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701 「LTEが250Mbpsを出しました」は実はそれほど凄くない

しばらく前にドコモが「LTEで250Mbpsを出しました」という発表をしていましたが、その件に関して記事を書きます。


◆以前に書いたとおり、速度発表競争にはさほどの意味は無い

以前こういう記事を書いていました。

モバイルWiMAXやSuper3G/3.9世代/LTE関係のニュースで注意すべき点(復習)
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/02/732_wimaxsuper3_1c54.html

モバイルWiMAXやLTEなどで、時々「こんな凄い速度が出ました」という発表がされることがあります。

しかし、実際のところそういうニュースで出てくる数字は、サービスインした時に実際に出る速度とはほぼ無関係な数字になっています。また、モバイルWiMAXもLTEも次世代PHSも、スペック上の最高速度の面については、本来的に似たようなものであるということを書きました。

今回の記事では、しばらく前のドコモが250Mbpsを出したという発表について、この数字が実際にどれほどのものか一度考えてみる事にします。

以下、説明としては「相当に適当」になりますが、小学生でも計算できるレベル(算数)で考えてみることにします。以下はあくまでも非常にざっくりした話である事はお忘れなく。


◆どういう条件でなのかを一度整理する

NTTドコモ,Super 3G(LTE)の屋外実験にて250Mビット/秒を達成
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080326/297182/

まとめると以下のようになります。

・通信方式はLTE(Super3Gや3.9世代とも言われているもの)
・20MHz幅×2(上下あわせて40MHz幅の帯域利用)
・理論値は300Mbps
・実測値は250Mbps(理論値の83%)
・4x4MIMO

まず、理論値の83%というのがどうも怪しい数字です。

どれくらい怪しいか例を出しましょう。イーモバイルの理論値は7.2Mbpsですが、その83%は6Mbpsにもなってしまいます。同じく、HSDPAの理論値14.4Mbps(むしろこちらの方が良いでしょう)の83%は、12Mbpsとなります。実際の利用環境とはかなり違う状態での数値である事が疑われます。

そこで以後の考察では「300Mbps」の方の数値で考えてゆく事にします。300Mbpsはどうなんだというところもありましょうけれども、記事中に出てくる数字をそのまま用います。

帯域幅は現行のLTEの「贅沢の限界」まで広げてあります。
・下り(基地局→端末)に20MHz幅
・上がり(端末→基地局)に20MHz幅
20Mhz幅×2というのは、ドコモのFOMA用の2GHz帯全部にも相当します。当面の間は20MHz幅でのサービスインは難しいと考えられ、頑張って10MHz幅か5MHz幅でのサービスインがせいぜいのところでしょう。

「4x4MIMO」というのは基地局と端末の間の通信を「最大で4重化」する技術を使うということです。現在のところ、携帯電話でMIMOを利用するのは難しい状況なので、当面はMIMOなしでサービスインすると考えるべき状況です。

次に順番にこれらのインフレ要因を剥がしてゆく事にします。


◆4x4MIMO

「MIMO」というのは、基地局と端末の間の通信経路を増やすとでも言うような方法です。

現在普通に使われている携帯電話では、基地局と端末の間に一つの通信経路があり、これで通信をします。これを「道が一本」あるようなものだと思ってください。するとMIMOとは道を何本かに増やすような方法になります。

例えば、携帯端末にそれぞれ全く違う電波の受け方をする(違った個性をもつ)アンテナを複数つけると、アンテナごとに基地局との通信経路(電波が飛ぶ道)が全然違う状態が発生する事があります。二つのアンテナの電波が全く違う経路を通り、それぞれが完全に独立して基地局に到達しているとすれば、道が二本に増えたとでも言えるような状態です。

4x4MIMOというのは、道を最大で4本に増やそうとしているハードウェアで通信する事だと思ってください。また、「最大で4本になりうる」というだけで、常に4本になるわけではない点にも注意しましょう(おそらく「ならない」方がほとんど)。

MIMOは別にLTEだけに限らず、他の通信方法でも用いる事が出来ます。モバイルWiMAXや次世代PHS(XGP)でもMIMOは採用される見通しですし、現行の第三世代でもMIMOの利用が検討されています。

MIMOには色々面倒があり、実用的に利用できるのかどうか怪しい点もあります。

4x4MIMOでは「最大で4本の道」ですから、算数レベルでの考察ということで、素直に300Mbpsを4で割ってしまう事にしましょう。どうせ概算ですし、引き続いて行う計算で打ち消されるとおもって今は気にしない事にしましょう。

300Mbps÷4=75Mbps


◆75Mbpsという数値に似た数字

「75Mbps」に似た数字がこれまで頻繁に登場していた事があります。WiMAXバブルを牽引した「WiMAXは光ファイバー並みの70Mbpsを出す事が出来」の70Mbpsです。

その話での固定WiMAXが70Mbpsを出すという話(この話が出てくるときには大抵モバイルWiMAXと混同の極みでしたが)、WiMAXの最大幅の「20Mbps幅」での最高速度です。

・LTEの怪しい概算:75Mbps(下り20MHz幅)
・固定WiMAX:70Mbps(上下20MHz幅)

似た数字になってしまいました。しかもモバイルWiMAXは「上下」でです。


◆10Mhz幅にしてみる

20MHz幅でのサービスインの話は今のところ無いので、10Mhz幅にしてみる事にします。帯域幅を半分にすると、実際には速度は半分以下に落ちますが、最初から算数ですからそのまま二で割ってしまう事にします。

300Mbps÷4÷2=37.5Mbps

そして、ここでいう「300Mbps」の数値に相当する数値を他方式から持ってくることにします。

・LTEの怪しい概算:37.5Mbps(下り10MHz幅)
・モバイルWiMAX:30Mbpsちょっと上(上下で10MHz幅)
・次世代PHS(XGP):30Mbpsちょっと下(上下で10MHz幅)

まず、LTEだけが下りだけで10MHz幅(上下で20MHz幅)になっています。他の2方式は上下で10MHz幅で、消費する電波資源は半分です。上記は下りの速度ですが、次世代PHSは「上がりの速度」で勝ります。

結局、三方式ともに「似たような数字」になっている点に注意してください。類似の通信技術なので、結局のところ理屈上の最高速度も同じような数字になってしまっているのです。

「実際の利用環境で安定して利用できるか」という点については三方式は相当に違いがあると思われますが、このような数字にはその違いは出てきません。


◆5Mhz幅にしてみる

引き続いて調子に乗って5MHz幅にしてみることにしましょう。

300Mbps÷4÷2÷2=18.75Mbps

帯域を四分の一にしたら、速度低下は四分の一では到底すまないので、試しに参考に5で割ったものは以下です。最初からいい加減な算数に過ぎませんから、細かい事をあまり気にしても仕方はないので参考値です。

300Mbps÷4÷2÷2=15Mbps

5Mhz幅といえば、従来のW-CDMAの帯域幅と同じになりました。HSDPAは現在(スペック上は)7.2Mbpsで、理屈の上ではスペックは14.4Mbpsにも出来ることになっています。

LTEの怪しい概算:18.75Mbps(下り5Mhz幅)
HSDPA:14.4Mbps

なんと、これも大きく違わない数字になってしまいました。15Mbpsの方を採用するとなると、ほとんど同じになってしまいます。

LTEになったら画期的に性能がアップする、とか思っていた人も居ると思います。画期的というのは性能が一桁上がるようなイメージだということだとすると、そういう結果は全く期待できないということになります。

同じような数字になるのにはちゃんと理由があって、電波に乗せることの出来る情報量には理論的限界値が存在し(シャノンの定理)、現在の通信方式は十分に進歩したために、最初から理論的限界の天井の近くまできているためです。

夢のない話ですが。


◆まとめ

LTEで光ファイバ並みの速度が出ると思っていたら大変がっかりするには違いないのですが、進歩はしています。

例えば、HSDPAで実測5Mbpsを出すのはちょっと難しいですが、5Mhz幅のLTE(MIMOなし)の場合には5Mbpsは出るのではないかと思います。劇的には速くなりませんが、速くなる事は確実ではあります。

ですが、日本全国のW-CDMAの基地局を大変な苦労をしてLTEに置き換えて可能になることは、(当面は)その程度でしかないということでもあります。ドコモ様にとってはともかく、ソフトバンクモバイルとイーモバイルにとっては困った事実でもあります。

なお、モバイルWiMAXとLTE(ないしは新しい勢力の)の最高速度発表競争が今後もあるかもしれませんが、この記事で示したとおり、結果としては似たような数字のものを「発表の仕方を工夫して派手に見せている」だけのことであり、

通信技術の競争というよりも、プレゼン技術の競争

というのが現在の速度競争の真相だと思われます。

また言い換えれば、将来における本当の勝負のポイントは最高速度ではないと思われます。どこで勝負が決するかはわかりませんが。

LTEは遅延を極端に小さくしていたり、次世代PHSは「他の技術では干渉でエリア設計が崩壊する基地局配置でも平然と動作する」ようになっているであろうとか、そういうことの方がおそらく大事なのではないかと思う次第です。

あるいは単に初期に市場の多数を占めるという事実かもしれませんが・・

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コメント

「100万パワー+100万パワーで200万パワー!!いつもの2倍のジャンプがくわわって200万×2の400万パワーっ!!そしていつもの3倍の回転をくわえれば400万×3の…バッファローマン、おまえをうわまわる1200万パワーだーっ!!」

ウォーズマン理論
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%a5%a6%a5%a9%a1%bc%a5%ba%a5%de%a5%f3%cd%fd%cf%c0

投稿: これを思い出しましたw | 2008/04/20 14:19

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