関して千本会長は、「我々が2年前に苦労したように、当初はエリアでご苦労があるのではないか」としつつも、「対抗策もしっかり準備している」と発言。また、「競争相手が出てくることは良いこと」とも述べた。

今回問題にするのは「対抗策もしっかり準備している」という部分です。

この「対抗策」とはいったい何なのかを順番に考えてみたいと思います。


◆モバイルWiMAXの「40Mbps」のスペックの正体

その前にまず、モバイルWiMAXの40Mbpsの正体について少し説明をしておきたいと思います。

UQコミュニケーションズは、「下り40Mbps、上り10Mbps」を名乗っています。

http://www.uqwimax.jp/service/wimax/

で、「他社データ通信カード」は7.2Mbpsだという比較がされていたりもします。

実はこの「40Mbps」という数字、実情(ユーザが使って感じる速度)よりもかなり大きい数字になっているはずです。というのは、「MIMOで2倍」が入っているためです。

つまり40Mbpsとは、20Mbps×2=40Mbpsで実現されており、そして問題なのは「MIMOで2倍」は実際にはあまり上手く働かない(とされる)ためです。

MIMOについては過去の記事で説明を行っていますから詳細な説明はそちらを参照して欲しいですが、アンテナを複数搭載する事によって、基地局と端末の間の通信経路を複数確保することによって速度を高速化する方法です。

よって「スペック上」は通信経路を二重にすると最高速度は二倍になり、四重にすることによって四倍に出来ます。なお、次世代通信技術が景気の良い話を言っているときには、必ずといっていいほど「MIMOによるインフレ」で数字が増やされています。

MIMOはスペック上は派手に最高速度を上げますが、実際(実効速度)には思ったほどの高速化がなされないとされます。

よって、40Mbpsの正しい理解は、
・「20Mbps×2」というよりも
・「20Mbps+α」の方が実情を反映している

さらには、そもそもの20Mbps自体が「理想的な状況」での速度だということもあります。これは、HSDPA(やADSL)のスペック上の最高速度と実際の速度の落差と同じ現象です。

モバイルWiMAXのお披露目デモでの速度では16Mbpsが出ていました。これを「16Mbps/40Mbps」で理解するとがっかりですが、「16Mbps/20Mbps+α」と理解しなおしてみると、

「さすがデモだけにきっちりチューニングしてあるな」

と思えるのではないかと思います。その後のタッチトライでの速度感もこれなら納得できるはずです。


◆第3世代はまだまだ高速化できる

HSDPAの高速化についての記事も過去に何回も書いたので、こちらも復習になってしまうのですが、イーモバイルの7.2Mbpsは以下によって実現しています。

・3.6Mbps(HSDPAの基本の速度)
・7.2Mbps(3.6Mbps×2:スペック上は二倍になるが、実際にはそれほど速くならない)

実効速度の向上効果やかかるコストなどを考えると、おそらく7.2Mbpsあたりで打ち止めになってLTEに移行することが多いのではないか、とも言われています。ですが、3.5世代の高速化には続きがあります。

・3.6Mbps(HSDPAの基本の速度)
・7.2Mbps(3.6Mbps×2)
・14.4Mbps(3.6Mbps×4:さらに速度向上効果はなくなる)

また、別の方法での高速化があります。AUがRev.Aの高速化に使っている、64QAM化です。

・16QAM→64QAM化:1.5倍(転送できるデータ量が4ビット→6ビットに増える)

ただこちらもノイズに弱くなるために電波状態が良い状態でないと高速化の効果が無く、実際の効果は限定されます。

組み合わせると、
・21Mbps(3.6Mbps×4×1.5)
までスペックを上げることが出来ます。

また、モバイルWiMAXと同じくMIMOによる高速化を採用すると、「スペック上」はさらに2倍にできますから、

・42Mbps(3.6Mbps×4×1.5×2)

スペック上の数字は激しく高速化しますが、実際の体感速度の向上は知れている感じになるはずです。ユーザにとっては困った現象でもあります。

さらには帯域を二つ束ねて使うことも計画されています。電波帯域を2倍浪費しますが、これまでの「高速化」と違って素直に速度は倍になります。

・84bps(3.6Mbps×4×1.5×2×2)

ただしイーモバイルについては現在、帯域を一つしか持っていないので、この方法は使えません。

とりあえず、可能性としては「42Mbps」に出来る状態にあり、将来的には「84Mbps」にすることも可能であることがわかります。

#ただし、実効速度無視のスペックだけのハッタリ速度になるでしょうが


◆エリクソンは42Mbpsの基地局を売り込み中

上記の話、計算上の話ではないかと思われるかもしれませんが、現在世界最大の携帯電話基地局メーカであるスウェーデンのエリクソンが、HSPA+(42Mbps)の基地局の売り込みをしているところです。

エリクソンはすでに21Mbpsの基地局を実用化済みで、21Mbpsで実際にサービスを行っている携帯電話会社もあるとのころです。その上でエリクソンは現在「42Mbps」を売込み中なので、これを買ってくるとあっさり実現できてしまう可能性があります。

http://www.ericsson.com/jp/ericsson/pr/2009/02/20090213_hspa42mbps.shtml

2009年2月13日

エリクソン (NASDAQ: ERIC) は、スペインのバルセロナで開催されるMobile World Congressにおいて、最高42Mbpsのダウンリンクデータ速度を実現する新しいHSPAマルチキャリア・テクノロジのデモを、世界で初めて行います。

ただし、エリクソンがデモするのは
・3.6Mbps×4×1.5 ×2(周波数を二つ使う)
であり、「MIMOでの(スペック)2倍化はその次に実現する」と言っています。ただし今後近いうちに今回の説明で出てきた高速化手法を全て実現すると言っています。

エリクソンは、64QAM、MIMO、マルチキャリア・テクノロジを早期に導入することで、それぞれのブロードバンド市場でのリーダーを目指す世界中の事業者各位のお手伝いをしたいと考えています。

また将来的には、帯域を二つではなくて四つ束ねる事で「168Mbps」を達成したいとのことです。

HSPAの進化の次のステップは、MIMOアンテナテクノロジと4つの周波数チャネルを組み合わせたマルチキャリア構成を含むものとなります。これらの改善を組み合わせることで、168Mbpsのダウンリンク速度が実現されます。

ただしこの場合には、上り20Mbps幅と下り20Mbps幅が必要になってしまいますが・・


◆42Mbpsは40Mbpsよりも数字が大きい

イーモバイルがWiMAX対抗策としてほのめかしているのは、おそらく携帯基地局を売りに来ている人から、上記のような話を聞いて「それならまだ頑張れるな」と思っているという事だと思います。

具体的には21Mbps化か、思い切って42Mbpsにするかを検討しているものと思われます。

MIMOについてはアンテナを変更しないといけないはずなので容易ではないですが、それ以外の高速化については主に信号処理の部分だけの話なので、基地局が新型ならば比較的容易に導入できる可能性があります。

エリクソンが何故、21Mbps化+帯域2倍の42Mbpsを売り込んでいるかというと、導入コストがあまり掛からないからです。MIMOの導入はコストが掛かるため、それならLTEに乗り換えたほうが良いのではないかという話が出てしまうからだと思われます。

実際ドコモは、既存の第3世代の高速化(HSPA+)はコストに見合う実際の効果が無いとして7.2Mbps化で打ち止めにしてLTEに移行する判断をしています。

イーモバイルには帯域は一つしかありませんし、MIMOに対応させるコストにも厳しいものがあるかもしれません。

ただし、1.5GHz帯の取り合いに便乗して1.7GHz帯を獲得する話が実現すると、帯域を束ねる形での高速化が出来る事になり(つまりエリクソンが今回売り込もうとしているものそのもの)、MIMOなしでも42Mbps化が実現可能になリます。

さらにはMIMOと組み合わせると84Mbps以上も可能になります。

#競合陣営にとっては重ねて「1.7GHz帯を泥棒させることは危険」ということになります

どちらの方法を取るにしても、実現するのはいろいろと無理もあるので難しいはずですが、「42Mbpsは40Mbpsよりも数字が大きい」のは事実であり、もし42Mbps化をやってしまうと、イーモバイルがモバイルWiMAXを押しのけて日本最速の座に戻る事になります。

#ただし、スペック上の最高速度と実効速度はまったく違う数値になるはずなので、その点は注意

|

« 今週のらくがき帳 | トップページ | 544 「ウィルコムが次世代PHSで中国のZTEと提携」の件 »

コメント

とある日曜日の番組でイモバの社長密着取材みたいなのをやってましたが、いかにも山師の大言壮語家って印象でした。
開始当初、加入者が増えても速度はおちない、なんてたわごと言ってましたが、なるほどそういう人だなと思いましたよ。
だから今回の発言も全く信用できませんね。

投稿: kuri | 2009/03/22 21:34

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 545 2009年中にイーモバイルが「最速」の座を取り戻すかもしれない(スペック上は):

« 今週のらくがき帳 | トップページ | 544 「ウィルコムが次世代PHSで中国のZTEと提携」の件 »