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610 エリクソン「先行してLTEを導入するドコモは稀な例」

携帯基地局を作っているエリクソンが、日本で色々発表した件について少し記事にします。


◆ソフトバンクの次世代はエリクソンのHSPA+が担う?

エリクソンというのは、欧州(スウェーデン)の携帯基地局メーカです。GSMの本部みたいなところで、W-CDMAの本部の一つで、LTEの本部の一つであるようなところです。つまり文字通り業界の巨人です。

詳しくは以前から書いている記事を参照ください。エリクソンはモバイルWiMAXを良くない技術だと評価しており、その関係でも記事を書きました。

まず、ソフトバンクがエリクソンの基地局の採用をするというニュースです。

エリクソンがソフトバンクモバイルの東名阪のHSPA回線を増強
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080806/312319/

スウェーデンの携帯電話向け機器メーカーであるエリクソンは,ソフトバンクモバイルとHSPA(high speed packet access)ネットワークの拡張とアップグレードを引き受ける包括的な契約を結んだと,2008年8月6日に日本エリクソンが開催したセミナーで明らかにした。

ちなみに、ドコモもエリクソンと縁が深く、イーモバイルも東京大阪名古屋などはエリクソンに基地局を作ってもらっています(ただし地方都市は中国企業)。今回の発表は、加えてソフトバンクもエリクソンに基地局を頼む事になったという発表です。

発表でもこのあたりの事情への配慮はなされていて、

エリクソンはすでに7月18日に英文のリリースを発表していたが,日本語でのリリースは出さなかった。これは,日本国内の他の顧客である携帯電話事業者に配慮したためだという。

おそらくドコモに配慮したものだと思われます。エリクソンはドコモとずっと関係がありますし、ドコモの方が上客です。エリクソンはドコモのLTE基地局網も受注しています。

しかも、おそらく配慮したんだろう、ということではなくて、「日本国内の他の顧客である携帯電話事業者に配慮したため」と答えてしまっているあたりがエリクソンの「ドコモ>>>>ソフトバンク」加減を示すものであるとも思えます。

今回の契約では,通信トラフィックが多い東京,名古屋,大阪で,既存のHSPA基地局を高速化する。また,新規に高速の製品を導入していく。

東京・大阪・名古屋で基地局整備を請け負うようです。またアップデートだけではなく、基地局の入れ替えやバックボーンの整備も請け負うようです。つまり、世界のエリクソンが「なんちゃって基地局」の後始末をするということのようです。

ソフトバンクは微妙な事になっている基地局網について反省しているからこその「エリクソンへの依頼」だと思われますので、新しく入れる基地局はアップグレードへの配慮がなされ、最低限HSPA+のMIMOなしには対応可能な基地局で、もしかするとLTEまでのアップグレードを配慮したものではないかという気がします。

また、イーモバイルも東京・大阪・名古屋ではエリクソンの基地局を採用していますから、もしかすると「日本で飛ぶHSPA+の電波はエリクソンによるもの」みたいなことになるかもしれません。


◆HSPA+が当面の主流でLTEの早期採用は例外的

また、W-CDMA/LTE陣営の今後についても発表がなされています。エリクソンはW-CDMA/LTE陣営の親玉ですから、これは単なる状況の解説ではなく、エリクソン自身が「そのようにする方針である」という面を含んでいます。

エリクソン、LTEなど次世代ネットワーク戦略を解説
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/41273.html

まず時期的なものについて

2008年の後半にも「HSPA Evolution」として、21Mbpsや42Mbpsの通信速度を実現するHSPAネットワークが登場する見込みである

程なく、第三世代の強化版が登場する事になっているようです。しかも2008年中に、だそうです。

21Mbpsは14.4Mbps(従来の3.5世代の最大速度)を1.5倍化(64QAMを採用)したものです、詳しくは過去の記事を参照してもらうこととして今回は詳細な説明は省きます。

信号処理だけで高速化するので、従来の基地局でも新しいものであればアップグレードで対応できるかもしれません。

42MbpsはそれをさらにMIMOに対応させるもので、送信アンテナが変わってしまうので基地局の入れ替えが「通常は」必要になります。


平行して開発されているLTEは2010年ごろから商用化される見通しであることが解説された。

これはこれまで発表されているとおりです。2009年に前倒しで採用するところがあるか無いかくらいでしょうか。エリクソンとしてはそんなに急ぐつもりは無いのもかもしれません。


さらに、同一帯域で隣接する2つの下り帯域を同時利用するDC-HSDPA(Dual-Cell HSDPA)や、4×4 MIMOの活用により、HSPA Evolutionとして80Mbpsの通信速度まで計画されていることを説明した。

DC-HSDPAというのはEV-DO Rev.Bみたいな事をする高速化です。現在、ドコモやソフトバンクは2GHz帯に「四つの通信帯域」を持っていますが、これを二つ以上束ねて高速化する方法です。いわば1人で何人分もの周波数帯域を使ってその分高速化するという解りやすい方法で、素直に高速化しますけれども、電波の消費量も増えてしまいます(混雑しやすくなる)。

DC-HSDPAについては「ソフトバンクモバイルが実用化すると考えられている

という発表もありまして、エリクソンへの基地局発注はここまでの進化を見越したものである可能性があります。ただ、DC-HSDPAは速度が出る代わりに混雑しやすいわけでして、そのあたりは大丈夫なんでしょうか。

なお、ドコモがHSPA+への流れが出来つつある事に苦言を呈していましたが、

ドコモはHSPA+が嫌いらしい
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/07/616_hspa_1d00.html

すでにHSPAネットワークを構築した事業者は、今後LTEの前段階としてHSPA Evolutionに移行していくとの見方を明らかにした。なお、藤岡氏によれば、NTTドコモのようにHSPA Evolutionではなく、先行してLTEを導入するのは世界的に見れば特殊な例であるという。

ドコモはHSPA+が流行りつつあるのが気にいらないようですが、エリクソンはLTEはしばらく先だと考えているようです。もっともエリクソン自身がHSPA+を推進している張本人であるということもあると思われますが。ドコモとしては面白くない流れかもしれませんね。

また、発表では例のごとく「LTE完全勝利の流れです」という説明がなされています。CDMA2000陣営もLTEを採用する流れで、HSPA+を経由するところはあるとしても、もはや他方式を採用するところは無いだろう的な発表です。

確かにこのままだとLTEが世界標準になるでしょう。

またその他に、「デザイン性を持たせた基地局」というのが発表されていたようです。ただこのネタはずっと昔からあるネタのはずです。

エリクソンの基地局はオブジェのように見える方向性の基地局のようですが、自然物に擬態する基地局や、その場所の建築物の感じに溶け込む基地局などもあるはずです。

景観問題とか、携帯基地局があると解った途端に文句をつけてくる人が基地局の存在に気がつかないようにするために使われたりします。○○国立公園に無粋な人工物が目立ったりしないようにするとか、歴史的景観に溶け込むようにするためとか、ネズミの国には携帯基地局というものは存在しない事になっておりますので、とか。

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