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606 北欧の2.5GHz帯:LTEとWiMAXが「共存」ではなく、LTE勝利なんじゃないかという件

久しぶりにWiMAXとLTEネタです。

北欧の二カ国(ノルウェーとスウェーデン)で2.5GHz帯の割り当てが済んでおりまして、その件について「LTEとWiMAXの共存が始まった」という記事が出ていた件について、少し書いてみたいと思います。

いろんな感想をもたれた方がおられるようですが、どうやらこの件は意外なことが「事の根幹」となっているのではないか、ということを書きたいと思います。


◆たしかに「共存」なのでしょうが

こういう記事がありまして、それについて少し書きたいと思います。

欧州の2.5GHz帯で始まったWiMAXとLTE共存の動き
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080801/311932/

非常に簡単に説明をすると、こういう事になったということです。

・欧州では2.5GHz帯の割り当て作業が行われつつある
・オークションによる配分がなされる方向
・ノルウェーとスウェーデンでは割り当てが完了した
・両国共に、LTEとWiMAXに共に帯域が割り当てられた

これについては二通りの反応があるように思えます。まず、下り坂のモバイルWiMAXが欧州から完全排除されるんじゃないかと思っていた人は「そうでもないんだ」という反応、そして逆に2.5GHz帯といえばモバイルWiMAXの聖地だったはずで、なんかLTEに侵略されてるという反応です。

どちらにせよ想定の根本にあるのは、LTEとモバイルWiMAXがそれぞれの技術の将来性を賭けて争い、その結果両方とも生き残ったというような解釈だと思います。

でも、今回の件についてはそのような意味では「LTEとモバイルWiMAXはちっとも競争していない」のです。

なぜかというと、LTEはFDDであり、モバイルWiMAXはTDDなのであり、つまり最初から「競争が起きない」状況であるためです。


◆TDDとFDD

以前から読んでおられる人には再度の説明になりますが、簡単に技術的な説明を行います。詳しくは過去の記事を参照ください。

ちょっと解り難い話かもしれませんが、これは「今回の割り当て結果」になった原因の主因ですので、何とか理解していただきたい。

携帯電話などで使われる無線通信では、下りの通信(基地局→端末)と上りの通信(端末→基地局)の分離の仕方で、二種類に分類がなされます。TDD(Time Division Duplex:時分割複信)と、FDD(Frequency Division Duplex:周波数分割複信)です。

TDDとは、下りの通信(基地局→端末)と上りの通信(端末→基地局)を
・同一の周波数で行い
・時間で上り下りを分割する
方法です。

FDDとは
・上りと下りで違う周波数を使う
方法です。

で、今回の話題にこれらがどう関係するかというと、TDDとFDDでは「帯域の使い方が違う」ためです。

FDDでは上がりと下りで違う周波数を使いますから、「上り用帯域」と「下り用帯域」を別々に必要になります。一方でTDDの場合はそんなことはお構いなしです。

で、FDDでは「上り用帯域」と「下り用帯域」は「適度に間隔を空けてペアになっている」必要があります。まず、なせくっつけた周波数配置にしてはいけないかというと、近づけると「上がりと下りの電波が干渉する」ためです、ので、離れていないといけない。

しかし、離せばいいかというと離しすぎてもこれも問題が生じます。周波数が違いすぎると、アンテナやアナログ回路が共通で使えなくなってしまうためです。

よって、FDDでの割り当てには以下のような配慮が必要になります
・上がりと下りの帯域をペアにして割り当てないといけない
・それぞれは「適度な間隔」で離れていなければならない

一方でTDDの場合、帯域はひとかたまりになっているべきで、バラバラになっていても面倒なだけです。ただし、FDD帯域をTDDで使いまわすことは不可能ではありません。しかしTDD帯域でFDDをするのは基本的に出来ません。

◆試合前に結果が出ていた

TDDとFDDの違いは解っていただけたでしょうか。

次に、主要な通信技術がFDDなのかTDDなのかで分類してみます。

FDD:大半の通信方式
GSM、PDC、W-CDMA系、CDMA2000系、LTE

TDD:
PHS、次世代PHS、TD-SCDMA、WiMAX

LTEについてもTDDモードのLTEも開発中ですし、WiMAXにはFDDモードもありますが、一般的には上記のとおりになります。

電波の割り当てを行う場合には、まず「帯域の割り当て方針」が先に決められます。つまり、「ここは○○Mhz幅のTDD用帯域にしよう」「ここは○○Mhz幅のFDD用帯域にしよう」と、まず電波の割り当て予定地図が先に作られます。

そして、帯域のFDD用とTDD用への割り振りが完了した後に、
・TDD用帯域が欲しいひとはTDD用帯域のオークションに参加してください
・FDD用帯域が欲しいひとはFDD用帯域のオークションに参加してください
ということが行われます。

つまりオークションでは、TDD方式同士、FDD方式同士の技術競争は行われるのですが、TDDとFDDを超えた競争は「試合前に終わっている」ということです。

欧州で今現在、現実的に選択肢になりうるものは、
FDD:HSPA+、LTE
TDD:WiMAX
のみです。

FDD帯域ではHSPA+とLTEでの取り合いが発生しますが、TDD帯域はWiMAXで手を挙げるところしかないのです。発生しうる現象としては、「TDD帯域では手を挙げる奴が少ないなあ」という現象だけです。

つまり、WiMAXとLTEの勝負は「その国の政府がTDDとFDDの割り当てを考えた時点」で終わっているのです。そして「全部FDDに割り当てます、TDDは門前払いで滅んでください」という方針はさすがに決め難いという事情もあります。


◆2005年の日本の割り当てとも似ている

実はこの現象、2005年の日本の「帯域割り当て」の時とも少し似ています。あの時はこのような割り当てになりました。

・1.7GHz帯(FDD)が2枠
・2.0GHz帯(TDD)が1枠
結局、FDDにイーモバイルとソフトバンク(後に返上)、TDDにアイピーモバイル(後に炎上)が割り当てられます。

この時、ソフトバンクとアイピーモバイルが争ったでしょうか?争っていませんよね。つまりそういうことなのです。

つまり北欧二カ国で「共存した」という結果を決定したのは、LTEとWiMAXをめぐるマーケットの判断ではありません。「政府の役人」の判断の結果なのです。

ついで言うのならば、「共存しない」結果に到達するためには、以下のどれかが必要になります。

・政府の役人がTDD帯域を無くすという思い切った判断をする
・TDD帯域に誰も立候補しないという驚きの結果が発生する
・複雑なオークション方式を取り、入札額とTDD/FDD割り当て比率を連動させる


◆事前に割り当て方針決定済み

CEPT(欧州郵便・電気通信主管庁会議)というところが割り当て方針を大まかに決め、それを参照して各国が割り当てを行っているようですが、当然にこの方針決定は以前に行われています。

CEPTの計画では,2.5GHzのペア周波数で2×70MHzを,非ペア周波数で50MHzをそれぞれ配分することとした

ペア周波数というのはFDD用のことで、非ペア周波数とはTDD用のことです。

一般人としては、LTEとWiMAXが直接対決を行って、その結果より良い方に帯域が割り当照られる形にして欲しいはずですが、試合前から配分の骨格は決定済みだということです。つまり、そういう意味での技術間競争は起こっていないのです。

また、両国の割り当て時期(オークション終了時期)も微妙です。
・ノルウェー:2007年11月
・スウェーデン:2008年5月

ノルウェーは日本で帯域の取り合いをしていたのと同じ頃だった事になります。つまり、オークションを開始する前にノルウェー政府が帯域配分を決定をしたのはさらに前ということになります。

ちなみにスウェーデンですが、こちらはさらに別のファクターもあります。ここはあの「W-CDMA/LTE陣営の巨人エリクソン」の本国なのです。今度は逆に、WiMAXには不必要に不利な条件があるということになります。

で、それでも結局「LTEが人気」だったようです。まず、既存キャリアの全てが「LTE帯域が欲しい」と言っています。

ノルウェーの結果
FDD:テレノール,ネットコム,アークティックワイヤレス,ハフスルンドワイヤレス
TDD:クレイグワイヤレス

スウェーデン
FDD:HI3G,Tele2,テレノール,テリアソネラ
TDD:インテルキャピタル

ノルウェーのTDD帯域を獲得した「クレイグワイヤレス」はカナダの企業のようです。スウェーデンでは「インテルキャピタル」というところが獲得をしていますが、これが一体何であるかについては説明するまでも無いでしょう。本部が直接落札しなきゃならない状況だったとも考えられます。

つまり、TDD帯域を獲得したのは大西洋の向こうからやってきた北米勢力のみだったという事になります。

こういうのは「共存の動き」とはあんまり言わない気がします。もしそうならば、CEPT(欧州郵便・電気通信主管庁会議)の割り当て方針が「共存を強制するもの」だっただけということに思えます。


◆イギリスやオランダでは

記事によると今後の割り当ては

・英国とオランダが2008年中
・ドイツが2009年

となっています。

そして、英国とオランダでは以下の新しい措置が取られます。

・TDDとFDDの割り当て配分は固定せず、オークション結果に応じて動的に割り当て比率を変える

これはつまりどういうことかというと、ニーズがFDDに集中した場合にはTDDの割り当てがどんどん減ってゆく事になっている、ということです。とりあえずは「欧州の共通割り当てルールは反故にされる」ということです。

この割り当て方式変更がもたらす結果は「TDDが減る」だろうということは予想のつくことです。よって、「TDD用を減らしたい」という政府の方針転換とも思えます。

来年に割り当て作業を行うドイツが「ペア周波数で2×70MHzを,非ペア周波数で50MHz」の方針をどのように処理するのかも注目すべきかもしれません。

ちなみに、欧州はアジアと違って人口密度が高くありません。よってWiMAXの本来の用途であるFWA、つまり固定回線の代わりをワイアレスで行うような使い方は成立しやすい条件があります。よって、モバイルではないWiMAXは日本より成立しやすい条件があります。それでも、ということです。


◆日本で2次割り当てがあるとしたら

日本の2.5GHz帯についても将来的に2次割り当てが行われる可能性があるとされます。

去年までの段階では、2次割り当てが行われた場合には、2007年の2.5GHz帯割り当ての落選組にモバイルWiMAX用としての割り当てがあるのではないかという話が聞かれましたが、どうも違うことになりそうです。

おそらく欧州と同じく、LTE用としての割り当てがなされるのではないか、と思われます。

そもそも欧州は「非ペア周波数で50MHz」ですから、日本は既に欧州よりも多くの帯域をTDD用に割り当て済みです(KDDI:30MHz幅、ウィルコム:30MHz幅、地域WiMAX:10MHz幅)。そして、欧州の今後の割り当てでは50MHz幅より減る流れにも思えますから、日本でもLTEにも配分しろということになるでしょうね。

どっちを向いてもLTEの話題しかないのは実に面白くないのですが、結局そういう流れのようです。

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コメント

http://japan.cnet.com/blog/kurosaka/2008/08/12/entry_27012914/
モバイルワイマックス(と、イーモバイル)についてこんな記事がでてますね

投稿: | 2008/08/12 23:06

個人的には 次世代PHSがモバイルWiMAXのサブセット(?)として認められたりしたら楽しそうなのですけどねー(ローミングとか)。
今のところモバイルWiMAXはダメダメみたいですし ウィルコムはインテルと多少つながりを持ったみたいなので......
次世代PHSもダメダメだったらこんな妄想もできなくなりますけどねw

投稿: sy | 2008/08/17 02:23

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