616 ドコモはHSPA+が嫌いらしい
ドコモの人がHSPA+について発言をしていたようなので、それについて。
◆HSPA+は和を乱す?
【ワイヤレスジャパン】「せっかくまとまってきたのに…」,NTTドコモがHSPA 拡張版に懸念示す
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080722/155200/
同氏は最近の3GPPなどの議論において,HSPAの拡張版(HSPA evolution)の動きが活発である点に対してコメントした。「最近,HSPA evolutionが出てきている。一つの標準規格であるにもかかわらず,その規格内で技術の断片化(technology fragmentation)が起きていると感じている。せっかく技術がまとまりはじめたのに,仲間が割れてくるのが心配だ」と,HSPA evolutionとLTEという二つのコンセプトが3GPP内で並立している点に,懸念を示した。
ドコモはHSPA+(HSPA evolution)のことを、陣営内の分裂と言っているようです。
念のために再度説明をすると、W-CDMA陣営には以下が次世代ないしはこれから取りうる道です。
・LTEへ移行する
・HSPA+へ移行する
・3.5世代のまま様子見する
LTEは3.9世代とかSuper3Gとか呼ばれるものです。名前が「第三世代」であるかのような感じなのですが、実際には第三世代技術ではなく、第四世代のさきがけのような存在です。よって、3+0.9世代ではなく、4.0-0.1世代というのが正しい理解です。
つまり、真正の次世代技術であるのですが、現行技術とは断絶もあります。
HSPA+は現行の第三世代をさらに強化する方向の進化です。LTEよりも移行が容易なので、現在ソフトバンクやイーモバイルが採用を表明しています。
LTEでは専用の帯域や専用の端末の開発など面倒な事が沢山あるのですが、HSPA+では現在の第三世代の電波や現行端末と混ぜたまま移行できるという点がメリットです。ただ、性能的な上昇はLTEにくらべあまり無いと思われます。
また、状況が読めないなと思っているのならば、現行のW-CDMA/HSDPAのまま様子見をするのも作戦ではあります。変なところに投資してしまうと取り返しがつきませんから、待つのも作戦のうちです。
で、ドコモはLTEを開発している張本人だということもあり、LTEに積極的です。そして、最近LTE以外の選択肢としてHSPA+がよく話しに上がる事について、不快感を表明したようなのがこの記事です。
まず、「陣営内の足並みを乱すから止めて欲しい」と言っています。ただ、そんな理由じゃ、孫社長や千本会長が方針を変更するとは思えませんが。
また、HSPA+を推進しているのはドコモと並ぶLTE陣営の欧州の大物たる「エリクソン」でもあるのですが(さらには利権上の都合でCDMAを延命させたいクアルコムも間接的に支持している)。
◆HSPA+は投資に値しないというドコモの意見
そのうえで同氏は,「無線技術は,なるべく少ないステップで進化することが好ましい。数多くのステップの存在は,システムを複雑にし,コスト増につながる」と,HSPA拡張版を推進する動きを牽制した。さらに,「HSPA evolutionのもともとの趣旨は,現行システムに最小の変更で済ませるという意味合いがあったはず。もしもHSPA evolutionの導入のために設備の大幅な変更を伴うのであれば,本来の趣旨を逸脱している。NTTドコモはあくまでもLTE導入を優先していく」とし,これまでの同社の姿勢を改めて示した。
一般人にはわかりにくい説明ですが(プロ向けの集会なんでしょうがないのでしょうが)、つまりドコモとしては「HSPA+(HSPA evolution)は経済性に疑問がある」と言っているように思えます。
簡単に説明をすると
・HSPA+のもともとの趣旨:現行システムに最小の変更でさらに高速化する
つまり、現行の設備にちょっとだけ下駄を履かせて高速化可能ならば、それもやってしまった方がいいということだったはずだということです。そういう感じで済むのならお金はかかりませんし。
ですが、現在のHSPA+の話では、基地局側の入れ替えが必要になっていることもあります。そうなると、少しの投資とは言いません。
もしもHSPA evolutionの導入のために設備の大幅な変更を伴うのであれば,本来の趣旨を逸脱している
また、これらの発言には暗黙の前提が一つあります。つまり、LTEではコストをかけるだけに値する性能の進歩があるのに対し、HSPA+ではさしたる実性能の向上が無いということです。おそらくドコモは本当にそう思っているのだと思います。ドコモはLTE開発を行っている張本人ですから、それは実際事実なのでしょう。
私も以前から書いていますが、HSPA+への移行で投資が必要になる場合には、その部分には慎重になる必要があるはずです。LTEが出てきてから無駄な投資になる可能性があるからです。
◆しかしドコモが言及しなかった「HSPA+」の別のメリット
しかし、イーモバイルやソフトバンクがHSPA+を検討しているのには別の理由があります。ドコモはそこには言及しませんでしたが。
ドコモは「基地局設備の入れ替えコスト」だけを問題にしました。しかし、コストやリスクはそこだけではありません。
LTEを開始するためには専用帯域を用意する必要がありますが、それもコストです。LTEにすると基地局の配置場所が第三世代と同じ場所ではうまく働かない可能性があり、基地局の打ちなおしをする必要があることも考えられますが、これもリスクでコストです。新しい端末を用意しなければならないのもコストです。そしてLTE自体が「たいしたことないな」とか「なんですかこの失敗技術は」という場合だった場合もリスクです。
また、なんでも初期においては高くて不安定です。LTEが安価で安定したものになるのにはしばらく待つ方がよいことになります。
つまり、「動かずにしばらく待てる、様子を見られる」というメリットですね。
さらには、現時点において不可避的に3.5世代への設備投資をしばければならない前提で考えると、「いや、今年のこの投資は未来を見据えたものなんです」と株主に説明をするには、「HSPA+を見据えています」という説明をぶっこいておくのが効果的です。LTEが本命といってしまうと、投資の意義が薄れて見えますので。
おそらくHSPA+採用陣営はこれらのリスクを勘案して、LTEを様子見しているのです。よって、ドコモのいう「経済合理性」は一面に過ぎないことになります。また、言い換えれば、HSPA+の採用を言及しているところの本心は複雑かもしれないということにもなります。
もしドコモがHSPA+を根絶やしにしたいのなら、これらの面についても言及した発言をしなければならないでしょう。おそらくドコモからの攻撃はもっと可能なはずですので、これから頑張ってもらいましょう。ただ、ドコモにはそういうのは苦手に思えますが。
しかし、どうやら一部ではHSPA+のスペック上の性能を真にうけているところもあるようでして、そういう場合にはドコモのこのお叱りは意味のあるものになります。HSPA+の主な効果は「見た目のスペックが向上する」ということで、実性能の向上は知れているはずですから。
消費者がアホである事を前提に考えると、HSPA+で見た目の数字だけ下駄を履かせて時間稼ぎはできるような気はします。実際には遅いことに気が付かれないようにしなければなりませんが。
ただ皮肉な事に、HSPA+の導入が一番たやすいのもドコモ(設備が最も高性能なので、少ない追加投資でHSPA+化できる)だったりします。ドコモそのものについてはどっちに転んでも勝者だと思われます。
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