898 ドコモのPHSが終了する理由
とうとう公式にNTTのPHSの終了が発表されました。
停波予定は2007年の秋~冬だそうです。
以下そのニュース
ドコモ、PHSサービスを終了──2007年度第3四半期めどに
NTTドコモ、2007年秋頃にPHSサービス終了へ
ドコモがPHSサービス撤退へ
上記のニュースは「撤退」としかかかれておらず、その背景などについては何も書かれていません。
先日、
904 Docomoが、PCでのデータ通信定額を実現することが難しい理由
という記事をポストしたばかりなので、この流れで「なぜドコモのPHSは終了するのか」ということをちょっと書いてみたいと思います。
ちなみにこのニュース、@FreeDも終了してしまうということです。
◆「PHSだから終了するのはあたりまえ」というわけではありません
NTTのPHSが終了する、という話をきいて「そんなのすごくあたりまえのことで、いまさら何も語ることも無い」と思われると思います。実際、上記のニュースについてもそのような感じです。
しかし、ウィルコムも基本はPHSですよね。ドコモのPHSもPHSです。
ウィルコムは勢いに乗って携帯各社を相手に健闘を続けています。
つまり、「PHSだから終了した」というだけでは無いのですね。
なぜこんなことになったのか、ということについてちょっと書いてみたいと思います。
◆かつての携帯vsPHSの戦い
PHS各社の苦難の歴史には各種の教訓が満ち満ちています。
しかし、「こうだ!」と一刀両断できるような教訓ではないので、いまさらですがPHSの歴史をつらつらと書いてみたいと思います。
もうずいぶん前のことですが、携帯とPHSが熾烈な競争をした一瞬がありました。
今では想像もつかないことですが、PHSは「光り輝く最新技術」として期待され、登場後には日本で急速に普及して日本中はPHSを使っている人だらけになる予定でした。
少なくともメディアは「PHSで将来はこうなる」という風にしていました。今騒がれている、アレもアレももしかすると・・・
PHSは非常に安価で小型の基地局を、日本中にびっくりするほど多数配置するという計画でした。
携帯電話の基地局が小屋一軒+巨大鉄塔だったりするのに対し、PHSの基地局は電柱にくっつけたり電話ボックスにちょこっとつけたりできるくらいの超小型基地局で、「小さくてどこにでも配置できる」基地局で日本を埋め尽くす予定でした。
NTTのPHSはこの「当初のPHSのコンセプト」を忠実に実行した会社でした。
ですが、実際には
A:基地局の能力が低すぎてエリアが面的に穴だらけ
B:基地局の能力が低すぎて建物の中が圏外
C:ハンドオーバーしなかったので、移動したらすぐに切れた。
という利用者の不満が噴出し、携帯電話の怒涛の値下げ(というのも携帯各社がPHSに恐怖して必死で対抗値下げしたのです、それくらいPHSは恐れられていました・・今では考えられません!)と相まって、PHSは解約の嵐に見舞われます。
PHSの整備が進んでいないうちにPHS端末の一円投売り合戦になってしまったからダメだった、という今でも根強いタラレバがありますが、それはAの問題点しか解消しません。
おそらく消費者が携帯電話に求める品質について、きちんと理解できていないまま技術仕様を作ってしまったのが原因でしょう。
◆その後
その後、DDIPocket(ウィルコム)が技術改良をして大勝負を挑みましたがPHSの烙印に勝てずに大失敗、一方でNTTのPHSは地道な基地局整備を続けましたがこれも結局はダメでした。
このままだとPHS各社は全て滅びるのは時間の問題のはずでしたが、DDIPocket(ウィルコム)がさらに技術改良(といって良いかは語弊がありますが)を行って、AirEDGEをスタートしてこれがPHSで初めての大ヒットになります。そして携帯電話各社のPC向けデータ通信計画に大きなダメージを与えます。
その後、DDIPocket(ウィルコム)は音声の絶不調とデータ通信(AirEDGE)の大好調の奇妙なバランス、そしてこれまでに費やした莫大な投資の借金を引き受けたKDDIの意向で、しばらく右往左往することになります。
この勢いに乗ってNTTのPHSもデータ通信へのシフトをしたかったところでしたが、無理でした。
コンセプトに忠実に
・小型
・安価
・簡易基地局
を大量配置したNTTに対し
DDIPocket(ウィルコム)はコンセプトを踏み倒して基地局を配置しており、
・小型ではない
・安価ではない
・簡易基地局ではないどころか携帯電話の基地局よりも一部高性能
この「PHSとしてはかなり余分にハイテク」な部分を最大限に使ってサービスしていたからです。高性能基地局の能力とPHS規格の解釈次第の部分をフル活用した、ある意味無理矢理とも言えるウルトラCによって実現されたのがパケット定額(AirEDGE)でした。ポイントは基地局への設備投資をせずに実現できたという点です。
NTTのPHS基地局にはそんな「無駄な能力」が備わっていませんでした。だから、後追いは全然無理でした。
NTTのPHSもその後知恵を絞ります。
基地局がダメなら、基地局がそのままで定額にする方法を考えよう。
そしてデータ定額の@FreeDをサービスインしますが、時期既に遅しでした。
そして、あれだけ真面目にエリア整備を続けていたにもかかわらずエリアが不評、そして基地局をそのままでの定額であるためにやっぱり利益を出すことが非常に難しいサービスとなって赤字を垂れ流してしまいます。
ウィルコムと携帯電話に行く手を阻まれ、そのうち万全に整備されるはずのエリアも整備される日が来ることはありませんでした。
そしてとうとう停波となります。
◆紙一重
PHSは技術を作った時にそもそもいろいろな読みが間違っていました。
消費者はより完全なエリアカバーを望みました、超小型の基地局で日本中カバーできるほど甘くはありませんでした、あるいは予想外に小型の基地局のカバー能力がありませんでした、そして携帯電話が値下げすることを読み誤りました。
そしていろんな変化に耐えうる柔軟性と余分な能力を持っている(悪く転べば無駄の多い設備投資をした)基地局を整備したウィルコムが、PHSの読みの甘さを事後カバーして何とか踏みとどまり、一方でPHSにぴったりフィットしたNTTのPHSは消え去ります。
ウィルコムの勝因はPHSとしてはかなり大げさな基地局を整備したことでした。
基地局はビルの屋上などに四本のアンテナ(最近では鳥かごのような八本のものも出てきた)が立っているもので、四本のアンテナは電波の指向性(電波を飛ばす方向)を瞬時に動的に変化させる能力があります。
そして、基地局のハードウェア的能力の一部がソフトウェア的に書き換え可能になっています。つまり、工事をしなくても遠隔で基地局の能力を変更できるようになっていました。
PHSのその後を見る限りは当初から将来を見越した慧眼となりますが、PHSがPHSの規格であるだけで成功したとするならば無駄に豪華な基地局です。
結果論としては正しかったのですが、クリーンヒットというよりはポテンヒットという感じでもあります。紆余曲折の末にどん底から復活を遂げるという展開は、話としては面白いし、復活の原因になった気の効いた(効きすぎた)基地局も面白いんですけどね。
#プロジェクトXにしたら抜群に面白そう
ともかくドコモのPHSは終わりに向かいます。
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895 続き:Docomoが、PCでのデータ通信定額を実現することは難しいけれど
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コメント
最後の2行は私も同感です、NHKのその番組も終わってしまいましたが…最後の1回くらいでやって欲しかったネタでしたね。
投稿: あゆ | 2006/02/01 22:46