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573 イーモバイルが「1.5GHz帯は要りませんから、1.7GHz帯をください」と言う理由

すこし前のニュースなので申し訳ないのですが、1.5GHz帯の再割り当てについての話題について


◆イーモバイルは1.5GHz帯を辞退します?

携帯電話(など)に使う帯域の割り当ての議論が続いています。次に割り当てが予定されているのは、1.5GHz帯の第二世代停波後の空きの再割り当てと、2GHzのTDD用帯域です。そしてその次には700/900MHz帯の再割り当ての話題が続くことになるはずです。

今話題になっているのは、次世代用帯域として最初に再割り当てされるであろう1.5GHz帯です。

1.5GHz帯は、
・ツーカー(停波済)
・ドコモの第二世代の補助的な帯域(停波済)
・ソフトバンクの第二世代(2010年3月末に停波予定)

ソフトバンクが本当にあと一年とちょっとで停波できるのかは謎ですが(これも記事にしました)、停波後は1.5GHz帯の携帯以外の用途の整理整頓も同時に行われて次世代用帯域に割り当てられる予定です。

つまり、日本のLTEは2010年4月に1.5GHz帯からスタートかもしれない、という意味でとても重要な帯域です。

LTEのフルパワーを出すために1.5GHz帯を一陣営にまとめて割り当てるべきだという話題もあれば、多陣営に公平に割り当てるべきだという意見もあります。

LTEのフルパワーが出せる20MHz幅×2にこだわるのならば、基本的に一陣営に集約するようなことになるはずです。しかし、そうなると揉めるので、例えば三陣営に10MHz幅を割り当てるような話も出ています。

で、各陣営がいろいろな意見をもっているようです。

携帯4社の3.9G導入戦略はまちまちに、総務省が公開ヒアリングを開催
http://www.nikkeibp.co.jp/it/article/NEWS/20081109/318855/?ST=it&P=1


ドコモ:
LTEを2010年開始、2GHz帯、初期は5MHz幅

追加割り当ての候補となる1.5GHz帯については、「エリア展開に過度の制約を加えずに、高トラフィック地域の対策として使用することが望ましい」(同)とし、二つの活用シナリオ案を示した(写真2)。一つは2011年以降に1.5GHz帯にLTEを導入していく案、もう一つは2010年の段階でまずは既存の3Gトラフィックの逃がし先として1.5GHz帯を利用し、その後徐々にLTEを導入していくという案
同社は1.5GHz帯へのLTE導入の難しさも説明。尾上部長は「1.5GHz帯はIMT-2000プランバンドではないため、装置の開発・調達が少なくとも2010年から1年は遅れる」とし、開始時期に十分な期間が与えられるべきとした。

というわけでドコモは1.5GHz帯ってどうなのよ?というリアクションをしています。ただ、帯域はもらう方向のようです。また、帯域幅については、

周波数幅としては「最大性能が得られる20MHz幅が望ましい」(同)としつつも、複数事業者が競合する場合は「少なくとも10MHz幅を割り当てるべき」と一定の譲歩をする考えも見せた。


KDDI:

KDDIは1.5GHz帯でLTEをしたいようです。

利用周波数帯に関して「当社が持つ2GHz帯は、すぐ下をPHSが利用しているので干渉から5MHz幅しか利用できない。800MHz帯も再編の最中なので1.5GHz帯を使わざるを得ない」(同)と語り、1.5GHz帯の割り当てを強く希望した

また、割り当て幅は10MHz幅を希望しているようです。少し弱気ですね。

帯域幅は「高速ブロードバンドに対応するため、10MHz幅を一つの単位とすべき」とした。


ソフトバンク:

ソフトバンクはLTEではなく、HSPA+の導入を希望しているようです。そして、2GHz帯の混雑を1.5GHzに逃して、それからLTEを導入したいようです。LTEを導入するどころではないという本音も見えますね。

「(同社が保有する)2GHz帯の周波数がトラフィック増によってひっ迫してきている。願わくばLTEを先に入れたいが、既存の3Gトラフィックの逃がし先の確保が近々の課題になっている。そのためにも1.5GHz帯でHSPA+を導入したい。後々にLTEにマイグレーションすることを考え、割り当て帯域幅は少なくとも10MHz以上とすべき」と語った。

また、700/900MHz帯の割り当ても同時に要求をしています。以前から主張している、SBMだけ優良帯域がないので不公平だ、という論ですね。

700MHz、900MHz帯について「伝搬特性に優れるこれらのバンドを、将来的にLTEのメインバンドにしていきたい」と語り、今後の割り当てを強くアピールした。


イーモバイル:

で、今回の話題のものです。イーモバイルは、1.5GHz帯の辞退の申し出と、その代わりに1.7GHz帯の追加割り当てを要求しています。もし、それが無理ならば、1.5GHz帯での10MHz幅割り当てを要望するようです。

周波数帯は、同社が既にサービスを展開している1.7GHz帯を希望(写真8)。「リザーブバンドなどを活用し、少なくとも10MHz幅を割り当てるべき。そのためには利用者数によって追加の周波数割り当てを決めた1.7GHz帯の開設指針を改正してほしい」(同)と訴えた。

開設指針の改正が難しい場合の第2の選択肢として、LTE向けに1.5GHz帯で10MHz幅の割り当てを希望する考えも示した。

多くて三社に10Mhz幅だろうと言われていますから、イーモバイルが辞退するとちょうど良い面もあります。しかし、LTE用帯域を自ら手放すようなことを何故言い出したのでしょうか?


◆イーモバイルが辞退したいと言っている理由

以下、イーモバイルが辞退をしたいといっている真意について考察してみます。

当たり前ですが、イーモバイルは他社のことを思って辞退を申し出ているのではありません。代償として申し出ている「1.7GHz帯の特例追加割り当て」が喉から手が出るほど欲しい、そのためには1.5GHz帯を犠牲にしても差し支えない、というのが真相だと思われます。

つまり、イーモバイルにとってのメリットは、
・1.5GHz帯の追加割り当て <<<< 1.7GHz帯の追加割り当て

1.5GHz帯を手に入れた場合、1.5GHz帯向けの基地局整備を再度行わなければならなくなります。基地局の適切な配置場所も、場所を我慢するにしても基地局のアンテナなどもやりなおしです。端末も1.5GHz帯と1.7GHz帯の両対応のものを再度用意しなければなりません。大変なことになります。

しかし、1.7GHz帯の追加割り当てを受けたと考えてみましょう、今すでに1.7GHz用のインフラも端末もありますから、追加の設備投資は必要ありません。

「1.7GHz帯の追加割り当てなら、設備投資がほぼゼロで、イーモバイルの収容能力は突如、二倍やら三倍になる」

のです。

5MHz幅×2が追加割り当てされれば二倍、他陣営に10Mhz幅×2が追加割り当てされるんだから、同じ帯域幅をくれという理屈が通った場合には、「設備投資がゼロで三倍」になります。

よって、1.5GHz帯の睨み合いで譲ると申し出る代わりに、「イーモバイルにとっての理想的展開」を狙っているのです。他社への譲歩ではないわけです。

またそもそも、帯域に対する利用者数が少ないイーモバイルは、1.5GHz帯の争奪戦では最初から不利な立場にある、という事情のあるのではないかと思われます。


◆他陣営がこの要求をどう処理するか?

イーモバイルが譲って三社になり、残り三社で10MHz幅での割り当てを行うことにすれば自社落選の可能性を減らすことは出来ます。

ですが、1.7GHz帯の追加割り当てはイーモバイルにとってかなり望ましい展開です。もし、イーモバイルの言い分が通ったら他陣営は突如パワーアップをしたイーモバイルに脅かされることになります。

例えばソフトバンク、ソフトバンクはこれからイーモバイルとの一位争奪戦を続けることになるはずですが、ソフトバンクといえば設備投資で最も苦労している陣営、イーモバイルのこの話のうまみは身に染みてわかるはずで、

「設備投資がほぼゼロで、収容能力が何倍にも強化される」というようなことが、自分のライバルに起こるとなると、許しがたいはずです。

だから他陣営、特にソフトバンクにとってはイーモバイルの要求は許せないものかもしれません。イーモバイルの真意が見抜けていれば。

また、「周波数の有効利用度」という基準ではイーモバイルには割り当てをすべき理由が弱く、そもそも最初から割り当てる必要が無い、だからどちらの帯域も割り当てるべきではない、という話も成り立ちます。これで押し切られて割り当て無しになるかもしれません。

また、話は簡単ではなくて、
・700/900MHz帯の割り当てが後に控えている
・アナログ地上波の停波は遅れるかもしれない
・そもそもソフトバンクの第二世代停波が予定通りに進むか解らない
(場合によってはソフトバンクは「わざと」停波を遅らせることだって出来る)

逆にイーモバイルにとっては、他陣営にとって許しがたいはずの1.7GHz帯の追加割り当てをやってのける絶好のチャンスということになります。

というわけで、1.5GHz帯の割り当ては他の事情と絡み合って、思いもよらないような騒動が起こることになるかもしれません。

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コメント

イー・モバイルの要望をリンク先の画像(写真8と出ているもの)と合わせてみて気が付いたのですが、
>利用者数によって追加の周波数割り当てを決めた1.7GHz帯の開設指針を改正してほしい
これによって STEP1:W-CDMAの追加割当てを東名阪バンドの残り5MHz×2へ要望
STEP2:(リザーブバンドである)全国バンド10MHz×2にLTEを導入
とありますが、実はイー・モバイル とりあえずの目的って
今にも取られそうな東名阪の残帯域5MHz×2を手に入れるため
なのではないかという気がするのですがどうなのでしょう?(&全バンド追加割当てが 未だ程遠い250万加入まで待ってられないというのも)

ところで東名阪バンドってドコモの15MHz×2(3つ目の分は官報で見つけましたが)の残りって
KDDI,SBM(,もしかしたらドコモも)のいずれも追加割当て条件をクリアしていたような気がしたのですが…?

投稿: 匿名(まだ仮) | 2009/01/21 00:04

(v^ー゜)ヤッタネ!!ついに現実になりましたね

投稿: | 2009/06/13 00:24

イーモバイルとしては250万契約までに必要な残りの契約者数である90万契約程を8月上旬開始予定のHSPA+で早期に達成させるのが狙いか?
そうなれば1.7GHz帯に20MHz幅となり将来的にはフルに能力を出せるLTEが可能になるわけで

投稿: | 2009/06/14 00:04

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