690 北米700Mhz帯:Googleに非難の声上がる/失敗したDブロックで揉める
続きの記事です。
日本より一足先に行われたアメリカの「700MHz帯」の取り合いの結果を巡って、言い合いが発生しています。
◆簡単に再度説明
以前の記事に書いたとおりではあるのですが(過去の記事を参照していただくと幸い)、一応簡単に再度整理しておきたいと思います。
アメリカの700Mhz帯オークション終了、ただし結果はまだ秘密
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/03/707_700mhz_26ac.html
WiMAXの風吹かず:北米の700Mhzの過半はLTE陣営が獲得
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/03/706_wimax700mhz_1356.html
やっぱりLTE:北米の700Mhz帯の使い道が発表される
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/04/703_lte700mhz_efbc.html
700MHz帯というのは、地上波アナログTVの停波にともなって空くことになっている帯域です。日本でもアメリカでももうすぐ空くことになっています。
そして、700Mhz帯は携帯電話用として非常に優れた性質をもっており、そんな一等地にまとまった空きができることなど滅多に無い事なので、非常に注目をされています。
日本では、割り当て自体をどうするかで(そもそも何に使うかというレベルで。携帯電話以外にも使いたいといっているところがあるため)現在揉めているところです。個人的には、一等地を下らない用途に使うのは止めて欲しいと思うので、他の帯域でも十分な用途(車と車の通信とか、単なる無線とか)は全て他所の帯域に移動させて欲しいと思う次第です。
アメリカでは、オークション方式での取り合いが既に終了したところです。結果をごく簡単に説明をすると、ベライゾンという携帯電話会社とAT&Tという携帯電話会社が大半を落札しまして、つまりのところ「LTE陣営」が帯域をほとんど占拠してしまいました。
その後、結果について言い合いがちょっと発生してしまっているようでして、それについての記事です。
◆Dブロックはどうするんだ?
オークションは終わったわけですが、実は「売れ残り」が発生してしまっています。Dブロックという特殊な条件をつけたブロックが落札最低価格に到達しなかったのです。
[WSJ] 700MHz帯競売の売れ残り分をどうするか――米下院公聴会で議論
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0804/17/news059.html
Dブロックというのはどういうものかというと、全米をカバーするペアになった(つまり普通の携帯に使える)帯域なのですが、緊急時には公共の無線のためにインフラを開放するという変わった条件がついていました。
これを思いついた人は、民間も使えるし、民間が整備したインフラで政府は労せずに公共の無線網が使えるようになるというナイスアイディアですよ、と胸を張っていたらしいですが、結果としては大恥ということになりました。
で、向こうの国会でこのアイディアを思いついた人が「めちゃめちゃ失敗しとるやないか!」とまず怒られています。そりゃ自慢のアイディアだったのに結果がこれでは突っ込まれます。
そしてこんな計画が出た背景には、どうやらアメリカの公共無線が機能していないという事情があるようです(あるいはそういう口実で計画が進んでいる)。911やカトリーナの時に無線を使って各機関が連携しての緊急対応を取る事ができなかったので、今後はそういうときに大活躍する無線網を作りたい(繰り返しますが「そういう口実で」ということかもしれません)、でも政府にはお金がぜんぜん無いのでどうしよう、という時にDブロックのアイディアが出されたようです。
しかし結果は大失敗。
そしてそもそもこの計画は話の根底から腐っているので駄目だといっている人たちも居ます。
それらの機関には大昔から十分な帯域が与えられているじゃないか、でもこれまでちゃんと使えるように整備してこなかっただけではないかと。まあ、何処の政府も無駄使いだらけってことでしょうか。たぶん向こうもミュージカル作ったり、マッサージチェアを買ったりしているんでしょう。
結局足りないのはきちんとしようとする気持ちと、そして目先の予算(予算が厳しい事は共通認識)だけだということなら、Dブロックを普通の帯域としてオークションにかけて、その売り上げで既に持っている帯域を使って無線網整備をしたら良いじゃないかという意見もあります。
民間のふんどしでインフラ整備をしようというような腐った考えはやめて、政府の金でちゃんとやるべきだったという話もあるようです。
この話のポイントは何かというと、「どうするかまだ揉めている」というところです。ということは、Dブロックがきちんと決まるのはもうしばらく先になるということです。繰り返しますが、Dブロックは700MHz帯という一等地の一部です。
そして、性懲りも無いというか「折角オークションにしたのに、既存事業者が大半を落札して失望した」という意見も出ているようです。携帯事業はそんなお手軽なものじゃないと言いたいですし、オークションだからこそ既存事業者が大半を取った気がしてなりませんが。「正しい」オークションならば「正しい」結果(その人にとって)が出るはずだと信じていたのに、というのはちょっとまずい思考回路に思えます。
◆Googleが非難される
さて、前からこのブログでもちょっと書いていたことについて、非難する人が出てきました。
「グーグルは700MHz周波数帯域の入札を都合よく利用した」--米下院議員が批判
http://japan.cnet.com/news/com/story/0,2000056021,20371619,00.htm?ref=rss
経緯はこういう感じでした。
・Googleは700MHz帯の割り当てが始まったころから、ロビー活動を強力に開始し、割り当て方針に散々干渉した。
・700MHz帯のCブロックには、日本でいう「MVNO義務」のような条件(オープンアクセスの義務)がつけられていますが、これはGoogleが強く主張したためにこういう条件がついた
・この条件は、落札価格が一定価格以上になった場合に自動で発動する事になっていた
・Googleが700MHz帯でかなり騒いでいたので、向こうのネット小僧は700MHz帯のCブロックは当然にGoogleが落札するもんだと思い込んでいたらしい(そして、落札後はWiMAXで夢のネットワークを作るのだと思っていたらしい)
・ところがふたを開けてみると、余裕でベライゾンが落札していた。ぐっとガッツポーズをしただけで全米のほとんどのCブロック(一部重要ではない地域は無視)はベライゾンのものになっていた。
・Googleは落札価格が必ず「一定価格以上」になるための落札だけを行い、あとは何もしなかった。ベライゾンとの熾烈な争いなんて何も無かった。
Googleはオープンアクセスのルールが発動するギリギリの価格での入札を行います。ベライゾンは本当に帯域が欲しかったので、それよりちょっと高い金額で再入札してGoogleの反撃に備えます。しかし・・・そのあとGoogleは動きませんでした。
落札直後に私はブログで書いたわけです、「自分で帯域を獲得するつもりでいたのなら、何故にMVNO条件のようなめんどくさい条件を自分でつけますか」と。あそこは正義なところだからみんなのことを考えて提案したんだ、と思っていた人も居たようですが、私はそういう考え方は甘いと思うわけです。
また、モバイルWiMAXがはじまるんだと思っていた人も当てが外れました。というか、最初から自分で獲得する気がないのなら、あるいは途中で降りた時点で、ベライゾンから回線を借りることがGoogleの前提となっていました。そして、ベライゾンが帯域を獲得した場合LTEに使う事は周知の事実でした。GoogleもLTE前提だったわけです。
「Googleはこのシステムを巧みに利用することに成功した」と述べたUpton氏は、この要件はFCCによる「ソーシャルエンジニアリング」的な企てであり、これによってFCCはさらに数十億ドルの歳入を得る機会を失ったと指摘した。
FCCというのは電波の割り当てなどを行うアメリカの役所みたいなところだと思ってください。
「さらに数十億ドルの歳入を得る機会を失った」というのは、Googleが変な条件をつけさせたので入札を嫌がる企業がでたと考えられるためです。そんな変な条件がついた帯域なら落札しないよ、というところがあったに違いないという意見です。たしかに、Googleが飲ませた条件は落札者にとっては面倒な条件です。
Cliff Stearns氏(共和党:フロリダ州選出)とJohn Shimkus氏(共和党:イリノイ州選出)の両下院議員もこのUpton氏の意見を支持し、FCCがGoogleに「一杯食わされた」のではないかとの疑問を提起した。
この件について責められるべき立場の人(一杯食わされた責任者)はこう言い訳しています。
FCC議長のKevin Martin氏は、この要件の目的は入札を妨げることではなく、ネットワークに関する消費者の選択肢を確実に増やすことだったと語った。
まあ、そういう風に説明するしかないでしょう。
そして問題の源の反論も、またどこかで見たような意見です。
Googleは、700MHz周波数帯を獲得する意思はあったとしながらも、オープンアクセスルールが確実に導入されるようにすることが入札に参加した主な目的だったことを認めている。
「このオークションで大きな勝利を収めたのは、どの企業でもなく、消費者だ」とGoogleの広報担当、Adam Kovacevich氏は声明で述べている。「このオークションによって、米国の国庫に記録的な金額が振り込まれただけでなく、Googleの入札による直接的な成果として、無線サービスを利用する消費者には歴史的な新しい権利が与えられた。どのような点から見ても、これは消費者にとって大きな成功であり、その実現を促す役割を果たしたことをわれわれは誇りに思っている」とKovacevich氏は記した。
「消費者の勝利」だそうです。
◆鵜飼の鵜
私は過去の記事でこれと似た状況が日本で発生しうる事を懸念する記事を書いていました。
以下は日本の少し前の話です。2.5GHz帯の獲得戦終了「後」になぜかMVNOの条件をどのように変えるか、というような面倒な事があったために、落選陣営から言いたい放題の条件が出るという事件がありました。
「MVNO条件」で2.5Ghz場外乱闘が再発 / 「事後の正義」は頂けない
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/01/760_mvno25ghz_9bf8.html
上記の話自体については、結局先日になって、総務省が落選陣営の言いたい放題の条件を実質的に全て却下するという対応をしたため、なにも起こらずということになったようです。
上記の記事にはこう書きました。
・「国民にも財産の一部が落ちる」(自分の懐にも財産は落ちる)ことをもって、正義であると言い張るのはどうだろうか
・他人に帯域を獲得させて、それに破格の条件で貸し出しをさせれば、自分で帯域を取るよりよっぽど良い。自分で冷たい水の中にもぐらずに、鵜に魚を取らせて、取った魚は自分が横取りするのが一番楽。
・そんな事ばかり横行すると商売が全体的におかしくなってしまいます。
これもそんな感じかもしれません。
--
一応書いておきますと、私は今回の件は「Googleは上手くやった」と思っています。結果としては、そんなもんだろうと思います。ただし、こういう不満も出て当然です。
Googleがもし自前で帯域を獲得していた場合には「携帯電話事業はそんなに甘くないぞ」とか「これで事業全体が傾く可能性もでてきたかもしれませんよ」と言うようなことを書くつもりでした。そしてやっぱり、自前で帯域を獲得するような不必要にリスキーな事をしませんでした。Googleの本業が何かを考えると、大変なリスクを負って本業ではない携帯事業に自ら手を出すのは変ですから。
ただし、それならば「帯域を獲得するつもりである」ではなく、「帯域を開放して欲しい」と言っているだけならばこういうことにはならなかったはずです。そういう主張では帯域が借りることができる状態になるのか解らない状況だったので、実は仕方が無かった、というようなことがあるような気もするのですが。
ただ、本気で「期待」していた人にはかなりガッカリしている人も多いのではないかと思ったりもします。
--
ちなみに欧州ではMVNO義務化は消滅の方向だそうです。世界はいろいろです。
MVNO義務化は消滅,欧州委員会が既存事業者への規制緩和へ
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080208/293313/
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント