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単なる思い付きで、長い距離を歩いてみようとふと思った。
大昔よく走っていた道を延々あるいてみることにした、その道のり6キロ。普段の生活ではあまり通らない方向だから、実に久しぶりになる。
長いこと風景は何も変わっていなかったのだけれど、この数年で新しい建物がたくさん出来たり、いろんな工事があったり、いろんなものが閉鎖されてなくなったりしていて、半分は懐かしく、半分は新鮮な気分がする。
道路が大規模に掘り返されていると思ったら、歩道整備工事と書いてあって二車線の車道を一車線にする工事をしているらしい。その分当然歩道は広くなって綺麗になるのだろうけど、でもここは人通りが少なくて危ない方が問題だと思えるから意義がわからない。
工事はいろんな作業を平行して行っているようで、二車線のうち一車線をガードレールでふさいで、一車線分のアスファルトを剥がしつつ、新しい車道と歩道の分離帯を作りつつ、新しい歩道を作りつつ、街路樹を植える・・と、歩いているうちに工事のいろんな完成段階を目にする事が出来た。まるで道路工事の最初から最後までを連続展示してあるかのような眺め。
一番楽しかったのは、新しい歩道部分はほとんど完成しているけれど、アスファルトを貼る前の状態のところ。土の歩道のようになっていて、土の地面の感触と色彩が楽しかった。どうせならアスファルトを張らずに全部こんな感じにして欲しいと思うけれど、雨が降ったらどろどろになるからそうもいってられないのだろう。でも、もうすぐこの上をアスファルトが覆うのだと思うとちょっと寂しい。この歩道を楽しめるのはあと少しだけ。
あちこちに知らないマンションが建っていて、違和感を感じる。昔よく通ったはずの道が何か違うと思ってよく考えると、昔なかった道が出来ている。よく考えて思い出さないと以前とは違うことは解らないんだけど、それでも人間はいろんな事を覚えているものだと思う、私は昔と今が違うことをちゃんと知っているらしい。
昔ピカピカのできたての道路だったり、出来たての駐車場だったり、出来立ての建物だったりするものも、よく見るとみんなもう新しくない。でも私にはそれらはまだ新しくて素敵なはずのものとして思えてしまう、でも良く見るとやはり新しくは無い。知らない間に時間は経っている。
目の前にあるものは新しくない、でも新しくて輝いていたころの記憶が重なって見える。最初は私の記憶を今にあわせようとしたけれど、でももう一度考えてみた。世の中のものは最初はみんな新しくて輝いていたのだろう。だから、古びてしまったものを古びてしまったものとしてしか見れない事の方が本当は不幸なんじゃないだろうか。ならば、他のいろいろなものもこうやって見てあげないといけないんだろう。
何かを見るときには、今ある姿の向こうに、かつてあった姿を重ねて想像することにしよう。
ただただ歩く。
なんとなく走りたくなる。昔はここは歩くところではなかったから、歩くなと言っているのだろうか。ちょっと走ってみる、でもすぐ息が上がってしまう。でも走っている間は心地よい、あるべきことをしている感じがする。でもイメージの中のようには走りつづけられない。走らなくなってから長い間立っているから。
走ってみては歩いてみたりしているうちに、走っているときの爽快感がやってきた。大して走っていないのに。これだけちょっと走っただけで気分が良くなるとは、昔よりも随分経済的になったものだと思って笑う。時間が取れれば、また走る習慣を取り戻しても良いかもしれないと思う。
その後もえんえんと歩く。
見慣れているような見慣れていないような風景を眺めながら、どんどん歩く。
距離が進んでゆくうちに、昔のコースになんとなく記憶が慣れてくる。次に出てくる景色がだんだん当然のように思えてくる。
昔から変わってない建物を見ていても、昔は気がつかなかったことを思うようになっていることがある。昔は知っていたけれど忘れてしまったことをもう一度発見しているのか、あるいはいろんな事が昔より良く解るようになったからなのか。
昔に何回か言った事のあるプールが取り壊されていて、取り壊しがほとんど終わりかけていた。プールがあった面影はどこにもないが、平らになった地面に建設重機が置いてある眺めをみながら、なんとなくあるはずものがなくなったんだなあ思う。
もう少しで自宅につく。
道路をカタカタした変なエンジン音を響かせた車が通り過ぎてゆく。
バス停で女の子が一人でバスを待っている。
自宅に帰ってご飯を造って食べる。
ご飯を食べ終わってから、歩いてきた事をもう一度思い出してみる。
行ってよかったと思った。
今日はそれ以外は普通の事しかしなかった。
あんまりいろんなことは出来なかったけど、今日が私のために役にたちますように。
明日が、より意味のある日でありますように。
また明日
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