628 中国の国策第三世代(TD-SCDMA)目標は「三年で1億」、たが現状は問題山積
中国の国策第三世代(TD-SCDMA)についての話題を書きたいと思います。
また、TD-SCDMAについてはこれまで沢山記事を書いてきましたので、解らないことや機になることがあったら過去の記事を参照してください。
◆中国政府が目標を発表
2008年の4月に試験サービスが開始されたばかりのTD-SCDMAですが、中国政府が今後の目標を発表したようです。
TD-SCDMA:3年で契約数1億件目指す
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2008&d=0625&f=it_0625_002.shtml
香港メディアは20日、中国政府が中国移動(チャイナモバイル)に対し、TD-SCDMAに「3年以内に契約数1億件」という目標を与えたと伝えた。新浪科技が伝えた。またTD-SCDMAの次の段階の作業について、政府は8月中に詳細な計画と予算を報告するよう求めているという。システム構築に関する入札は早ければ10月に行われる予定で、規模はおよそ300億元に達する見込みだ。
これまで記事に書いてきたとおり、TD-SCDMAは中国政府の国策で開発されている技術です。試験サービスの開始すらオリンピックに間に合わせるための国策日程だと思われます。
もはや他の第三世代が3.5世代すら枯れた状態になり、次世代技術のサービスインすら目前の状態ですから、客観的に考えてみるとTD-SCDMAの状況は微妙な状況であると言わざるを得ません。実際、中国国内でも早期撤退論はあるようです。
ただ中国政府はTD-SCDMAで世界と戦う野望をまだ諦めていないのか、今回契約者数の目標が出てきました。「3年で1億」だそうです。さすが中国、人口が多いだけあって日本とはけた違いの数字です。
中国の人はこういう目標に関しては「非常に大げさな事を言う」傾向があることも事実でして、信用しない方が良い数字には思えますが、もしこれが本当の目標だったとしていつにどれくらいになるのか考えてみましょう。
2008年4月 試験サービスイン
2009年4月 1年経過
2010年4月 2年経過
2011年4月 3年経過(1億)
2009年はモバイルWiMAXや次世代PHSが立ち上がることになっています。2010年にはLTEの一番最初のものが動き始め、2011年ともなるとLTEの立ち上げが行われています。また、もうひとつの「本命」であるHSPA+についても十分な時期です。
三年で1億というのは野心的に思える数字ですが、こうやって他の技術と比べてみると、それでもまだ十分ではないような気がしてきます。もちろんその原因は、TD-SCDMAがあり得ないほど遅れに遅れたためですが。
◆まだ調子は良くないようです
現在、中国国内で利用してどうなのかについての記事がありました。
商用テストが始まった中国の3Gサービス「TD-SCDMA」、その実力は
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0806/30/news098_3.html
記事では直接の批判を避けて書かれているように見えますが、結局のところ「現状はダメだ」と思える内容です。
一切電話として成立しないというような状況ではないようですが、エリア面・エリア内での安定性が悪い事・端末に問題があること・商品としても微妙な事・ただつながれば(GSMよりは)速度が出るのでデータ通信用としてはまだ使えること(ただこれは「利用者皆無」だということも要因だと思われる)などがあるようです。
まだ試験サービスだからなあ、というところで納得するしかない程度のようです。
エリアは主要都市でまだ問題があるようです。オリンピック向けですから、「主要都市」では圏外にならないようになっていなければなりません。もう残り時間が無いのですが、まだまだ圏外が多いようです。
圏外の問題については基地局が足りない問題もあるはずですが、日本がW-CDMAで苦労したように(そしておそらくWiBroで類似の問題が発生していると思われるように)技術的問題で圏外が発生している可能性もあります。その場合、基地局を建てても建てても圏外が解消しない状態になっている可能性もあります。
そして、エリア内での安定性にも色々と問題があるようです。エリア内のはずなのに電話がかかってきてもつながらなかったり、移動中に不安定になるなどの現象があるようです。初期FOMAのような感じなのかもしれません。
ただ、初期FOMAと違うのはGSMとのDUAL利用が基本になっているため、GSMで使う分には問題ないという点です。ただ、TD-SCDMAの意味は無しであります。
またデータ通信についてはつながれば速度が出て良いとの事ですが、これはGSMの速度が遅い事と利用者が少ないこととセットでの現象ではないかなと思います。
ただこちらでも速度が低下したり突然切れてしまったりするようで、やはり安定していないようです。
また、利用者にとっても特に安いこともあまり無いため、TD-SCDMAを利用するメリットは今のところあまり無いようです。初期FOMAを契約していた人は基本的に単なる物好きだけ、というかつての状況を思い起こします。
◆他の技術締め出しの可能性
すでに記事に書いたとおり、中国の(携帯)電話会社は三グループに再編されつつあります。そして(何もしなければ)それぞれの陣営の採用する「第三世代技術」は以下のようになる可能性があります。
グループ1:GSM+TD-SCDMA
中国移動(国営携帯電話会社)(国内1位:世界1位)GSM+TD-SCDMA
+中国鉄通(チャイナレールコム)(鉄道の通信網が由来の固定事業者)
+中国衛星通信(チャイナサットコム)(元は中国電信の一部)
グループ2:CDMAOne+CDMA2000(クアルコムと協力関係構築中)
中国電信(チャイナテレコム)(国営固定電話会社:固定1位)(PHS事業者)北部中心
+中国聯通(チャイナユニコム)(国内2位:世界3位)のCDMA部門
グループ3:GSM+W-CDMA/HSDPA?
中国網通(チャイナネットコム)(固定2位)(PHS事業者)南部中心
+中国聯通(国内2位:世界3位)のGSM部門
#グループにつけた番号は私が勝手につけた番号なのでご注意ください。
グループ1は「国策」の担い手なので、TD-SCDMAの主役をする義務があります。よって、GSM+TD-SCDMAはとりあえずサービス開始するはずです。本意でなくてもとりあえずはそうせざるを得ません。W-CDMAを併せて採用するような場合もあるでしょうが、そうなると「TD-SCDMAはやっぱり厳しいか」という状況でしょう。
グループ2はクアルコムと接触を図っていますし、CDMA網を引き継ぎますので、このままだとCDMA2000陣営になるのではないでしょうか。しかもクアルコム、世界市場で劣勢ですから、中国では必死で働くことになるはずです。
グループ3はGSM網が既にあります。よってGSM+TD-SCDMAかGSM+W-CDMA/HSDPAとなるはずですが、W-CDMAを採用すれば優位に戦えることがわかっている状況です。
もしこうなると第三世代技術が三つ揃って戦うことになって面白いのは面白いですが、現状を踏まえると、この状況ではTD-SCDMAが他国の技術に押し負ける可能性が大きくなるように思えます。既に完成の域にあるCDMA2000とW-CDMAとでは、当面勝負にならないでしょうし。
よって以前の記事で書いた「中国政府がTD-SCDMA以外を締め出す決定をする」というとんでもない話が、中国の技術を守るために本当に行われるかもしれません。
ただ、中国はあまりに巨大です。なにしろ日米欧を合わせたよりも沢山の人が居るほどです。中国がTD-SCDMAで鎖国を行った場合、中国が締め出されたのか、世界が締め出されたのかよく解らないような状況です。
自由な競争ではない方法での勝利は「反則」ではあるのですが、これが原因で2020年には中国は勝利する側にいることも無くもありません。数年頑張ってみて結局ダメなら、そこで世界標準を採用しても問題ないでしょうし。
もちろんこういう考え方は中国の消費者のことを全く無視していて、日本では許容される考え方ではありません。しかし中国はこれまでTD-SCDMAの保護のために第三世代のサービスインを許可していないとされ、消費者無視は別に新しい話ではなかったりします。
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