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904 Docomoが、PCでのデータ通信定額を実現することが難しい理由

この記事を書くきっかけになったのは、
NTTドコモ データ通信に定額制 無線ネットが使い放題
という記事を見かけたからでした。

この記事は1月14日のニュースで、その後他社からの続報も無いので、「これは誤報っぽい話なのだ」ということはみんな解っているのだろうとおもっていたのですが、残念ながらそうでもないらしい事がわかってきましたので、

・どうしてこのニュース(PCでの定額開始など)が実現困難な話に見えるか

ということについてちょっと書いてみたいと思います。
話としては一通りまとめたつもりなので、ちょっと長いですが読んでいただければと思います。

#後日追加:この記事に補足の続きを書きました(記事末尾参照)


◆元のニュースの内容を整理する

元のニュースがわかりにくいのでちょっと整理してみたいと思います。

元のニュースが言っていること。
・NTTドコモが今年の夏にHSDPAという新技術をサービスインする。
・HSDPAは最大速度14.4メガで、ADSL並みである。
・HSDPAで、PC接続向けの定額サービスも用意したい。月数千円で利用できるようにしたい。
・AUも追随してくる(と読めてしまう)

これを読んで、「これは夢のような新サービスだ」と思ってはいけません。
私が思うに、これは夢のような・・ではなくて夢のままに終わります。
この記事を読んで直感的に思うようなサービス(つまりADSLの代わりになるような高速定額サービス)は実現が困難だからです。


◆なぜ困難か

まず、記事では(読みかた次第ですが)ドコモのHSDPAを追いかける立場のように思えてしまうAUですが、実はすでにHSDPAと同等の技術をサービスインしています。実はこういう感じなのです、

・HSDPA≒EV-DO(いわゆる「WIN」)
・HSUPA≒EV-DO Rev.A

かなり前(2004年11月?)に、AUが「ブロードバンド携帯」「パケ代定額開始」と盛んにCMを行っていた頃があったと思います。「WIN」が始まった時です。
HSDPAやEV-DO(WIN)は3.5世代と呼ばれる同世代の技術で、実はAUはとっくの昔に3.5世代をサービスインしています。今年の夏だとしても、ドコモはこの変化の早い携帯の世界で二年近くも遅れをとっていることになります。

では、なぜにすでに3.5世代に突入して久しいAUがPCでの定額を行わないのか?
それは技術的に難しい点があるからで、これはドコモのHSDPAも同様なのです。

なぜかというと、それは「PC定額にすると絶望的に速度が出ない」からです。
既にサービスインしているAUを例に説明してみましょう。

WINは「最大速度2.4メガ」ということになっています。それだけ速いならPCで定額サービスを開始しても何ら問題ない・・ように思えます。
しかし、この「最大速度2.4メガ」は、
・A:電波状態がありえないほどの理想的状態での最大速度
・B:1通信あたりの最大速度ではなくて、基地局あたり(正確には1RFあたり)の最大速度

まずAの点について。
「最大速度2.4メガ」と名乗っているWINを実際に通信させて速度を調べてみると、場所を変えたり時間を変えたりしてがんばっても800K(0.8メガ)ぐらいしか出ません。
実際には800K出ることも珍しいことで、「800K出ました」なんていうと「そんなに出るなんてウソをつかないでください」とさえ言われます。実際に期待していいのは400Kくらいなのかもしれません。

次により深刻なBの点について。
これは意味がわかりにくいかもしれませんが、実は「2.4メガ」は一人あたり2.4メガではなくて、「基地局に繋いでいる利用者全員で2.4メガ」だということです。
もし二人の人間が通信していたら、通信帯域は二人で取り合いになります。五人なら五人で、10人なら10人で取り合いになります。そしてそのぶん速度は落ちます。

先に示した800kは「一人で基地局を占有できた場合」の速度です。誰かが使っていれば100K前後になることは珍しくありませんし、混雑時間帯は50Kや30Kのような非常に遅い速度にまで低下します。

AUはPC定額をしていないばかりか、パケット量が増えることに非常に神経質です。例えばアプリのデータ通信量を制限したり、着歌のビットレートを低いままに保ったりして混雑が起きないようにかなり気を配っています。
にもかかわらずこのありさまです。

もしPC定額を導入したらどうなるかといいますと、現在の「混雑時間帯」を越える混雑が一日中続くことになります。スペック上は2.4メガでありながら、例えば通信速度10Kというような大変なことにもなります。懐かしきテレホーダイのアナログモデムよりも遅くなることでしょう。

さて、どうしてPC定額が難しいかわかっていただけたでしょうか?
定額とまともな通信速度の両立はほとんど不可能というわけです。


◆さらに追い討ち

厳しい話はさらに続きます。

HSDPAの「理論値14.4メガ」は将来におけるスペックで、今年の夏のサービスイン時には「理論値3.6メガ」でスタートします。ですから、(理論値3.6メガながら実測値は)1メガ程度の帯域の奪い合いになることでしょう。

AUの方が速度が遅いように思えるかもしれませんが、AUは「電波帯域1.25Mhz」を消費して理論値2.4メガを達成しています。ドコモは「電波帯域5Mhz」を消費して理論値3.6メガ(将来14.4メガ)です。つまり、ドコモはAUの4倍の電波を使っています。
オマケ:話題のiBurstは5Mhzで24メガ
896 iBurstって「第二世代」なんですよ、知ってました?

そして電波を多く使うことが更なる問題を生み出します。
ドコモのFOMAに割り当てられた周波数帯域は15Mhzしかありません。そして「HSDPAの5Mhz」というのは、三分の一にも相当してしまいます。
5MhzをHSDPA専用にしてしまった場合、音声通話に使える周波数帯域が10Mhzしか無くなってしまいます。そして、FOMAは街中では混雑してきています。
HSDPAは音声通信と混在させること(周波数帯を共用にすること)もできるのですが、音声通信とHSDPAのデータ通信が互いに干渉してしまって、更なる速度の低下を招いてしまいます。

一方でAUは1.25Mhzしか使いませんから、EV-DO(WIN)は音声との住み分けが容易で、専用帯域で通信を行うことができます。
今後開始されるEV-DO Rev.A(3.5世代をさらに高度化したもの)で何らかの新サービスを始めようと考えた場合も、1.25Mhzさえ用意できれば新サービス専用の帯域を用意できます。ドコモなら干渉覚悟の混在は必至です。


頭の回る方は、それなら基地局をたくさん作ってしまえば良いではないかと思われるかもしれません。
たしかにそれが唯一の解決方法ではあります。
しかし、そうなると莫大な資金が必要になりますし、基地局の増設となると場所の交渉からですから時間がかかります。また、基地局の密度を増やすと都心での通信がさらに不安定になり、FOMAの不評がさらに増します。


◆PC定額はすべきではない

ドコモは資金力では飛びぬけていますから、文字通りの「力技」でPC定額を実現できるかもしれません。
しかし、そこまで無理をしてPC定額をする必要は思いつきません。

最大のライバルたるAUはPC定額をする気がありませんし、ドコモで厳しいならボーダフォンには不可能なサービスです。そしてウィルコムとは顧客層が競合していません。そしてなによりも、これは削りあいの一種なのであって利益を増やす新サービスではありません。
ドコモの顧客は、音声通信主体で「NTTの安心」を買っている客ですから、ドコモが自ら進んでリスキーなことをする理由は思い当たりません。

そこまでして基地局をたくさん作ったところで、通信技術がしかるべきところまで進歩して(通信技術は「第三世代」で終わりではありません)定額が当然期待される状況になれば、大量の旧式設備が残って困るだけです。

新規参入のソフトバンクやアイピーモバイルなどは「PCも定額にする」などと表明しているようですが、ここまでに記したとおり、PC定額にした場合にはまともなサービスは期待できません。新規参入だからどうせ加入者が少ない(電波は比較的あまる)し、新規だから無茶をせざるを得ないから(あるいは技術的無知)、というのが理由だと思います。


◆ではウィルコムは?

ウィルコムはPCでの定額を実現していますが、これは例外です。

PHSは小型安価な基地局を大量に配置して日本中の音声通話の大半を賄うという計画でしたが、計画の見通しが甘かったために予定通りに普及しませんでした。
言ってみればその失敗の後に残されてしまった基地局をうまく再利用しているのがウィルコムです。

音声通話の利用者が計画よりも大幅に少ないために帯域が余っていて、日本中に大量の基地局が配備済みでありながら遊んでおり、なおかつ基地局がの機能をソフトウェア的に書き換え可能になっているなど妙に高性能だった(他社のPHSはここがダメでした)、といういろんな偶然が重なって、PCでの通信定額が提供できています。
あくまでもPHSの失敗の後に残されたインフラの思わぬ再活用から始まったウルトラCです。一から計画されて生まれたネットワークではないのです。

(ドコモのPHSが終了するというニュースがあったので、このことについて記事を書きました。
ドコモのPHSが終了する理由
PHSの顛末についての詳しい話は上記の記事を読んでください)

ウィルコムが発表の度に「定額をするにはネットワークの『厚さ』が大事だ」と言っているのはこういうことを言っています。また、冗談交じりで「顧客の苦情に対応する形で基地局を作っていると結果的にこうなってしまっただけで、今からネットワークを最初から作れといわれたらこんな風にするかどうか解らない」とも言っています、これは偶然の成功の側面も大きいことを暗に認めているということでしょう。

結果的に現時点においては驚異的な収容能力をもつネットワークが出来上がっているわけですが、長い年月をかけて偶然生まれたネットワークでもあるわけで、今から他社が真似してできるものでもないのです。

だから、ウィルコム熱狂関係のブログではこのあたりは冷静に分析されているのかと思ったのですが、そうですね、例えば・・・
NTTドコモがHS-DPAで、PC接続データ通信に定額!?
などを見ると、そうでもないようです。

#意外とみなさん知らないのだなと驚き、というわけでこの記事を書いています。この記事を書くきっかけになりました。


◆結論

結論としては、このニュースは誤報であるか、ドコモの中で技術に明るくない人の思いつきが外部に出てしまっただけだと思います。不可能だとは思いませんが、無理が多い上にメリットが感じられないからです。
そういえばAUの社長は理系で、ドコモの社長は文系ですね。

まともに実現できるサービスならサービスインしていただきたいのですが(進歩はいいことです)、私にはどうにもドコモの既存利用者を不幸にする無理なサービスに思えます。
ドコモでも困難であるのに、携帯新規参入組は(商売上仕方が無いとはいえ)ちょっと調子の良い事を言い過ぎているように思えて大丈夫かなと思えます。


長くなりましたが、みなさん解っていただけたでしょうか?
「なるほど」と思っていただけていれば幸いです。


念のため:

この記事は、「やったー、ADSLを解約するぞー」みたいな勘違いが予想外に多かったので書いてみた記事です。
ですが、記事が原因で「HSDPAって全くダメ」という逆方向の勘違いが生まれてしまったような気がしなくもありません。世の中難しいものですね。

HSDPAが全くのダメ技術に思えてきた方、それもまた勘違いですのでご注意ください。


補足として続きを書きました
895 続き:Docomoが、PCでのデータ通信定額を実現することは難しいけれど
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2006/02/895_docomopc_94cc.html

関係記事
898 ドコモのPHSが終了する理由
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2006/02/898_phs_0100.html
896 iBurstって「第二世代」なんですよ、知ってました?
http://firstlight.cocolog-nifty.com/firstlight/2006/02/896_iburst_52b1.html

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コメント

すっかり信じ込んでしまい、ADSLを解約するつもりで喜んでおりました。

よく考えたら「数千円でADSL要らず」だなんて、そんなこと本当だったらテレビがとっくに大騒ぎ・・

投稿: mimi | 2006/01/29 10:24

3.5Gはモバイル利用に限った話し。
ADSLのリプレースは、WiMaxやiBurstでしょ。
混同してはいけません。

投稿: | 2006/02/01 22:20

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