647 「次世代PHSは100Mbps以上」は誇張でもあり、控えめでもある
しばらく更新がとまっておりました。
溜まっているネタをどう処理したものかというところですが、まずはウィルコムの例の発表会から、次世代PHSについての発表に関連した記事を書きたいと思います。
◆WILLCOM CORE
次世代PHSのウィルコムでの名前が決まって発表されました。「WILLCOM CORE」だそうです。COREとは「Communication Of Revolution & Evolution」だそうですが、これは略語を考えてから逆に考えたのでしょう、今風のネーミング方法ではない気もしますが。
よって、
・技術の名前は次世代PHSないしはXGP
・それを使って行われるサービスの名前はWILLCOM CORE
ということになるようです。一般で使われる場合はこの区別はされないと思います、あるいはWILLCOM COREという名称自体、あまり使われないのではないかという気もしなくはありません。
また、あわせて速度などについての発表もなされています。
「次世代PHS」サービスブランドネームが WILLCOM CORE に決定
http://www.willcom-inc.com/ja/corporate/press/2008/05/26/index_02.html
発表には、目標とするシステムスペックに付いての記載があります。
・速度:上下100Mbps以上(さらに数倍を目指す)
・モビリティ:時速300km以上で利用可能(新幹線で利用可能)
・実効速度が出る(混雑で簡単に速度低下したりしない)
というわけで、これまでになく「派手な発表」がなされています。ウィルコムもとうとう「プレゼン競争」に参加したようです。
◆100Mbpsの意味
おそらくはサービスイン直後の速度と「100Mbps」から受ける印象は結構違ったものになるはずでして、そういう意味では誇張のなされた数字であるともいえます。これまでに使われていた「20Mbps以上」ですら、正直なところ実際の利用で感じる速度とは違うものだろうからです。
しかし、こういう速度の発表についての数字が無意味に派手になっているのは以前の記事に書いたとおり、他陣営(LTEやモバイルWiMAX)の方が派手(酷い)です。
その関係についてはこれまで何回も記事を書いていますが、LTEについて最近書いた記事は、
「LTEが250Mbpsを出しました」は実はそれほど凄くない
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/04/701_lte250mbps_f4e9.html
「通信技術の競争というよりも、プレゼン技術の競争」というのが現在の速度競争の真相だと思われます。
次世代PHSはこれまであまりインフレさせた発表は行っていなかったのですが、今回は他陣営と同じような事をしたようです。では、同じく今回の発表について算数考察を行ってみることにします。
まず記事中には※付きで以下のようにあります。
30MHz(全帯域)×2(MIMO)使用した場合の最大伝送速度。サービス開始当初の速度は別途検討中。
ウィルコムには現在20MHzしか割り当てがありません。残りの10MHzは2015?年までは封印されます。またそもそも、サービスイン当初は、10MHz幅でのサービスを行う事になっています。またMIMOブーストも行われているようです。
まずはサービスイン当初の予想されるものを書いてみましょう。速度は実効速度ではなくてスペックということで。
・10MHz幅(上下兼用)
・MIMOなし
・最大20(~30)Mbps
これに算数考察を行ってみたいと思います。まずは30MHz幅にします。幅を三倍にすると三倍以上になるので、ここで括弧を外します。
・30MHz幅(上下兼用)
・MIMOなし
・最大60~90Mbps
さらにMIMOブーストをします。良心的なことにx2のみになっています。LTEなんかはほぼ常に4x4でのプレゼンがなされているのにです。
・30MHz幅(上下兼用)
・2x2 MIMO
・最大120~180Mbps
ウィルコムがプレゼンで「100Mbps以上」と言っている状態を(算数で)計算するとこういう感じになりました。まあ、確かに100Mbps以上です。参考までに他陣営なら臆面もなく用いているであろう4x4 MIMOを用いてみると、
・30MHz幅(上下兼用)
・4x4 MIMO
・最大240~360Mbps
となります。実は「100Mbps以上」という発表は、控えめでもあるわけです。また「さらに数倍を目指す」というのも、確かに目指す事ができることが解ります。実現の目処が立っているという意味では、何ら問題のない発表であるとも言えます。
◆100Mbpsの微妙な意味
ウィルコムが「100Mbps」という数字を用いたのには二つの側面があると思います。
まずは、他陣営のプレゼン競争の中、次世代PHSだけがいわば(結果的に)過少申告になっている状態を止めようと考えた事と、実際にサービスインした際の速度とプレゼンとの乖離を最小限にしたいという数字ではないかと思います。
まず、数字が三桁に到達することには、一般人にとっての心象に大きな影響があります。また、100というのは(一般のイメージでの)光ファイバーの速度でもあります。さらにはモバイルWiMAXで良く出てくる「70Mbps」も超えています。
また100は「最小の三桁の数字」でもあります。あまり調子のよいことを言い過ぎて、サービスイン直後の実際の速度でガッカリされる可能性を一番少なくして、なおかつプレゼンを効果的にしようとしたので「100Mbps」になったのかもしれません。
つまり、「100Mbps」とはサービスイン直後の速度を考えると大げさな速度なのですが、しかし純粋に速度発表競争としてみた場合には控えめであるという数字に思えます。インフレ大爆発な数字にしなかったあたりが、いかにもウィルコムらしいとも言えます。
◆300km/h
また、300km/h以上で利用可能にする事が目標である、という発表もあります。具体的には新幹線での利用を意識した発表です。
現行のPHSでは、そもそも移動時の利用について考慮せずに作られてしまっています。現在のPHSが苦手ながらも移動して使えるのは、後付けで移動時の性能を改良するように努力した結果のものです。よって、PHSが移動が苦手であるというイメージがありますが、これは「移動時の性能が原理的に悪い」というよりも「移動時のことは考えられない形で生まれた」ためです。
次世代PHSでは、PHSを苦しめたこの問題点を最初から無くすように配慮されているはずです。そもそも実現が技術的に難しかったのではなく、考慮されていなかったので苦労しただけのはずですから。
高速移動に対応できるように作られている携帯電話と同種のメカニズムが最初から組み込まれているはずなので、新幹線で携帯電話が使えるのと同様程度には使えるようになるはずです。少なくとも他の3.9世代とは同じ程度の移動性能にはなるのではないでしょうか。
◆実効速度が出る
利用者が多くなっても速度が簡単に低下したりしないようにする、とのことであります。つまり、いわゆる「マイクロセル」の特徴を生かすという発表です。他の技術との一番の違いでもあるかもしれません。
マイクロセルというのは、セルが小さいというよりも「基地局同士の電波が干渉しない」という表現の方が適切ではあるのでしょうが、一般向けにはマイクロセルないしは速度が落ちないという表現の方が良いようです。
この点を極めると、固定回線との戦いすら可能ですが、ただし基地局を非常に沢山配置しなければならなくなります。プレゼンでは既存の1000倍の容量が必要だ、というのがあったそうです。
真のモバイルブロードバンドは容量の面でウィルコム有利とは言えど、固定回線相手の戦いとなるとまだ厳しいようです。
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