« 589 インテルがモバイルWiMAXを見限ってLTE陣営に寝返ったかもしれない件 | トップページ | iPhoneの「TV&バッテリー」はどうなんだろう、と »

588 「インテルがiPhoneを酷評」騒動の正体は「モバイルCPU戦争」でiPhoneはあまり関係ない件

なんか一部で話題になっていた件について少し書いてみたいと思います。


◆「インテルがiPhoneを酷評」という(おそらく誤解の)ニュース

事の発端は、以下の記事のようです。記事タイトルだけで事態は了解できるかと思いますが。

インテルが「iPhone」を酷評、アップルとの蜜月は終焉へ
http://japan.cnet.com/mobile/story/0,3800078151,20382453,00.htm

書き出しが、

IntelとAppleとの蜜月は、どうやら苦い結末を迎えたようだ。

ということになっています。これは「記者がそう思った」という事ですが、この煽る感じの内容が今回の騒動を引き起こしてしまいました。

何故そう思ったのか、というと、

台北で開催された「Intel Developer Forum」(IDF)に関するZDNet Australiaのレポート記事によると、Intelの幹部は、同社のチップを採用していないことを理由に、「フルインターネット機能」を提供していないスマートフォンの典型例の1つに「iPhone」を加えることに決めたようだ。

というだけのことなのですが、この事実を元に

・インテルがiPhoneを攻撃した
・インテルとアップルは喧嘩状態になった

という記事になっています。

記者はこう考えたのでしょう。

・「IntelとAppleとの蜜月」というのは、アップルがインテルなマックを発売するという事件があったので、インテルはアップルの味方になった。
・ところが今回インテルがiPhoneに無茶な文句をつけたように思えたので、インテルはアップルの敵になった。

以下、周辺の状況を書いてゆきたいと思いますが、インテルは「iPhoneそのもの自体」に文句をつけたいと思ってはいないはずです(少なくともそういう効果を狙った発言ではないはず)。

インテルとしては意図と違うリアクションが発生してしまったので、困ったのではないかと思います。

実際、そういう記事を書こうかなと思っているうちに、インテルから「皆さん誤解ですよ」「お詫びいたします」という訂正が入りまして、

インテル、「iPhone」を酷評した幹部の発言を「訂正」
http://www.yomiuri.co.jp/net/cnet/20081024nt10.htm

・iPhoneそのものやユーザに文句をつけるつもりは無かった
・本音の部分(後述)でもちょっと言い過ぎた(確かにARMに劣っている面がございます)

という訂正がなされました。どちらにせよ、インテルにとって今回の件は失敗でした。インテルが劣っている面まで認めなきゃならなくなりましたから。

とりあえず、事の本質は(具体的な製品としての)iPhoneがどうのこうの「ではない」と思います。


◆モバイルCPU戦争

インテルが台湾で攻撃したかったのは、「ARM」というモバイル用途で圧倒的な世界シェアを持ちつづけるCPUのはずです。インテルは別に特定の製品(含むiPhone)について好き嫌いを言いたいわけではなかったはずです。

「ARM」なCPUが積まれている携帯電話などのモバイル機器がどれくらいあるかというと、「そういう機器の大半」だと思ってよいのではないかと思います。ちなみにW-Zero3系に積まれている「XScale」というCPUもARM系です。要するに世界中ARM系だらけということです。

そしてインテルは現在、モバイル系CPUの市場を攻略しようとしていて、パソコン用のCPUを超低消費電力にしたようなCPUを作って、「モバイルなCPU市場もインテル王国の領土に!」ということをやろうとしています。

その一番槍こそが、WILLCOM D4が採用した「Atom」で、そしてそれに続く事になっている「Moorestown」です。

インテルとしてはARM系を蹴散らして「Atom」ないしは「Moorestown」を携帯電話っぽい用途にどんどん使ってもらいたいのですが、今のところあんまり上手く行っていないようです。

インテルはこれが気にいらないのです。

そして今回問題になっているiPhoneについても、ARM系のCPUが採用されています。

で、事あるごとに「ARMはダメだ、インテルの方が素晴らしい」ということをプレゼンなさります。今回の事件はインテルのARM潰しキャンペーンで「手が滑った」、という感じではないかと思います。まあ実際、iPhoneがARMを採用しているという事実は気にいらないのでしょうけど。

引用部をもう一度持ってくると、

Intelの幹部は、同社のチップを採用していないことを理由に、「フルインターネット機能」を提供していないスマートフォンの典型例の1つに「iPhone」を加えることに決めたようだ。

インテルのCPUを積んでないと「フルインターネット機能」が利用できないぞ(ARMなんか積んじゃダメだ)、という主張をインテルが行っていて、積んでない機器の具体例にiPhoneの名前が書かれていた、という事から書かれたニュースだったようです。


◆「フルインターネット機能」

インテルの強みはパソコン用のCPUでの圧倒的な支配力です。で、インテルは今後、パソコン用のCPUをモバイル用の世界にも受け入れさせようと企んでいます。

ただ、「ARM」は超低消費電力で性能を出さなければならない分野で伊達にナンバーワンをやっているわけではありません。今のところインテルは「旧来どおりの携帯電話的な尺度」でARMを性能で蹴散らすことは出来ていない模様です。

ただ、インテルにも強みがあります。パソコン用のCPUと同一系統のCPUだということは、もしこれを携帯電話に積めば、インテルが支配する「パソコン世界」にある多くの資産を携帯電話世界に持ってこれる可能性がある、という点です。

インテルが「フルインターネット機能」と言っているのは、例えばパソコンでのインターネット体験を支えているソフトウェア群をそのまま携帯電話上に引越しさせられますよ、というようなことでしょう。ARMだと苦労しますよと。

極端な話、ARM用のWindowsVistaやWindowsXPはありませんから、WILLCOM D4のようなマシンをARMベースで作ることは出来ません。

インテルは、携帯電話のフルブラウザがPC用のものと同一の性能を持っていない、例えばFlashのサポートが不完全なのは、インテル製のCPUを積んでいないからだという主張をしています。つまりヘボいARM系なんか積んでるからダメなんだぞ、と。

で、今回の問題の主であるiPhoneについても、Flashに対応していないと言う事実があります。ただこれについては、以前に書いたとおりパワー不足が原因ではないようなのですが。


◆「ARM側」は「インテルのARM批判」にぶち切れている

つまり今回の件は、インテル vs ARMというのが事の本質だろうと言う事になります。

で、インテルに「フルインターネット機能」が提供できないとか、パワー不足だとか言われて続けている「ARM」側ですが、インテルの批判はウソだらけだと怒っています。

ARM、IntelによるAtom優位の主張に強く反論
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0910/arm.htm

以下、具体的な反論内容の部分については省略した形になりますが、引用してみます。

Intelは最近、AtomプロセッサとARMプロセッサの性能比較を盛んに公表し、Atomプロセッサの優位性を積極的に訴えている。これまで、ARM側からは表だった反論は行なわれていなかったが、堪忍袋の緒が切れたと見えた。

(略)

続いてマーケティング&ビジネスデベロップメントのシニアマネージャーを務める平田一行氏が、Intelの主張するAtomの優位性を示したスライドや図版などに対し、問題点を指摘した。

(略)

以上のようにARMの反論は丹念かつ詳しいものだった。ARMとしてはこれまで、Intelのプロセッサとの性能比較はあまり行なったことがなく、今回の資料発表はIntelの宣伝攻勢に対する対抗的な措置としている。Intelからのリアクションが期待されるところだ。

詳細については元記事をご覧下さい。

まあつまり、Intelの言っている「Atomの方が優れている」という主張はインチキで、きちんと性能比較をするとARM系の方が優れている、という反論がなされたということです。

ARM側の主張がすっかり正しいと確認したわけではないですが、クアルコムがモバイルWiMAX陣営に反論した時と何か似ているような気もします。今回も「インテルは反論できず」になるのではないかと。


◆iPhoneがインテル系のCPUを仮に積んでいた場合

ただ先にも書いたように、性能はともかく「普通のパソコン」と同じCPUを積むと良い事もあります。

たとえば、iPhoneの特徴として、OSXそのものを小さくしたものが積まれているという特徴があります。だから「いわば小さいマック」と言われたりもします。

iPhoneは現在ARM系のCPUを積んでいますが、もしこれがAtomだった場合には
・iPhoneのOSは基本としてはMacと同じ
・CPUは全く同じ
となります。まさしく「ポケットに入るマック」という感じだったかもしれません。

というわけで、(そういう意見が主流なのかどうかは知りませんが)iPhoneがAtomだったら、とか、Moorestown(インテルの次期モバイル機器用CPU)のiPhoneが出て欲しい、と言っている人も居るようです。

とりあえず今回の件については、インテルはiPhoneそのもの自体に文句を言っているわけでは無いでしょう。積んでいるARMが気にいらないだけで。

ですからiPhoneユーザの方々は、将来に出るiPhoneの後継機について想像をしながら「インテルを積んだ方が面白い」「いやARM系のままで良い」とか議論する種になさればよいのではないかと思います。とりあえずiPhoneの将来には複数の選択肢があることは確かですから。

|

« 589 インテルがモバイルWiMAXを見限ってLTE陣営に寝返ったかもしれない件 | トップページ | iPhoneの「TV&バッテリー」はどうなんだろう、と »

コメント

コアがMacOSなiPhoneですから、平行してAtom版も作られていそうですね。
PowerPC版とかもあったり。するわけはないか。。。


投稿: bee | 2008/10/26 17:07

アッカはもう仕舞いなのかしら

投稿: | 2008/10/30 22:36

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 588 「インテルがiPhoneを酷評」騒動の正体は「モバイルCPU戦争」でiPhoneはあまり関係ない件:

« 589 インテルがモバイルWiMAXを見限ってLTE陣営に寝返ったかもしれない件 | トップページ | iPhoneの「TV&バッテリー」はどうなんだろう、と »