654 北米WiMAX:さらに今度は「モバイルWiMAX新会社設立で再合意」だとか
またモバイルWiMAXについて少し書きます。
前回の記事とは反対で、今度は実現?に向けた流れの記事です。
前回:北米WiMAX:今度は「スプリントがLTE陣営の会社に買収される」という噂
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/05/655_wimaxlte_2be4.html
◆モバイルWiMAXの新会社で合意?
そもそもは、スプリントとクリアワイヤがモバイルWiMAXの会社を作る話になっていたのですが、2007年末にその計画が白紙に戻るということがありました。北米の2.5GHz帯はスプリントが全部持っているわけではないので、クリアワイアとの協力が必要なためでしたが、それが白紙に戻るという大事件でした。
ちなみにクリアワイアというのは、以前の記事で書いた、北米でWiMAXを用いて固定回線の代わりのサービスを提供しているところです。モバイル用のサービスはまだ行っていません。
以前の記事:「WiMAXは駄目過ぎる」とアメリカ人が怒っている動画
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/04/693_wimax_1d93.html
そして、クリアワイヤはWiMAX専門の会社だけあってインテル様の手先のような存在でもあります。ここは、成り立ちから言ってWiMAXと生死をともにせざるを得ない組織です。選択肢としては、モバイルWiMAXに手を出すか固定回線の代替の商売に専念するかくらいでしょう。
今回の新しいニュースは、スプリントとクリアワイアの合弁会社の話が、他のいろいろな出資話と合体して復活したかもしれないということです。
超高速無線インターネット接続の合弁会社、インテルなどが出資へ【WSJ】
http://it.nikkei.co.jp/mobile/news/index.aspx?n=RSCDN2930%2007052008
ケーブルテレビ(CATV)、インターネット、半導体の各業界の代表的企業が参加する企業連合が、今日提供されているものよりも、かなり高速なネット接続を携帯電話やノートパソコン向けに提供する新会社に総額32億ドル投資することを、早ければ7日にも発表する。
通信大手スプリント・ネクステル(NYSE:S)、携帯電話業界の先駆者クレイグ・マッコー氏が創業した新興企業クリアワイヤー(Nasdaq:CLWR)が含まれる。出資する大手企業は、CATV最大手のコムキャスト(Nasdaq:CMCSA)と同2位のタイム・ワーナー・ケーブル(NYSE:TWC)、インターネット検索大手グーグル(Nasdaq:GOOG)、半導体最大手インテル(Nasdaq:INTC)など。
誕生する新会社は、コムキャストから10億5000万ドル、インテルから10億ドル、グーグルから5億ドル、タイム・ワーナーから5億5000万ドル、ブライト・ハウスから1億ドルの出資を確保した。クリアワイヤーの社名を引き継ぎ、株式の過半数はスプリントが握る。
「総額32億ドル」とありますが、両社は既にこれまでにもWiMAXにお金を使っています、これはゼロからのお金ではありません。
またどうやら、スプリントはスプリントのモバイルWiMAX部門を切り離して新会社に移動させて、クリアワイヤが存続する形になるのだとか。クリアワイヤといえばインテル様の手下のようなところですから、そこにモバイルWiMAX関連を集約して、いろんなところからお金をかき集める形にするようです。
ただこの話で一番重要な(それがないと全く話すら成り立たない)「帯域の権利」を提供するのはスプリントですので、株式の過半数はスプリントが握り、役員もスプリントが大半を送り込む事になるようです。
お金を出すところは、インテル様以外には、CATVとGoogleといったところのようです。CATVがモバイルに出資したがるのは日本でADSLの会社がモバイルに進出したがるのと同じ理由のはずです。日本と同じく、ちょっと危ういところもある傾向のはずです。Googleはたしか、クリアワイヤ自体にも同じくらいの金額を出資していたはずです。
みなさんもそう思われたと思いますが、いかにも素人ウケする要素満載なので(あの「WiMAX」ですし、Googleですし、インテルですし)スプリントやクリアワイヤの株価は上昇中のようです。
ちなみに、2007年末の「合弁会社が白紙に戻る事件」ですが、こういう状態から「やっぱりやめます」という発表が再度なされるというような事件でもありました。もう一回白紙に戻ったらとても面白いのですが。
◆さてどうなるのかしら?
インテルにとって最悪の展開は、スプリントがモバイルWiMAXからの撤退宣言を行って、帯域も他の用途に使うと言い出して2.5GHz帯自体が「消滅」するという展開でした。700MHz帯は既にLTE陣営が占拠しましたので、そうなるとどこでサービスするんだ?ということになります。
つまりインテルにとって一番大事なのは、スプリントがどうこうということではなくて、2.5GHz帯の所有権が敵陣営の手に落ちないということかもしれません。
今回の話が再度白紙に戻ったりしなければ、とりあえず2.5GHz帯はWiMAXには使われる事になります。また帯域の所有権はおそらく新会社のものになるはずです(ですよね?)。
スプリントは新会社と早々にバイバイすることもできるでしょう。素人ウケする会社ですから、株は高く売れるでしょうし。あるいは、新会社を支配下におきつづける事も出来る状態になりました。
スプリントはCDMA2000を採用している事も併せて考えると、「KDDI化した」と思えなくもありません。
いろいろ困った事になってしまっているスプリントの立場で考えると、自社に残された最大のカードは「2.5GHz帯の権利を持っている」ということでした。これを有効活用することがまず求められました。当初の計画のとおりモバイルWiMAXをするにしても、他の方式に寝返るにしても、帯域を売り飛ばすにしても。
ただしちょっと難しいのは、自前で全米全部の帯域を持っているわけではないことでした。寝返ろうとしてもそこが問題になったと思います。インテルが「2.5GHz帯の大半を獲得した奴がインテルを裏切れないように」一部の地域の帯域を自分の手下に獲得させていたとしたら、それは非常に効果的だったということになるかもしれません。
結果この話は、スプリントにとってはどちらにも取れるような話になりました。
・当初の計画に近い計画(KDDI的にお金を薄めただけ)を実行しているようにも見える
・回りくどい形で帯域を売り飛ばしたとも見なせる
もしスプリントがモバイルWiMAXに大きな希望を見出しているのならば、クリアワイヤとスプリントだけで新会社を作るべきです。資金が致命的に無いわけではありませんから(だと思うんですが・・)、よそ者を混ぜても話がややこしくなるだけだからです。むしろクリアワイヤすら邪魔です。
しかし、今回の話では総務省からの横槍で泣く泣く「薄めた会社」を作ったKDDIのようなことを「自ら」行っています。スプリントが経営建て直しに当たってモバイルWiMAXが良い選択肢だと持っているのならば、モバイルWiMAXに「集中」をしたと思うのですが、結果から見ると薄めています。
よってもしかするとこれは、スプリントによるモバイルWiMAX処分市ということなんじゃないかとも思えてきます。
ただスプリントからすると、案外と成功しそうだったらそのままモバイルWiMAXに乗っかる、やっぱり不味そうだったら、それが世間にばれる前に株を処分できるようになった、といったところではないでしょうか。そして、幸いにしてこの手の話にうっかりお金を出してくれるところは沢山ありそうですしね。
また、これを処分市であると判断した場合には、Tモバイルに買収されるという話との整合性も取れる可能性があります。面倒なものを処分してLTE陣営に参加する、と。ただし、TモバイルはLTE陣営でモバイルWiMAXを評価していないという前提での想像ですけれども。
最後に念を押して起きますと、スプリントがモバイルWiMAXに本気の本気だということも当然考えられる事ですのでご注意ください。この記事はそれ以外の可能性について考えてみた記事です。
◆日本への影響
北米のモバイルWiMAXがご破算にならないならば、日本への影響もあります。
北米が完全に陥落した場合、モバイルWiMAXは「極東の海っぽいところの固有種」になっていた可能性がありました。その可能性は少し遠のき、少なくともCDMA2000くらいの固有種に前進する話かもしれません。
各種量産効果も見込めるようになるかもしれません。これは意外にもモバイルWiMAXよりも、ハードウェア的に共通のものを用いることが多い次世代PHSにも朗報となる可能性があります。そして、「サービスインしたけれどモバイルWiMAXは実に酷かった」という場合のモバイルWiMAX生態系の跡地に、次世代PHSが入り込む可能性もできることになります(ただ次世代PHSに楽観的な予想をした場合の話です、と念を押しておくことにする)。
また、「LTE完全一色の世界」は少し遠のいたということかもしれません。「LTE完全一色」は少なくとも私にとっては退屈な未来ですので、どんどん遠のいていただきたいところです。
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コメント
「LTE完全一色の世界」阻止のためにもXGPのためにもモバイルWiMAXにはダラダラとした延命治療を施し続けて欲しいものです(笑)
さて極東ですが
中華人民WiMAX禁止帝国では今が、高速データ通信の立ち上がりの時期。
国策の中華3Gがこけた場合、データ通信の本命となるのはどれなんでしょうか?
・小霊通(PHS)
・GSM→W-CDMA 正調な移行
・間に合ったLTE
投稿: TT | 2008/05/10 19:46