589 インテルがモバイルWiMAXを見限ってLTE陣営に寝返ったかもしれない件
もしかするとですが、インテルがモバイルWiMAXを見捨てたかもしれません。
恐ろしい事が始まった可能性があります。
◆インテルがエリクソンとを組む
何とも要領を得ないニュース記事なのですが、まずは引用してみることにします。
インテル、まもなく「Core i7」プロセッサを提供開始--WiMAXを超える新技術にも注目
http://japan.zdnet.com/news/hardware/story/0,2000056184,20382281,00.htm
さて、まず記事タイトルに「WiMAXを超える新技術」とあります。この時点では何ことやらわかりませんが、記事の内容が驚くべきことになっています。
Intelが、Moorestownのプラットフォーム向け「High Speed Packet Access(HSPA)」データモジュールの開発を、Ericssonと協力して進めていると語った。
というわけで、「WiMAXを超える新技術」というのはHSPAのこと、つまり日本でいう「HSDPA」のことでした。しかも、「LTE陣営の欧州側のボス」である「エリクソン」との協力であると発表されています。いいですか、エリクソンはLTE陣営のボスの1人なのです。
まずは枝葉の部分から処理しましょう。そして先に書いておくと細かい話は後で書きます。
「HSDPA」を「WiMAXを超える新技術」と呼ぶとは随分思い切った勢いのWiMAX批判にも思えますが、その部分を引用して考えてみましょう。ちなみにこの記事のオリジナルは外国人が書いています。
WiMAXを超える他の通信技術に注目していることを明らかにした。
WiMAXもサポートされてはいるものの、すでに確立されている他のワイヤレステクノロジとの厳しい競争に直面しており、抱えている問題を乗り越える上でも、WiMAXは十分でないかもしれない。
可能性:
・WiMAXブームに乗せられている記者(バブルの担い手)はこの程度の理解力しかない。
・嫌味入りで書かれた記事
・インテルが発表した内容そのままを記事にした
インテルはこれを発表するにあたって、HSDPAに対応させる必要性があるのだ、と大人の事情で何らかの屁理屈を言ったに違いありません。それを真に受けてのそのまま書いてしまった記事にも思えます。
この発表の何とも切ないのは「台湾」での発表だったということです。
WiMAXを超えるものが存在する。Intelは、台北で開催された「Intel Developer Forum(IDF)」において、スマートフォンの次世代プラットフォーム「Moorestown」向けに、WiMAXを超える他の通信技術に注目していることを明らかにした。
台湾と言えば、国策でモバイルWiMAXに入れ込んでいます。
台湾の国策モバイルWiMAX計画「M-Taiwan」について
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/07/618_wimaxmtaiwa_11de.html
つまり台湾は挙国体制でインテルの計画に乗っているのですが、その台湾でこの発表がなされたことになります。なんとも切ない話ではありませんか。
◆これはどういう話か
まず、何を開発しているという発表だったかについて整理してみましょう。
Moorestownのプラットフォーム向け「High Speed Packet Access(HSPA)」データモジュールの開発を、Ericssonと協力して進めてると語った
まず、「Moorestown」について説明をしましょう。これは、インテルが「消費電力の厳しいモバイル機器向け」に開発中の次世代の「CPUなど一式」のことです。「WILLCOM D4」が用いている有名な「ATOM」がありますが、これの後継にあたります。
つまり、「ATOMの後継」が「HSDPA(HSPA)に対応する」と発表された、ということなのです。
そしてエリクソンとは、欧州陣営のボスです。GSMの重鎮で、W-CDMAの重鎮であり、そしてLTE開発での欧州のボスです。そしてエリクソンはずっとモバイルWiMAXについては厳しい評価をしています。
さらに続き:モバイルWiMAXを嫌っている/避けている陣営(2)
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/01/748_wimax2_dbb2.html
上記の以前書いた記事に色々書きましたが、エリクソンは相当に前からモバイルWiMAXを酷評しています。HSPAの方が総合的に優れているとか、せいぜいHSPAと同じ物を提供するにすぎないものだ、と言っています。
そしてLTEはモバイルWiMAXと次世代の主役の座の争いで正面から激突している相手です。
またさらに、インテルが「共同開発中」と言っているデバイスですが、これは実は、「エリクソンが対モバイルWiMAX兵器」として開発中のモジュールの事を差すと思われます。
以下の記事を参照ください、
エリクソン(LTE陣営)がHSDPAをThinkPadに載せて、モバイルWiMAXに喧嘩を売る
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/02/737_ltehsdpathi_a9d6.html
「明日のWiMAXより,今日のHSPAを」と紹介されている次第でして、完全にWiMAX殺しとして作られたデバイスです。
実際、共同開発とは言ってもインテルには無線の技術力はありませんから、新たに独自開発したとは思えません。エリクソンの「対モバイルWiMAX兵器」をインテルがそのまま採用したと考えるべきでしょう。
◆モバイルWiMAX陣営の「最大の優位性」が崩壊したかもしれない
一応インテルはモバイルWIMAXには対応させないと言っているわけでも、LTEを採用すると言っているわけではない、と思うかもしれませんが、HSPAの標準採用がなされるとすると予想以上の影響があります。
まず「LTEじゃないじゃないか」ですが、それは「当たり前」です。なぜならLTEはまだ開発中の技術だからです。LTEモジュールが標準採用されるという「最悪の結果」になっていないのは確かですが、LTE自体が開発中なのですから現時点では採用しようがありません。
また、モバイルWiMAXが公式に非サポートになったわけではない、というのも確かでしょうが、以下のようにモバイルWiMAX陣営の「最大の心の支え」が崩壊しています。
モバイルWiMAXが持てはやされていた理由をざっと並べてみると、
・超高速で安価なすごい未来技術である
・世界の流れはWiMAXである(ブームだからブームだ)
・インテルが次世代のPCに標準装備させるので自然に超巨大市場ができる
まず最初のものですが、あっという間に正体がバレました。もともと固定のWiMAXとモバイルWiMAXが混ぜこぜになって言われていたりしていた側面もありました。さらには、802.20を一味に潰されて怒ったクアルコムがとんでもない欠陥技術だと攻撃をはじめまして、そしてそれに対して「反論が出来ない」という情けないことになっていました。
クアルコムの怒り加減については以下の記事を参照ください
続き:モバイルWiMAXを嫌っている/避けている陣営
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/01/749_wimax_f209.html
次に、去年末あたりに日本で吹き荒れた「WiMAXは世界の流れ」「日本は遅れる」ですけれど、去年末の時点ですでに秋風が吹いていました。
さらに続き:モバイルWiMAXを嫌っている/避けている陣営(3)
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/01/747_wimax3_436c.html
その後、モバイルWiMAX陣営には良いニュースはありません。北米の700MHz帯もあっさりとLTE陣営が占拠しましたし、欧州でのオークションの結果も微妙です。そして何より、日本でのモバイルWiMAX熱もあっという間に冷めました。
以上、最初の二つについては「最初からどうも怪しい話」だったわけですが、最後のものは「本物の強み」でした。
今でもなおモバイルWIMAXを支持する人はこう言います。劣った技術であろうとも及第点(ないしは忍耐の範囲内)のもので安価に提供されるなら、加えてインテルの全面サポートがあれば数の力で負けはしない、と。
ちゃんと技術間競争をせずに勝つという意味では、「インテルのPCへの絶対支配力」を使ったインチキでもありますが、数の論理というのもまた世の法則です。なお私もこの可能性は今なおあると思っています。
おそらくインテルの絶対支配力に由来する優位性こそ、モバイルWiMAX陣営の最後の拠り所だったはずです。
ですが、インテルがHSDPAモジュールを採用すると、この強みも消滅します。モバイルWiMAXには特に目立った強みは無い、ということになるかもしれないのです。
そして、エリクソンのHSDPAモジュールを採用するとなると、自然にHSPA+モジュールが後継として採用され・・そしてそのうちLTEのモジュールが採用される流れも自然に予想されます。まさにモバイルWiMAX陣営にとって最悪の流れです。
◆UQコミュニケーション(KDDIのモバイルWiMAX)の端末調達まで影響を受ける
第三世代戦争の序盤戦ではクアルコムの技術力で歴史的な快進撃を続けてきたAUでした、3.5世代化完了まで進撃速度はあまりに圧倒的で、今になってもなお「当時のリードの貯金」が残っているほどです。実際、3.5世代化を完了し、上りの高速化まで着手中のキャリアは今のところAUだけです。
ですが、その後の次世代計画では厳しい状況です。頼みのクアルコムの次世代技術のUMBは普及しない流れで、AUもLTEを採用せざるを得ないと思われます。そしてもう一つかけていたはずの保険、モバイルWiMAXもこの状況に追い込まれました。
モバイルWiMAXでの帯域獲得戦では、以前から次世代技術として入れ込んできたという自負(昨日今日出てきた他陣営が何を言うか)と、実際に試した結果としてのモバイルWiMAXへの落胆が混ざっているような状況に思えました。
モバイルWiMAXでは、総務省と約束したエリア整備は行うものの、自前での端末調達は特にやらない方針のようです。これは、本気を出さないということの証拠に思えますし、自分で何もしなくてもインテルのパワーで対応するデバイスはたくさん出るでしょ?ということでもあったと思います。
無理をせずに、モバイルWiMAXが自然に持つであろう優位さに乗っかって楽をしようというわけでした。モバイルWiMAXで日本の携帯電話相手に大勝負をしようという気迫は感じられませんが、まあ、合理的な作戦です。
ですがこの流れだと、「モバイルWiMAX対応デバイスがたくさん出る」代わりに「HSDPA対応デバイスがたくさん出る」流れかもしれないということです。楽できるのは自分ではなくて、むしろ「敵陣営」かもしれないということです。
また、LTEならば自分達が先行している(その間に走って逃げろ)と思えたはずですが、HSPAとなると自分達の方が追う立場です。むしろ、LTEとHSPAで挟み撃ちです。
いろんな話がおかしくなってゆきます。
またインテルですが、そもそも「こういうことをするところ」でもあります(メモリの事件とか)。インテルにとって大事なのは「CPU方面における圧倒的な支配力」であって、それ以外は基本的に枝葉なのです。自分の力を削る事になってまでモバイルWiMAXを守ろうとは思わず、戦線自体を切り捨ててしまい、LTE陣営に乗り換えてしまっても別にそれで困らないわけです。
インテルは半導体屋で、通信技術で勝負をしているわけでもなければ、ましてや携帯キャリアでもないからです。実際このまま行くと、親分であるはずのインテルが最初に逃げ出すこともあるのではないかと思っていました。
とりあえず今回の発表、その他モバイルWiMAX陣営にとっては困ったニュースだったのではないかと思われます。
また、どの程度依存しているのかわかりませんが、次世代PHSはモバイルWiMAXにも使われるデバイスとの量産効果に便乗する予定だったはずで、こちらも影響をうけるかもしれません。すでにこの状況を見越していて、LTEの量産効果に便乗すべく作戦を切り替えていれば問題ないはずですが。
また、LTE一色の世界なんて多分とても退屈なんですけど、そういう方向なんでしょうか。
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