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632 iPhoneはなぜ高いのか

ソフトバンクからとうとうiPhoneの料金に関する発表がなされました。

その件について少し書いてみます、

また、最初にお断りしておきますが、本記事は発表直後に書いておりますので、もしかするとどこか不正確なことがあるかもしれません。


◆高い?安い?

料金の発表を受けてのリアクションは様々です、素朴なリアクションで一番多いと思えるものは「高すぎる」というものです。ただし逆に「これはとても安い」という意見もあるようでして、もっと高いと思っていた人にとっては安かったり、画期的なんだから安いんだよ的意見だったりするようです。

ではまず、発表された料金について書いて、その後にコメントを書きたいと思います。

数字ばっかりでつまんない人も居るかもしれませんが、その後でちゃんとまとめますので、しばしご辛抱ください。

直接の月額料金(以下は全て必須)
・ホワイトプラン 980円
・S!ベーシック 315円
・パケット定額フル 5985円

端末代金の二年ローン
・8GB版 960円/月
・16GB版 1440円/月


その他、以下も必要になるケースは多いのではないかと、
・あんしん保証パック(修理保障) 475円
・Wホワイト 980円

また、以下の注意事項があります。
・S!メールは利用できない
・ホワイト学割対象外
・ただともメール対象外
・USIMが専用のため、他の端末に差し替えて使うことは不可

さらには実際に使い出すと、アップルがネットで提供するサービスへの支払いも事実上不可避になってしまう、というようなこともあるでしょう。

端末の実質負担額と、本来の価格(8GB版で)
・実質負担額(販売奨励金を引いた金額) 960円/月×24月=23040円
・本来の価格 960円+1920円(販売奨励金)/月×24月=69120円

端末の実質負担額と、本来の価格(16GB版で)
・実質負担額(販売奨励金を引いた金額) 1440円/月×24月=34560円
・本来の価格 1440円+1920円(販売奨励金)/月×24月=80640円

ちなみに、二年以内に解約したり機種変更すると、「本来での価格」での毎月の負担が始まります。


◆実質の月負担額は?

まず、「パケット定額」や「S!ベーシック」が必須に入っているのはおかしいんじゃないかと思った人も居ると思いますが、必須です。なしでは契約できません。これがどうしてか(と思えるか)は、後で説明します。

これも実質的に支払い不可避である端末のローンとあわせると、

iPhoneを持つために必要な実質的な毎月の支払い最低額(8GB版の場合)
980円+315円+5985円+960円 = 8240円/月

iPhoneを持つために必要な実質的な毎月の支払い最低額(16GB版の場合)
980円+315円+5985円+1440円 = 8700円/月

この金額を二年間支払う必要があります。また、ホワイト学割などは使えず、音声通話も別料金で加算されます。また、iPhoneを落としたりして壊すことを考えたり(あんしん保証パック:475円)、Wホワイトを利用する場合もあるでしょうし、留守電サービスもあります。

またそもそも、アップルが別途アップル側への支払いもさせようと待ち構えています。とても便利なんだけれど有料、というものがどんどん出てくるはずです。

おそらく、通話料金無視でも月額一万円の二年以上くらいは覚悟しなければならないだろうということになります。


◆高いのか安いのか?

普通の感覚、ないしは「安いソフトバンク」のイメージからすると、これは相当に高いということになります。ソフトバンクは今回の発表に際して、ホワイトプランを適用できますとか、「端末の実質負担額」を強調するなどして安く見せようとしていますが、やっぱり高いわけです。

一方で(私が少し前に記事で書いたように)、状況を事前に知っていて「これはかなり高いはずだ」と覚悟していた人、またはスマートフォンを持つとお金がかかるものだということを知っている人にとっては、思ったよりは安かったようです。

端末の「実質負担額」ですが、「199ドル」「299ドル」というスティーブジョブスの発表から少し高めの感じで設定されました。また、端末自体の価格は結局「7万円弱」という決して安くは無い金額となりました。ただ、買う人は10万円を越えていても買ったと思いますけどね。

端末の原価は相当に安いとされます、言い方は悪いですが安い材料を使って上手に作ってあるとされるためです。アップルが(ゲーム機のように)端末自体で儲ける事を考えない作戦なら、本当に199ドルということもあり得る状況でした。でも、そうではありませんでした。

ただし、この手のものは通常結構な値段がするものでして、「7万円弱」というのは安くは無いにしても非常識に高いわけでもありません。


つまり
・高いはずと思って覚悟していた人には思っていたほど高くなかった
・ソフトバンク=安いのイメージの人には、相当高い金額になってしまった。

積極的に買いたい人にだけアピールする価格設定ですね、計画してそうなったのではなくて、結果的にそうなったのだと思いますけど。

また、おことわりしておきますと、この記事は「高い」と思った人向けに書いています、ですから「安い」と思った人は気を悪くしないようにしてください。この端末、とても欲しい人とそうでない人の落差があるようですから。

また、この金額設定ですが、端末の実質負担額、月額の実質負担額ともに「アメリカでの価格」とほぼ同じです。もしかするとアップルとの契約でがんじがらめになっており、このような料金設定しか出来ない状況なのかもしれません。


◆どうしてパケット定額が必須なのか?

一部の人を大いに落胆させたと思われるのが、パケット定額が必須であることです。ホワイトプランだけで安価に端末だけを手に入れることはこれで出来なくなりました。

これにはいくつか理由が考えられます。まずは、定額をつけずに利用すると一瞬でパケ死する可能性が高いこと、そしてもう一つは、ソフトバンクの懐が厳しいと思われるためです。そして、アップル自身がパケット定額前提で利用される事を望んだ可能性です。

以前の記事に書きましたが、iPhoneは「受動的な閲覧」一般については快適に出来る端末です。端末にはフルブラウザが積まれており、動画や音声などの再生も快適に行えます。このあたりはiPod譲りということになります。そしてそこにW-CDMA/HSDPAの回線がつながっているわけです。

そしておそらくアップルはネット接続のトラフィック制限をするようなことを許容(歓迎)していないはずです。よって、パケットは鬼のように流れるはずです。そもそも、速度の出ないGSM接続のみのiPhoneでも、トラフィックが多い端末だったようですし。

iPhoneは「完全な素人」も買ってしまう端末のはずです。で、本来パケット定額は必ず必要か、ないしはパケ死しないようによっぽど注意して使わないといけない端末です。

「完全な素人」で「良く考えない人」はこういうことをするはずです
・パケット定額は高すぎる、なぜこんなに高い?
・ホワイトプランだけでいいじゃん、高くなったら高くなってから考えればいいや。

先ほど書いたように、iPhoneは超音速でパケ死を招くようなパケット浪費端末です。

「良く考えない人」なのですぐにこういう事になります。
・ちょっと使っただけなのに、どうしてこんな金額の請求なの??先月と同じ使い方しかしてないのに

確実に客が悪いわけですが、販売店の説明が足りなかったとか、お客さんに対する企業の誠意、とかいうことになって面倒な事になる可能性があるわけです。

似たような状況で過去に「3.5世代携帯電話をパソコンにつないでしまって、とんでもない請求がなされた」ということについて、「消費者に対する横暴である」というニュースになっていたことがありました。曰く、

・端末では定額なのに、どうしてパソコンに繋いだだけで巨額の請求になるのか。消費者のことを考えずに儲けすぎではないのか。
・儲かっている携帯電話会社が、弱い消費者をいじめるのはけしからん

この場合も、少なくとも携帯電話会社が悪事をしているように書かれるのはおかしいわけですが、世間がアホならば、それにあわせて商売をしなければならないのも事実かもしれません。

今回、ソフトバンクは「定額を必須」としました。これによって、このような無用なトラブルが発生する可能性は皆無になりました。

あるいはこういうことを理由にして、ソフトバンクはユーザから安定してお金を取る事を合理化できることにもなります。

おそらくiPhoneは「ソフトバンク史上最もパケットを浪費する端末」になるはずです。パケットを大量に流すということは設備に負担をかけるということです。ただでもソフトバンクの設備には余裕が無いわけでして、お金は取れないわ負荷はかかるは、というのは悪夢です。この面からも料金を安くするのは難しいのです。

場合によってはですけれども、ソフトバンクの経営を傾ける可能性すらある端末です。販売奨励金にお金が必要であり、おまけに設備に大きな負担をかける可能性すらあるからです。混雑に巻き込まれるかもしれない既存ユーザにとっても迷惑な存在かもしれません。

というわけでこの料金設定は結果的にソフトバンクにとって「安すぎる」可能性すらあります。

#ユーザにとって高すぎ、キャリアにとって安すぎるとなると最悪の展開です

またもしかすると、アップル側から「パケット定額での提供」を義務つけられていた可能性もあります。つまり、アップル自身が無用なトラブルを避け、(以後に書くように)iPhoneでネットを使わせてアップルへお金を払わせるように仕向けているのかもしれません。


◆アップルガラパゴス

アップルはiPhoneを買ったユーザに、サルのように端末でネットにつなぐことを希望しているような気がします。

結局そうではありませんでしたが、アップルが超低価格で端末を販売すると思われた理由には、端末をとにかく普及させてしまい、「その後」にアップルは儲けようとしているのではないかとも思われていたためです。

というのは、iPhoneは制限無しのフルブラウザを積んではいるものの、iMode的な「囲い込み」を画策しているように思えるためです。

つまり、iPhoneユーザはアップルが管理するネットにつなぐようにさせ、アップルが提供するネット上の(有料)サービスを使わせ、iPhoneで動かすアプリケーションもアップルのウェブサイト経由でのみ手に入れることが出来るようにし、動画も音楽もアップルから提供されるものを使わせるようにし、そこでお金を落とさせて儲けるつもりのようだということです。

よって、iPhoneは従来の意味でのスマートフォンとは言えないのではないかと私は思っています。端末で出来る事がアップルによってかなりコントロールされているためです。

iPhone上で動くフリーウェアを手に入れるだけでも、作者から直接手に入れることは出来ないような状態だからです。

こうなると、ネット接続は定額が必須になっていて、ユーザはサルのようにネットに繋ぐ状況の方がよいわけです。その結果アップルが儲かるからです。たとえ携帯キャリアにとっては大きな負担になろうともです。アップルは携帯キャリアに「私のための土管屋になってくれ」と言っているのかもしれません。

なんとなくこれは不思議な状況でして、日本的なものを壊すということで一部で持ち上げられているはずのiPhoneが、販売奨励金の積極利用の件も含め、「むしろ日本よりも日本的なことをしようとしている」ということになります。

#ただ、アップルの目論見が成功するとは限りません。

しかしながら、こんな事が可能なのは「天下のアップル」だからこそであり、ウインドウズモバイル端末で同じ事をやったらたちまち奈落の底ではないかと思われます。

そうなると、「アップルガラパゴス」ではないと「自由」を標榜するのが、ウインドウズモバイル端末が対抗する方法かもしれません。WILLCOM 03の発表の際に「脱ガラパゴス」というプレゼンがありましたが、iPhoneと03の方向性の違いも、結局はそういうことになるのかもしれません。

#アップルのようにはなれないから、という理由でですけど


◆二台持ち

iPhoneは普通の電話機から良い意味でも悪い意味でも外れてしまっていることが原因で、普通の端末でできることが出来ない、あるいは苦手なことが色々あるようです。

たとえば通話。通話に最適な形をしているかと言えばそうではありません。バッテリの持ちも短く、これも通話に向いていません。

また、メール端末として難があるかもしれません。従来のiPhone/iPodTouchは、一般的な携帯と比べても日本語入力が得意では無いためです。ましてやキーボードを持つ機種(インターネットマシンや03)と比べると明らかにメールは苦手なはずです。よって、メール大好きな人には苦痛な端末かもしれません。
#ただしこの点は、今回投入される新端末で大幅に改良されている可能性もあります

また、ワンセグやおさいふなどの日本的な機能にもほとんど対応していません。例えば携帯の絵文字にもまともに対応していない、というのは場合によっては致命的なはずです。

さらに、他のスマートフォンと比べると「スマートフォンらしい自由さ」にも欠ける端末のようです。

「用意されたコンテンツを受動的に閲覧する」だけならば快適に使える端末なようなのですが。そこから踏み出るとどうも苦手な事が多いようです。


よって、iPhoneへの機種変更は失うものが無視できない場合があることになります。iPhoneで全部事足りる人も居ると思うのですが、万人がそうであるかというと、決してそうではないはずです。

人によっては、二台持ちが必須になってしまうものと思われます(私自身もそうではないかと思っています)。

従来型のスマートフォンとも、普通の携帯電話とも両立しない端末であると考えるのであれば、三台持ちすら必要かもしれません。

あるいは、三台持つくらいのゆとりがある人には、iPhoneは非常に素晴らしい端末だが、それが出来ない人には悩ましい場合も多いというくらい尖がった端末であるということかもしれません。

そこで問題なのは、iPhone自体がそもそも維持費が高いことです。二台持ちはちょっと厳しい感じになります。

念のために書いておくと、これらは別にiPhoneが悪い端末であるということを言いたいのではありません。

ただ、アップルらしい革命的に思い切った取捨選択が、新しい可能性と同時に新しい課題も生んでいるということです。


◆しかし欲しい人にはとても欲しい

そのへんの普通の人(あるいは、その辺の普通につまんない人、私を含む)には、面白そうだけれど買うかと聞かれると困る感じではないかと思います。

ただ、別にiPhoneは市井の人に広く支持される必要は別に無く、一部の人の熱狂によって支えられていてもそれで十分です。

・そもそもiPhoneだけで一台持ちして問題ない人
・iPhoneで苦労しようとも気にしない人、ないしは苦労したい人
・携帯電話の複数持ちの支出があまり気にならない人

市井の多くの人はこれに当てはまらないでしょうけど、買う人は値段なんて関係無しに探してでも買うでしょうし、安くなきゃ買わないような人は安くしても使いにくいと文句を言うだけのような気もします(「普通」の電話の尺度で評価すると)。

「高い」という意見が多い中、一部では「安い」と言われているところを見ると、これで良いのでしょう。そして、「安い」と思えない人には高すぎる贅沢品(二台持ちの携帯は贅沢品です)なのでしょう。

「高い」と思える(おそらく大半の)人には、「安い」という意見がある意味すらわからないはずです。これのどこが安いんだと。でも、「これはかなり安い」と思ってる人も居るんですねえ。

「安い」と思える人は買いましょう。

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コメント

参考になりました。
中古価格の相場もiphoneは多機種より高いですよね

投稿: ぴーしー西谷 | 2013/01/02 23:33

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