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700 LTE不採用も選択肢:HSDPAの改良版(HSPA+)は100Mbps近く?まで到達する

さて、次は現在使われている第三世代携帯電話(W-CDMA/HSDPA)が、意外にもかなり高速化できる(スペック上は)ということを書いてみたいと思います。

次世代に移行するだけが選択肢ではないぞという話。

前回の怪しい記事に引き続いての投稿です。

前回の怪しい記事:
「LTEが250Mbpsを出しました」は実はそれほど凄くない
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/04/701_lte250mbps_f4e9.html


◆その前に「現実」の話を

この記事ではインフレ気味の話を書きますので、まず最初にバランスを取るために現実の厳しい側面について書いておきたいと思います。

W-CDMA/HSDPAは、事実上世界標準になっている第三世代携帯の方式です。適当ながらスペックを書くと以下のようになります。
・必要とする帯域:5MHz×2(下り:基地局→端末に5MHz、端末→基地局に5MHz)
・下り最大速度:384Kbps/3.6Mbps/7.2Mbps/14.4Mbps(場合による)

現在利用されている通信方式においては、5Mhz幅×2のペアは広い方です。しかし次世代通信方式は大量に帯域を使う事が多いので、将来に向かっては狭い方ということになりそうです。

速度についてはW-CDMAだけでは384Kとなります。いわゆる3.5世代と呼ばれたりするHSDPAを利用すると、3.6Mbps/7.2Mbps/14.4Mbpsとなります。

普通のHSDPAでは3.6Mbpsです。日本では現在7.2Mbpsの導入が始まっているところです。ただし7.2Mbpsにしても単純に2倍になるという感じではありません。

7.2Mbps化はそれほど苦労しなくても対応できること、利用者は表面上の数字に騙されやすいので商売上の効果があること(○○最速とか銘打っているところが実際ありますね)、そして実際の高速化の効果も割とあるということで7.2Mbps化までは各社の対応が進むのではないかと思います。

問題は次の14.4Mbpsです。これは対応がかなり手間である上に、実際の高速化の効果は知れているようです。そのため、HSDPAは7.2Mbps化で止まり、そのままLTEに進むだろうなんていう話も聞きます。

7.2Mbps化で終わりかもしれない、という現実があるのだと書いた上でインフレの話に進みたいと思います。


◆第三世代だって速度インフレは起こせる

光ファイバー並みだとかいわれている次世代技術ですが、発表されている数値はかなりインフレしていてそのまま真に受けるべきものではないのだということを前回書きました。

たとえば7.2Mbpsという数値は(実際の利用で7.2Mbps近辺の速度なんて絶対出ない、という問題点はありますが)、いわば次世代が使っているインフレのテクニックを使っていないスペックです。

ならば、HSDPAに次世代と同じような速度の水増し(というのは言いすぎか)を行ったらどうなるかというと、実はかなりスペックをあげることが出来てしまいます。

しかも、5Mhz幅×2でです。

それでは以下、ご覧下さい。


◆MIMOを採用する

まず最初に、基本の速度としては「14.4Mbps」を採用する事にします。先ほど7.2Mbpsで現実的には打ち止めではないかという話も書きましたが、以後あっさり無視します。

基本は14.4Mbpsとします。

そしてこれ以降の議論は超適当な内容を含むことを先にお断りしておきます。

MIMOとは前回の記事で実にいい加減に説明した通り、通信端末にアンテナを何本も生やしたりして、(スペック上の)速度を倍増させたりする方法です。

W-CDMAでもMIMOを利用する事は可能で、現実にMIMOの利用はすでに計画されています(HSPA+で)。

2x2MIMOで速度が2倍になったと言い張る事が可能です。よって、

・2x2MIMO化(×2):14.4Mbps×2=28.8Mbps

LTEが速度を誇張する際には、4x4MIMOが出てきます。4x4MIMOなんて実用的なのかどうかとか、×4するのはどうなのかという話はさておいて、

・4x4MIMO化(×4):14.4Mbps×4=57.6bps

かなりの速度になりました。一般の新聞ならば「従来の第三世代携帯でも光ファイバー並みの通信が可能になった」とか書きそうです。

同じ理屈でどんどん数値を増やす事も出来ますが、こういう手品はほどほどのところで止めておくのが無難です。


◆多値変調化

速度を稼ぐ方法は他にもあります。速度が出る変調方法への変更です。

AUは「EV-DO Rev.A」で通信速度を2.4Mbpsから3.1Mbpsに引き上げました。これと同じ方法がHSDPAにも使えます。また念のために書いておくと、EV-DOは「1.25Mhz幅×2」(HSDPAの四分の一の帯域幅)で実現されています。

素のEV-DOでは16QAMという変調方式が用いられていました。これは信号を送る波形を最大16通りのパターンにして情報を送信する方式で、16通りですので一つの信号で4ビットの情報を送る事が出来ます。

EV-DO Rev.Aではこれが最大64QAMになりました。64QAMでは最大6ビットの情報を送る事が出来ます。

HSDPAは現在16QAMを用いています。ですから、同じように64QAM化して高速化する余地があります。

算数レベルでは、
・4ビット→6ビット:つまり1.5倍の情報が送信可能
となります。

実際のAU(EV-DO)の速度向上を見てみると
・2.4Mbps→3.1Mbps:およそ1.3倍
というわけで、1.3倍くらいは高速化できそうだ、と言える根拠は出来ました。


◆最終的な計算

全部組み合わせてみる事にします。

・14.4Mbps×4×1.5=86.4Mbps

ほぼインチキですが、100Mbpsの一歩手前まで来る事が出来ました。もうちょっとで大台に乗っていないのが実に残念です。ウィルコムの800kbpsと同じくらいに残念です。

これ(86.4)をさらに四捨五入に及ぶと。
・およそ90Mbps
これを伝言ゲームすると「ほぼ100Mbps」ということになるかもしれません。よかったよかった。

なお、×1.3と×4を使って計算すると
・14.4Mbps×4×1.3=74.9Mbps

×1.5と×2を使って計算すると
・14.4Mbps×2×1.5=43.2Mbps

×1.3と×2を使って計算すると
・14.4Mbps×2×1.3=37.4Mbps

以上、「算数」を駆使することによって、HSPA+でもそれなりのスペックにできるということが解りました。

MIMOが派手にスペックを稼ぐのにとても便利であるのもよく解ります。実際、次世代技術の常套手段です。

念のために書いておくと、以上の考察は不正確極まりないので、結構スペックを稼げるんだな、と理解した時点でこれまでのことはすっかり忘れてください。


◆LTEに対する優位点

HSPA+はそれなりの速度(スペック上は)を実現する事ができます。また、LTEにしたところで(LTE用に広い帯域幅を用意するのでなければ)、超絶な速度の向上が見込まれるわけでもありません。

LTEをサービスインするには
・LTE用の新帯域を用意する(帯域幅が広くないと真価は発揮されない)
・または既存の第三世代の帯域を空けて電波を止める
・基地局を整備し、端末を用意する。
・新帯域・新基地局と、旧端末は通信できない

つまり、第二世代から第三世代への乗り換えと部分的に同じ事をしなければなりません。違う点は、PDCとW-CDMA両対応の端末が存在しなかったのに対し、W-CDMA/HSPAとLTEに両対応した端末があるとだろう点です。移行はちょっと大変です。

HSPA+ならば、
・新帯域を用意する必要が無い
・既存の通信方式の電波と混ぜて使う事も出来る。
・基地局は新旧混合で次第に置き換わってゆくこともできる
・旧型の端末と新型基地局は通信できるので、端末の置き換えも次第に進められる

初期のLTEを積極的に様子見するのも選択肢としては考えられる、ということです。スペック上の速度が見劣りして困る点についてもHSPA+である程度は対策可能ですから。またそもそも、無茶苦茶な速度は実際の利用ではあまり必要になりませんから、利用者が不便を感じる事も少ないでしょう。

例えば、ソフトバンクやイーモバイルはこうやってLTEが「安くて安全」になるまで時間稼ぎをする方法もあるということになります。

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コメント

だんだんMIMOが「界王拳」にみえてきました byドラゴンボール

カタログスペックではなく実用性能に注目していきたいです。

90万パワーのダメちゃんWiMAXも、闘いの果てに成長して、火事場のクソ力が発動し1千万パワーを発揮するかもしれませんし。
まだまだ勝負はわかりません

投稿: TT | 2008/04/07 20:27

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