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614 ソフトバンクのあの人が、「iPhoneは無線LANで使って欲しい」/「PC定額は他社の罠」

ソフトバンクの「なんちゃって基地局」のあの人が、iPhoneのトラフィックについて、PC定額をしない件についてインタビューに答えています。


◆「iPhoneは無線LANで使って欲しい」

孫社長の「基地局の数を46000にする」の達成できなかった無茶苦茶目標の遂行を押し付けれて困り果てたことのあるあの人が、iPhoneのトラフィック問題への質問に答えたり、PC定額はしません(したくないです)という発言をなさっています。

3Gネットワークは正直言ってドキドキ--宮川潤一 ソフトバンクモバイル取締役専務執行役CTO(1)
http://www.toyokeizai.net/business/interview/detail/AC/41ae5c76a7018abe6289b53e0351a417/page/1/

インタビュー記事ですね。記事は要点を抜粋して書いている感じです。ソフトバンクにとって難儀な質問についても、結構直球でお答えになっています。

まず、iPhoneが高すぎるといわれている件については、

――データ定額5985円という料金は「ソフトバンクは安い」というイメージから離れているように感じます。

確かに音声中心のユーザーからは高く見えるでしょうが、法人やよく使う人から見れば、ドコモのデータ定額が同じ5985円なので高くは感じないと思います。

携帯電話とは別にパソコンで使うデータカードを契約している法人ユーザーにとっては、むしろアイフォーン一つで事足りるわけで、そうとう安く感じるかもしれません。

高いのか安いのかということについては以前記事にもしました。私の記事でも「ソフトバンクは安い」というイメージからすると相当に高く、さらに一般人的にも高いように思えるはずだと書きました。ただ、スマートフォン方面の事情を知っている人間にとっては安く思えたりする事もある微妙な料金だと。

記者は、世間一般の「高くないですか?」をぶつけていて、答えとしては「従来の状況を解っている人」(「よく使う人」)にとっては高くない」という想定内の答えです。ただ「アイフォーン一つで事足りる」というのはどうかと思いますけどね、ちょっと無理があるように思います(まあ、高いとは言えない立場なのかもしれません)。

ちなみに、この方はソフトバンクで基地局建設のような事をなさっている方なので、この質問自体微妙ではあります。担当者じゃないので。

そして以降は、この人が社内で担当している系の質問になりまして、結構面白いことになっています。記事の記載が各種の話題で入り混じっているので省略したりして引用します。省略部は(省略)で示します。

まず、iPhoneのトラフィックで混雑したりしないですかという質問。

――3Gのネットワークがパンクする心配はないですか。

そりゃ不安ですよ。一機種がもたらす通信量としては莫大(省略)。結論を言えば、アイフォーン導入に向けて準備をしてきたので大丈夫。

「準備してきた」という発言になっています。ただ、iPhoneの発売自体が結構急に決まったはずで、なおかつ基地局の建設はすぐにできることではないので、これはちょっと怪しいです。しかもソフトバンクは最近基地局数を増やしていません。

本音が出ているのはむしろ以下の部分ではないかと思います。

でも、実際の動向を見てみないと正直ドキドキですよ。自宅でWi‐Fi(無線LAN)経由でつないでくれる人が、5%いるのか10%いるのか。ヘビーユーザーが少しでもそうしてくれるとかなり楽になる。発売後2週間は特別体制でネットワークの状況を見続けます。

――無線LAN接続を推奨していく必要がある、と。

僕が管理している投資を削ってでもいいから、アイフォーン購入者には無線LANルーターを1個ずつプレゼントしたいと思っているくらい。自宅ではぜひ無線LANでつないでほしい。You Tubeやナビなどは、3Gネットワークよりもサクサク動きますから。

実際の動向を見てみないと解らないというのは、そりゃそうでしょうね。どんな人が買っているかすら解りませんから。iPhoneをブラウザ的に駆使する人(本来想定されたと思われる使い方)が多数なら、トラフィックはうなぎのぼりになるはずです。

ただ、iPhoneは発売後思ったよりも人気爆発にならなかったので(ネットで慎重意見が溢れているように)、玄人は購入を回避している可能性もあります。

ファッションで買ったミーハー層は、逆に買ってから「使いにくさ」に音を上げているはずで、そうなると通常の端末よりもトラフィックは少ないかもしれません。極端な話、電源を入れない端末は一切通信をしませんから。

ただ、iPhoneがiPhoneらしく使われる前提においては、iPhoneは怪物級のパケット浪費端末ですから、場合によっては大変な事にもなります。ただ、今のところ絶賛している人は少なく、このコースからはそれつつあるように思えます。

販売奨励金の負担が大きい事も含め、ソフトバンクにとっては「iPhoneは適度に失敗する」(本来のターゲット層に拒否られる)方が良いのかもしれません。ネットに溢れる慎重意見、ソフトバンクは内心では歓迎していたりするかもしれません。話題作りはもう成功しましたしね。

で、無線LAN経由で使って欲しくてしょうがないようです。お願いしますから玄人さんは無線LANで使って下さいと仰っています。要するにソフトバンクの基地局側には余裕は無いということのようです。また、

ぜひ無線LANでつないでほしい。You Tubeやナビなどは、3Gネットワークよりもサクサク動きますから。

と、良く言われる「3G接続だと遅い」ということを間接的に認めちゃっているような発言もなさっています。ただ、無線LANで使う前提ならば、iPod Touchで十分なんですけどね。

――無線LAN接続を推奨していく必要がある、と。

僕が管理している投資を削ってでもいいから、アイフォーン購入者には無線LANルーターを1個ずつプレゼントしたいと思っているくらい。

3G側の投資よりも無線LANを無料でバラ撒いた方が投資効果が高いかもという意見です。

ソフトバンクは固定回線もやっているのだし、干渉問題のあるフェムトセルよりも無線LANをばら撒いた方が効果が高いのではないかという件を思い出したりします。例えば、LTEに「無線LANバラ撒き」で対抗するのもありかなと思ってみたりもします。変な対抗策で自滅するよりは。

で、以下では綱渡り感がわかります、苦しそうです。

アイフォーンは、通信キャリアとユーザーさんの共同事業。もし3Gネットワークが集中的に使われるようであれば増強投資が必要になるので、どうしてもサービス対価が上がってくる。僕らとしてもそうした事情をオープンにしたいと思っていて、すでに音声では、ホワイトプランでわかりやすく提示したつもり。「この時間帯はあまり使わないので好き放題しゃべってくれ。この時間帯は重たいので課金させてもらう」と、通信キャリアの構造を説明している。

ユーザーさんとの信頼関係が深くなって、仮に家で無線LAN経由にしてくれる人が半分いたら、料金は半額にできる。ユーザーとキャリアが共存できるような使い方をしてくれたら世の中は変わると思うし、逆にガンガン3Gに負荷を与えられたとしたら、音を上げるかもしれない。

「ガンガン3Gに負荷を与えられたとしたら、音を上げるかもしれない」だそうでして、これは結構本音でしょうね。基地局の予算も無いようなので、本当につらい状況なのではないかと思います。

「iPhoneが割と不評でよかった」と本当は思っているんじゃないかと思えます。


◆PC定額は他社の罠

もう一つ面白い発言が、

ソフトバンクがパソコン用のデータカードをやらない理由は、データカードのパケット負荷が通常の端末の20倍以上あるから。100万枚データカードが出ると、2000万の携帯電話ユーザーと同じくらいのネットワークキャパシティを用意しないといけない。

ライバルが定額料金でデータカードを始めたとき、「ソフトバンクはすぐについてくるはず。そうしたらやつらは崩壊する」と読んでいたらしい。彼らの分析も正しいし(笑)、僕も錯覚はしていない。

PC定額をすると少なくとも20倍以上のトラフィックになるとのことです。一部で実験していた結果のことだと思います。

例えば、中国電力(旧アステル系)がPHSで64K定額を提供していたのですが、これの停波にあたり、期間限定で既存の利用者にソフトバンクでのPC接続定額が期間限定(その後は未定)で提供されるというのがあって、結局期間限定で終わったということがありました。おそらく、商売にならなかったのだと思われます。

元が「64K使い放題」の人たちですから、鬼トラフィック系のユーザでは無いはずです。ですから、マイルドなユーザだけでもこの数字だったのではないかと思います。

100万枚データカードが、2000万人の利用に等しいというのは深刻さをリアルに表現できていますね。社内で説得するのに苦労して作ったたとえ話なのではないかという気もします、たった100万枚くらいのデータカードで、現在のソフトバンクの全トラフィックに匹敵するようなことになりますよ、と。

で、ドコモとAUの(制限だらけの)PC定額提供は、ソフトバンクの自滅を狙う策略だったのではないかという意見です。これも「ソフトバンク社内を説得するために」作った話にも思えますけれども。ちなみに、ソフトバンク社内では、PC定額を開始しろという意見が強くあり、この人が必死で抵抗していたとかですから。


◆予算は無いそうです

予算状況はやっぱり厳しいようです、まあ聞かなくても諸般の状況から明らかですが。

――昨年度より設備投資額を増やさない計画とか。

お客がこんなに増えているにもかかわらず投資はむしろ減らす。知恵を使ってやっています。基地局を作るときも、場所探しの費用や工事・人件費など、ありとあらゆるものを見直した。工事業界などからは恨まれましたが、言われるがままにはしなかった。

僕が社内で言ってきたのは「キャペックス(設備投資金額)をユーザー数で割った数字を通信3社の中でいちばん小さくする」ということ。そうするとドコモの3分の1の投資で作らないとダメなんですよ。ようやく昨年度、その水準になりました。僕ら技術チームは、投入したコストとユーザー数で分析し、社長チームはARPUとユーザー数の掛け算を考える。厳しくても、これをやらなければいつまでもドコモを抜くことができませんから

「ドコモを抜く」のではなく、「崩壊しない」ようにするのが本当のところに思えます。ちなみに、三分の一というのは簡単な話で、ユーザ数がそれくらい少ないというだけのことです。また、「ドコモと同等の品質ではなくて」三分の一というのもまた事実。

お金が無くて設備がギリギリで、第二世代の巻き取りもあり、次世代もおしよせてくるという死にそうな状況のはずですから、仕方ないところもあるでしょうが。

そして、

――ARPUを引き上げるのがソフトバンクの課題です。

一概には言えないんですよ。ライトユーザーからの収入は確かに少ないですが、ネットワークの負荷がかからないため、そのARPUでも十分に成り立つ。要はバランスなんですよ

「使わないユーザ」相手の商売でもいいんじゃないですかとのことです。設備担当側からの「設備に負担をかけないで設ける方法を考えてくれ」という要望にも思えますが。

ちなみに、ドコモはこの面においても有利でして、ドコモの携帯はとりあえず契約して持っているけれども、ほとんど使わずにそれなりの料金を払いつづける人たちが沢山居ます、IT音痴系の古い人たちのことですが。また、この人たちがキャリアを移動する可能性も低いわけです。

また、iPhoneの獲得は実利的では無い面があって、獲得そのものの象徴的な価値が大きいことも認められています、

ヘビーユーザーや企業経営者などのオピニオンリーダー的なお客さんがソフトバンクにはまだ少ないですから、そういう人たちを呼び込むにはアイフォーンはいい武器なんです。PCのデータカードは反対するが、これは質が違う。

それに他社がやった場合に、いったいユーザーはどう感じるか。もしドコモにアイフォーンを取られたら、それをきっかけにソフトバンクが今まで作り上げてきたものが全部ひっくり返されるおそれもあった。これは何が何でもソフトバンクがやるしかなかった。

悪い言い方をすると、自転車ないしは「風頼み」だからこそ、獲得したくないけれど獲得しないわけには行かなかったといことになります。

ということはやっぱり「iPhoneが割と不評」な状況は、ソフトバンクには有難い状況かもしれません。大好評では無い限り、トラフィックの爆発は起きませんから。

ただ、2ギガヘルツ帯の周波数で携帯事業をやっている身としては、データ通信量の大きい端末をこれ以上、詰め込むのはもう厳しい。ほかの帯域を使えるようになれば状況は変わりますが、現状ではアイフォーンを最後にしてほしい。

とりあえず、設備的には半泣きの状況ではあるようです。大変そうです。

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コメント

アッアー、やっぱり泥沼?
中の人におかれましては、孫社長以外の皆様の心中お察し申しあげます。

今後はSBMの端末全部に無線LAN乗っけたらどうでしょう。他社より無駄に高いしコスト増にはならないでしょう。データARPUを捨てれば楽になると思います。

それで「数だけなら」ドコモを追い抜くことができるはずです。儲けは地の底です。
でも投資家さえ「期待値」を煽り続けさせれればこの会社は潰れんのですから。

投稿: TT | 2008/07/27 00:03

アッカ、イー・アクセスと業務提携でイー・アクセスの子会社に
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/22682.html

2.5G帯騒動、そしてそのあとの株主バトルを経て、今回の件。どういった流れなんだろうか。

そして例の、アッカの「無線LAN勝負」に千本会長がアホか!を突きつけるのか、
アッカGOGOGO! を爆走するのか・・・。レース始まったな・・・といったところでしょうか。

投稿: TT | 2008/07/31 22:50

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