749 続き:モバイルWiMAXを嫌っている/避けている陣営
前回の記事(以下)の続きです。
750 読めばわかる(はず)「WiMAX陣営の代表四社」
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2008/01/750_wimax_6ea6.html
前回は、WiMAXの代表的な四社について書きました。予告どおり次は「(モバイル)WiMAXを嫌いな陣営」について書きたいと思います。
◆まず一覧
まず、記事に書こうと思っているものを先に列挙したいと思います。
・クアルコム
・エリクソン
・中国政府
他にも、モバイルWiMAXから距離を取っている陣営についても書きたいと思います。
◆クアルコム技術帝国
クアルコムは通信キャリアではありません。また、クアルコムは端末を作ったり基地局を作ったりしません。技術開発を行ってクアルコムの技術を利用する端末やキャリアのためのお膳立てをし、他陣営に対しては特許料を要求することで君臨しています。
クアルコムは多数の通信技術の特許の要所を押さえています。とりあえず第三世代(CDMA)については事実上クアルコムの完全制圧下にあります。
かつて、第三世代携帯が世界に登場しようとしたとき、クアルコムが開発をしようとしたCDMA2000と、世界中のいわば古参キャリアの多くが束になって開発しようとしたW-CDMAがありました。世界中の古参が結集した陣営に新参者のクアルコムが勝てるわけが無いとか、クアルコムの特許は突破できるだろうという見方もあったようですが、結局のところW-CDMA陣営もクアルコムの特許の影響範囲から逃れる事は出来ませんでした。
(日本での)第三世代の序盤の戦いではCDMA2000の圧勝となります。日本ではAU大躍進とFOMAの悲惨な状況が「技術の差」でした。AUの躍進はクアルコムの「力の証明」でもありました。
第三世代の技術が枯れて安定してきた最近ではW-CDMA陣営の方が勢いを増してきていますが、しかしながらW-CDMAだろうと結局はクアルコムの特許から逃れられない点は変わりありません。クアルコム様への支払いは続きます。また、第4世代や3.9世代の技術についてもクアルコムは数々の重要な特許を押さえていると見られます。
◆クアルコムとモバイルWiMAX陣営との軋轢
クアルコムは事あるごとに公然とモバイルWiMAXの技術的問題を指摘しつづけています。その事に関連して以前記事にしています。
781 モバイルWiMaxは筋が悪いらしい、改良予定だそうだが・・
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2007/10/871_wimax_f28b.html
モバイルWiMAXは世間では持ち上げられていようとも、その実態は駄目技術であり採用してはいけない。というわけです。そして、モバイルWiMax陣営からの明確な反論は無く、インテル自体が「3G携帯の補完用に使ってください」(単独では使えないことを認めているような形)と言っている始末です。
モバイルWiMAXには改良版が出る予定があるから大丈夫だ、だからクアルコムの批判は不当だという意見もあるのですが、現在存在しない、あるいは当面存在しないものを前提にすれば何でも言えるともいえます。
また、クアルコムとモバイルWiMAXの間にはそもそも揉め事があります。
まず最初に、モヤっとしたものをモヤっとした感じで書きます。
モバイルWiMAXに対して熱狂的な主張で、なぜか同時にクアルコムに対しての強い不満も主張されている状況を見かけたりしませんでしょうか。つまり、まるでクアルコムが悪い事をして稼いでいるかのような言いようで、モバイルWiMAXはその悪事を無くす救世主、というような主張です。このパターンの主張がなぜかあちこちで目立ちます。
この変な空気はクアルコムにとっては穏やかな事ではなかったことでしょう。
ちなみに、2.5Ghz帯の騒動で、次世代PHS/ウィルコムに対してこの種の変な意見が散見されたような気がしますので、解りにくければそれでご理解ください。
モヤっとしたものを片付けたので次に行きます。
◆802.20委員会
次に、IEEEの委員会でのトラブルがあります。
WiMAXは「IEEE802.16委員会」というところで取り扱われています。これは簡単に言うと「固定」の高速通信の委員会だと思ってよいでしょう(ちなみに「IEEE802.11」は無線LANの委員会です)。IEEE802.16はつまりモバイル用の規格の話し合いをする場所では無かったのですが、話が膨張した挙句にモバイル用の規格を決めてしまう事になります(モバイルWiMAX:IEEE802.16e)。
本来、モバイル用の技術を決めるところは別にあって、「IEEE802.20委員会」というところが該当します。ここでは、「クアルコム(とクアルコムが買収したフラリオン)の次世代技術」と「京セラ(とアレイコム)のiBurst」が取り扱われていて規格として決まることになっていました。ところが、802.20委員会に、802.16委員会関係者からの嫌がらせが行われて委員会の作業が止まってしまうという事態が発生します。
802.16委員会関係者が802.20委員会に入り込み、進行を止めたり混乱させるようなことをしたり、クアルコムによる独裁的な運営が続いていて不公正であると騒いだりすることがありました。そして802.20委員会は「活動の一時停止」状態になります。これは「前例の無い」ことで、異例な事態でした。
これが前例の無い非常識な妨害による結果なのか、クアルコムが前例の無い非常識な運営をした結果なのかについてそれぞれが言い合う形となりました。またその頃は、世界はモバイルWiMAXバブルの最中で、802.16eは注目される一方、802.20委員会は限定された勢力だけが残っているような状況でした(騒動になるまでは)。
この件についての各種記事は「だれから情報ソースを得たか」あるいはもしかすると「誰のために記事を書いているか」で内容が偏っているのでニュースの引用は迂闊に出来ません。そこで、今回は「クアルコムについて書いている」わけですから、クアルコム自身の発表から引用する事にしましょう。
クアルコム日本の発表(PDF注意)
http://www.qualcomm.co.jp/media/pdf/WEB_Vol_19_Jan2007.pdf
IEEE802.20の動向2006年11月に、一時中断していたIEEE802.20技術の標準化作業が再開されました。この会合においては802.16eにてWiMAXを推進しているグループが多数のメンバーを派遣し、標準化作業を遅延させる行動を取っています。しかし、現時点では作業は順調に進み始め、今後の活動方針の提示が待たれています。
とりあえずこれは「クアルコムが怒っていた」ことは解っていただけだのでは無いでしょうか。また、こういう記事もありまして、
クアルコム山田社長、WiMAX陣営を「彼らはギャンブルに出ている」と批判
http://ascii24.com/news/i/topi/article/2006/09/06/664415-000.html
一方、説明会に同席したクアルコム・ジャパン代表取締役社長の山田純氏は、WiMAXに賛意を示している韓国サムスン電子社、米モトローラ社などを「携帯電話におけるインフラビジネスに脱落した人々」と酷評。技術的な観点よりも、ビジネススタイルを優先した(先行投資による市場支配を狙った)一種のギャンブルであるとした。また、WiMAX陣営のリーダーシップを取っているインテルに関しては、「インテルは『WiMAXはCentrinoのようなプラットフォームとして、ラップトップに標準搭載される』『インフラさえ整えば、端末は自然に普及する』という理解を与えているが、これは疑問」とした。ラップトップに内蔵する通信機能に関しては「(IEEE 802.20にこだわらず)現在の3G対応モデムがよりリーズナブルな価格で、標準搭載されればいいというスタンス」と話す。
これも完全に怒っております。
もともと当時の世間の空気は、モバイルWiMAXバブルが全力稼動中で、802.20は風前の灯だとか言われたりすらしていましたから、劣勢の陣営にここまでする必要があったのかどうか。劣勢ゆえか自信からかクアルコムは、モバイルWiMAXは平均点以下どころか及第点未満の技術で、一方で802.20は優れた技術だと主張しているので、これが気にいらなかったのかもしれませんが。
とりあえずクアルコムがモバイルWiMAXにとても冷たい理由(経緯)はおわかりいただけたでしょうか?
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長くなりすぎたので続きは(おそらく)次の記事で。
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コメント
ためになる記事で、興味深く読んでいます。
現在クアルコムが掌握している3G特許ですが、次世代PHSの特許はどんな感じになってるんでしょうか?Wimaxと同程度の状況なのかなーと思っていますが、それともウィルコムのほうで抑えている範囲もあるんですかね?
投稿: | 2008/01/29 07:49
WRRRYY!
クアルコムの技術は世界一IEEE!!
WiMAX 貧弱ゥ貧弱ゥ・・
3Gにも及ばなIEEE!!
無駄無駄無駄ァァッ・・
て感じでクアルコムにはバブル退治に頑張ってもらいたいですね(笑)
ワンセグバブルもメディアFLOでオーバードライブしてもらいたいところ。
投稿: TT | 2008/01/30 21:45