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704 とうとうKDDIもLTE陣営に寝返る (という報道)

KDDIがLTEを採用するという報道がありました。


◆という報道

KDDIが(KDDIも)LTE陣営に寝返りました、という報道がなされました。

KDDI、「LTE」採用でドコモなどに合流検討
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0804/01/news055.html

一応注意すべき点は、「KDDIからは一切何の発表も無い」ということですね。あちこちから報道はされていますが、結果としてはガセかもしれませんから皆さんご注意下さい。この種の誤報は何度かありますから。

世間的には驚きの事実でもあったようですが、このブログをずっと読んでおられる方にとっては想定どおりの流れだったのではないかと思います。

#驚いた方も2007年末あたりから読んでいただけると、なるほどということになると思います。

例えば、以下の記事にはそのあたりのことがすっかり書いてあります。

2.5Ghzシリーズ:KDDIはモバイルWiMAXと、LTEとUMBを天秤にかける
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/01/769_25ghzkddiwi_cf3c.html

迷子のCDMA2000陣営(含むKDDI/au)
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/01/765_cdma2000kdd_339e.html

CDMA2000陣営で最大だったアメリカのベライゾンが2007年末にLTEに寝返るという大事件がありまして(これが決定的でした)、同じくアメリカのCDMA2000陣営だったスプリントは次世代うんぬん以前の状態になってしまっており、クアルコムのUMBは怪しい感じになってきておりました。UMBが技術的に云々ではなくて、みんながLTEを採用するからLTEという流れで。

予想外なことがあるとすれば「LTEに寝返ることがもう発表されてしまった」ということでしょうか。というのは、KDDIにとって望ましい戦略と思われるのは「牛歩(次世代技術をどれにするか態度保留のままにする)」であるように思えるためです。

KDDIからの正式発表はないので、本音としては(今のところ)LTEに寝返るつもりでいるのだけれども、表面上は態度未定を続けるということかもしれません。報道は「KDDIの意図しないもの」であるとすれば納得は行きます。


◆再度、KDDIのポジション

ドコモは「LTEを作っている張本人(の一人)」なので、LTEを採用するも何もありません。ドコモ自身がLTEである、とでも言うべき状況です。

ソフトバンクとイーモバイルについてはW-CDMA陣営で、現在W-CDMAとHSDPAの組み合わせ(に移行中)です。よって将来の選択肢は「主に」以下のとおりです。

・HSPAの進化版を採用して、W-CDMA/HSPAのまま高速化する
・W-CDMA/HSPAに加えて、LTEを採用する
(・W-CDMA/HSPAにモバイルWiMAXを組み合わせる)

もっと驚くような作戦も考えられますし、そういう驚愕の逆転戦略を打ち出す可能性があるかもしれない二社ですが、普通に考えられるのは以上でしょう。そして、三つ目は前の二つよりも可能性が低いので括弧でくくりました。というのは、2.5GhzをKDDIに取られたためです。

ちなみに、KDDIが寝返ったという報道で、「携帯四社が全てLTEを採用する事に決まった」という報道もありましたが、LTEを(少なくとも初期段階では)スルーする場合も考えられるので、今のところなんともです。

KDDIについては、次世代をどうするか難しい状況になっています。また、どの選択肢を取るにせよ移行が他社よりも面倒な状況になっています。しかし、他社よりも複数の選択肢がある状況です。また、CDMA2000の序盤有利で築いたリードはまだ残っています。

・クアルコムの計画の通りUMBに移行する
・LTEに乗り換える
・モバイルWiMAXに頼る

困った事にUMBへの乗り換えは諸般の事情で超簡単というわけには行かないようですが、クアルコムの作った次世代技術ですからCDMA2000からの乗り換えには配慮されています。

LTEへの乗り換えは他陣営への乗り換えになってしまうのですが、ベライゾンが既に乗換えを表明していて相乗りが出来る事と、そもそもクアルコムからCDMA2000とLTEの両対応チップが出ているような状態で、乗り換えのパスは既にあります。

モバイルWiMAXについては、KDDIは2.5Ghzの帯域を確保しています。KDDIが当初期待した(と予想される)ように、モバイルWiMAXは現在のところ素晴らしい技術ではありませんでした。しかし、モバイルWiMAXが今後化ける可能性もなきにしもあらずで(実際「改良版」は計画されている)、LTEが登場してみると「駄目じゃん」で相対的に価値が上がる可能性もなきにしもあらず。

LTEに移行するのが当たりくじの可能性が一番高いと思いますが、別に今決める必要は無いわけです。モバイルWiMAXは入れ込みすぎないように整備しつつ、例えば

・流れがLTEならばベライゾンの真似をしてLTEに乗り換え、子会社ごとモバイルWiMAXは捨てる
・モバイルWiMAXが大化けしたら、モバイルWiMAXに本腰を入れる
・LTEが大失敗してモバイルWiMAXも駄目なままなら、他社がLTEの失敗に苦しむ中、クアルコムのUMBを採用して脱出する

KDDIはLTEでの競争で最初に先頭に立つのは大変な状況です。なぜならCDMA2000陣営なので、移行の苦しみがあるためです。しかし、他社にはない態度保留の権利があります。

他社はLTEを採用するかHSPAで粘るかしか選択できないわけですから(あるいは2GhzTDD帯をゲットして奇手を打つことを考えるか)。

また、モバイルWiMAXに入れ込みすぎ+経営ピンチでどうしようもなくなっているアメリカのスプリントと違い、KDDIはモバイルWiMAXには距離を持って接していますし、お金にも余裕があります。また現行世代のインフラの整備は一通り完了していて、じっとしている分には(そんなに)お金はかかりません。


◆CDMA2000とLTE

LTEですけれども、3.9世代と言われたりするので、第3世代携帯の直系の子孫であると思われている事もあるようですが、実のところ全然違う技術です。むしろ、「第4世代の初期バージョン」と思った方が良い代物です。そもそも、通信方式が第三世代とは根本的に異なっています。

ですので、W-CDMA陣営の技術は以下のように区分して考えた方が良いでしょう。なんか分類が変ですが気にしないていただくとして、

・第二世代:GSM/PDC
・第三世代:W-CDMA/HSDPA/HSPA/HSPA+
・およそ第四世代:LTE

LTEはモバイルWiMAXや次世代PHSとは類似の技術ですが、W-CDMAとは類似の通信技術ではありません。

つまり、W-CDMA陣営も実は「LTEで全然違う技術に移行しようとしている」のです。ただ、移行に際して面倒が起きたり混乱が起きたりしないようによく考えてある、というだけのことです。

移行する場合には、部分的にW-CDMAの電波を止めるか新しい帯域を用意して、LTEの電波を出す事になります。

ですからLTEは別にW-CDMAの存在を前提にする必要すらなくて、GSMのみのキャリアが(日本には居ませんが)第三世代を完全スルーして、GSM→GSM+LTEに移行する事だってできます。

#第三世代の完全スルーは世界的に結構流行るかもしれません

CDMA2000陣営がLTEに移行しにくいのは、通信技術が異なるからではなくて、「移行に際しての配慮が結果的に十分でない(だって他陣営ですから)」という理由によります。

また、同じくCDMA2000陣営はLTEへの移行に際して、W-CDMAを併せて採用する必要はありません。CDMA2000陣営は、単に以下のように移行するだけのはずです。

・CDMA2000+EV-DO → CDMA2000+EV-DO+LTE

よって、KDDIはLTEを採用する=W-CDMAを採用するという解釈がありますけども、それはおそらく間違いです。なぜならLTEだけ採用できるからです。


◆クアルコムのチップがそもそもLTE対応

これも以前に書いた記事なのですが、そもそもクアルコム自身がLTE対応のチップを作っています。

クアルコムがUMTS/HSPA+/EV-DO Rev. B/UMB/LTEに対応したチップセットの出荷予定
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/02/736_20ghzumtshs_ed71.html

・MDM9200 UMTS/HSPA+/LTEをサポート
・MDM9800 EV-DO Rev. B/UMB/LTEをサポート
・MDM9600 UMTS/HSPA+/EV-DO Rev. B/UMB/LTEをサポート

一つ目はW-CDMA陣営に売るためのチップです。二つ目は、ベライゾン(やKDDI)に売るためのチップ(CDMA2000+EV-DO+LTE)です。三つ目は「全部入り」ですね。

UMBとLTEの組み合わせ方がなんとも悲しい感じはします。UMBを本当は使って欲しいんでしょうね。

つまりこのチップを使って電話機を作れば、普通にCDMA2000+EV-DO+LTEな電話機は作れるということになります。

クアルコムはモバイルWiMAXとは喧嘩をしていますが(過去の記事参照のこと)、W-CDMA陣営とはずっと商売としていますし(そもそも上記の最初のチップはW-CDMA陣営用のものです)、LTEとも関わっています。CDMA2000と違って絶対的な主役ではないだけで。


◆CDMA2000とKDDI

KDDIがクアルコムの技術を採用する事になったのは、KDDI自身の意思によるものではないという話を聞いた事もあります。しかし、結果的に現在のKDDI(AU)の地位があるのはクアルコムの技術力によるものです。

最初から問題なく動作したCDMA2000に対し、初期FOMAはどうしようもない状態が続きました。

AUはFOMAの苦境をよそにCDMA2000の好調を反映して快進撃をはじめ、FOMAが初期の混乱をまだ収拾できないうちに、3.5世代(EV-DO)への移行に成功します(「WIN」が始まった時です)。

AUは3.5世代でなければサービスが難しいパケット定額や着歌などを開始して、快進撃を続けます。FOMAはまだ混乱したままで、ボーダフォン(今のソフトバンク)は第三世代への移行そのものにしくじります。

ところがドコモはその後、ものすごい資金を使ってFOMAをすっかり建て直し(鬼のように基地局を建設するなど)、ここへ来てとうとう巻き返しに成功します。ソフトバンクはまったく別の方法で身を削っての巻き返しに成功します。

ここしばらくはAUは他社の巻き返しをまともに食らっている最中で、なおかつ次世代をどうするかはっきりしない状態にあります。ただし、まだ余裕は残っています。

AUは好調な時代に余計な事をせずにお金を貯め(というか山のようにあった借金をせっせと減らし)、ドコモとの技術の差異が現在のリードを生んだという教訓からかモバイルWiMAXに手を出します。しかし、クアルコムの次世代は面倒な感じになり、モバイルWiMAXも難儀な感じになってしまったのが現状です。お金についてはあるはずですが。

KDDIがLTEを採用するとなると、それは「ドコモと同じ」ということになります。CDMA2000採用後からの大逆転のようなことは発生しにくくなる反面、ドコモから大きく離されることも起こりにくくなるでしょう(もちろん別のファクターを無視してですが)。

KDDIのLTE採用は、KDDIを「永遠の二位」にするんじゃないかなとも思います。

四社ともにLTEを採用するということはそういうことにも思えます。

LTEを脅かす技術が現われない限り、あるいはLTEが大失敗しない限りは、ドコモの一位は当面揺らがない状況になった可能性が高いようにも思います。面白くないですね。

モバイルWiMAXは頼りないですし、TD-SCDMAは籠の中で飼われているだけですし、UMBは採用するところがなさそうですし、802.20を採用するところはなさそうです。インテル様の道楽は失敗、クアルコム様の超技術は出る幕無しということになると、残るは次世代PHSとウィルコムの組み合わせだけが残りますが・・・

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