876 ソフトバンクがボーダフォンを買収すると、なぜかイーアクセスが困る理由
ソフトバンクのボーダフォン買収がまとまりましたね。
1兆7500億円というとんでもない買収になりました。
この件については、
・ソフトバンクにとってどうなのか
・ボーダフォンにとってどうなのか
・AUやドコモにとってどうなのか
ということはすでにいろんなところで語られています。
(私も以前の記事でちょっと書いています)
しかし、よくよく考えてみると意外な事に気がつきました。
この買収でイーアクセスが困るのです。
◆買収が発表されるまでの「ボーダフォンと新規参入組」の関係
ボーダフォンは新規参入組に回線を貸す予定でした。
というのも、ボーダフォンは第三世代への早期移行計画に失敗し、今でも大半のユーザーが第二世代を使っているために、第三世代用の帯域が余り設備が遊んでいるのです。
遊んでいる回線はお金を生みません。
古くなって痛んでいると思われる第二世代の設備をいまだに使わなければならなくなっている一方で、新規に整備した第三世代の設備が遊んでいるのは、買収を行ったソフトバンクの難題になる事でしょう。
ボーダフォンが遊んでいる第三世代の設備を有効利用する方法として考えたのが、MVNO、つまり「他社に回線を貸す」ということでした。
MVNOはすでにウィルコムが行っています。
b-mobileというブランドで定額通信が提供されていますが、これはウィルコムの回線を借りて「他社が独自のブランド」で定額サービスを提供しているものです。
消費者(というか、細かい事まで調べない消費者)にとっては、ウィルコムの名前で提供されているサービスではないので、「b-mobileが自前」で提供している定額サービスに見えるというわけです。
ボーダフォンは余っている第三世代の収容能力を貸す予定でした。
そしてその相手は、携帯の新規参入組のソフトバンクとイーアクセスでした。
◆なぜ借りるのか?
ここまでで、ボーダフォンが「回線を貸したがっている理由」について説明しました。
つまり、設備が遊んでいるから貸してでもお金を回収したいというのが理由でした。
では、借りる側の事情とは何でしょう?
新規参入組はゼロからエリア整備を行わなければなりません。十分なエリア整備には時間がかかります。しかしながら、十分なエリア整備が済むまでにはかなりの時間がかかります。エリア整備が終わるまでサービスインを待っているわけには行きません。
しかし、エリア整備をしながら順次サービスインする方法では、すでに全国展開をしている既存他社とエリア面で比較されながらの厳しいスタートとなります。
なかなか困った状況です。そして、新規参入組のこの悩みに手を差し伸べたのがボーダフォンのMVNOでした。
つまり、ボーダフォンは余っている回線を有効利用でき、新規参入組は初期のエリアカバーの不安を取り除けるというわけです。両者にとって悪い話ではありません。
実際、ソフトバンクもイーアクセスもボーダフォンから回線を借りることになっているようでした。
これを「新規参入組とボーダフォンとの提携」と思い込んでそういう記事を書いてしまったマスコミも結構あるわけですが、実際には提携ではなくて一時的打算にすぎませんでした。
ボーダフォンとしては、第二世代から第三世代への移行が順調に進めば回線を貸している状況ではなくなります。また、新規参入組は「儲かる人工密集地域」から自前でエリア整備を行って、儲からなくてエリア整備のお金がかかる地方はボーダフォンから借りたままにするというようなことをしようとすることでしょう。
そして、新規参入組に「都合のいいところだけつまみ食いされていて損をしている」とボーダフォンが思ったら、回線値上げも行われたことでしょう。
そもそも新規参入組との競争によって打撃を受けるのはボーダフォンも同じですから、最初から仲良くするつもりは無かったわけです。
◆ところが
ところが、急に決まった見られる買収でいきなり話が変わってしまいました。
以前から水面下で買収の話が進んでいたとは思えません。なぜなら、ソフトバンクの自前での新規参入への動きも進んでいましたし、これらMVNOの話も進んでいる事が知られていました。
もし、買収前提で考えているのならそんな無駄な事はしなかったはずです。
ここしばらくの間に、ソフトバンクの孫さんに重大な心境の変化があったに違いないのです。
より野心的になったのかもしれませんし、自前でのサービスに強い不安を感じたのかもしれません。
このブログも過去の記事で帯域不足についての不安について書きましたから、不安が原因だとするなら当ブログも買収決定への一助を担ったのかもしれません。
突然決まった買収で困ってしまったのはイーアクセスです。
ボーダフォンはソフトバンクになってしまいますから、回線が借りれなくなってしまいました。
イーアクセスは早期の全国展開が出来なくなってしまったという事です。
最初は利益の出やすい東京などだけで基地局整備を行い、大半なボーダフォンに相乗りする計画であったように思われるだけに、この買収の話でイーアクセスの事業計画は根本的に崩壊したのではないか、と私は考えています。
回線を借りなければ、当面は首都圏前提サービスというような事になるでしょう。あるいはエリア整備に長い時間を費やしたあとでのサービスインになる事でしょう。
ソフトバンクから回線を借りることも出来ましょうが、なかなか厳しい条件になるのではないかと思います。
ドコモが貸す理由はありませんし、AUにも貸す理由がありません。
借りるというよりも他社の軍門に下る形でならありえるかもしれません。イーアクセスの1.7Ghz免許を持参金として。
他のMVNOの提供主としてはウィルコムのみです。ウィルコムにはMVNOの実績もあります。
しかし、ウィルコムとイーアクセスは通信方式が全く違いますから、もしMVNOをするとしてもかなり特殊な電話機を用意しなければならず、難しい事でしょう。
イーアクセスの社長は実はウィルコム(旧DDIPocket)出身だったりする事実はあるのですが、ここしばらくの間イーアクセスの社長はマスコミに出るたびにウィルコムの悪口を言い倒している状態でありまして、もしウィルコムから回線を借りる事になるなら、友好的にというわけには行かないでありましょう。
また、ウィルコムは現在非常に好調なので、昔のように積極的に回線を貸すつもりも無い事でしょう。
まあそもそも、通信方式が違いすぎるのが最大の障害ではありますが。
というわけでイーアクセス、私の想像ではかなり困っているのではないかと思われますが、実際のところいかがでありましょうか?
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
イーアクセスがボーダフォンとローミングの交渉をしているのは知りませんでした。てっきり,イーアクセスはドコモねらいだったと思っていたので。ドコモは乗り気ではないみたいですね。今のところ,この件に関して,進展を思わせるニュースはないので,うまくいっていないのでしょう。ボーダフォンもソフトバンクが買収してしまった以上,ローミングをしてもらうのは,かなり難しいですし。
実際に音声サービスを始めるのは2008年4月なので,まだ,時間はありますが,ローミングをしてもらえない場合は,通話エリアも限られ,穴だらけのネットワークで,イーアクセス使えねぇ,という評価になってしまう可能性も十分井あります(初期のPHSのように)。また,音声サービスで戦う場合,日本では高機能端末をそろえるのが不可欠ですが,イーアクセス向けにそういった端末を提供してくれる会社があるかどうか。データ通信も提供するようですが,こちらに関してはアイピーモバイルというライバルがいるので,なかなか厳しい戦いになるでしょうし。
最初のうちはバラ色の未来があるように思えましたが,実際考えてみると,イーアクセスの携帯事業はかなり厳しいものになりそうです。
投稿: すやま | 2006/03/20 11:39
はじめまして
ずっとROMっていたのですが、ちょっと書き込ませていただきます
こういった回線構築・維持に関する話で気になるのですが
そもそもの回線構築コストってのは、どの程度の規模なんでしょう
例えばWILLCOMは年商2000億円規模ですけど
全国レベルの回線を構築・維持しています
まぁ、しばらくはISDN回線をバックボーンとしていましたが
今は、ほぼ自前の網ですよね?
一方携帯各社は、兆の売上のレベルで全国回線を持っています
でも、そのうち回線コストはいくらくらいかけているのでしょうか?
WILLCOMは売上から考えても、年間数百億なんて投資はきついはずです
でも携帯各社なら、数千億の規模でも問題ないはずです
…たしかVは年間2000億程度かけて3Gを強化していると
どこかで読んだ記憶もあります
携帯電話方式は、回線構築にすさまじいコストがかかると思います
新規参入業者は、そこまでの体力を本当に持っているのか疑問なんですよ
WILLCOMは全国展開で10年ほどサービスを提供しても
やっと400万人程度の顧客数で、収益もそれほど多くありません
新規参入業者はMVNOができなくなると、何もできないのではありませんか?
通話・メール・データの定額で5000円というWILLCOMの水準
これでやっと400万ユーザー・純増8万人オーダーです
まったくの新規がここまで到達するかも疑問ですし
全国回線がなければなおさら、純増数などわずかでしょう
各電波通信方式ごとの回線整備総コストがいくらくらいなのか
記事になるようでしたら、読んでみたいと思います
ではでは
投稿: あおい | 2006/03/20 14:45